CHAPTER,37
大変お待たせしました。読んでくださっている方に感謝です。
CHAPTER,37
「……………………」
おやすみ、とは言ったものの、どうにも目が冴えてしまって寝付けない。ううむ、困ったな。
隣からはマルの規則正しい寝息が聞こえる。昔からマルは寝つきがいいからなぁ。羨ましい。
僕は不意に気になって、マルとは反対の方の隣を横目で見た。男はこちらに背を向けて静かに横たわっている為、起きているのか寝ているのかがわからない。
……サガミを見ていたら、余計に目が冴えてしまったようでますます寝られなくなった。少し考え事でもして、頭の中の整理でもしようかな。
僕の危機管理能力がおかしな方向に伸びているのにはわけがある。あまり気持ちのいい話ではないから、普段は思い出さないようにしているけど、今日みたいにふとした時に思い出してしまう。危機管理能力については、もはや癖みたいなものなんだ。女の人に対しては何ともないのに、男相手だとすぐにそいつがどんな人物なのかの特定を始めてしまう。ずっと前に騎士にそれを話したら「凄い特技じゃないか!」って笑ってくれたっけ。あいつは変な所でテキトーで拘りがなくて好きだ。普通、気味が悪いと思われてもおかしくないのに。
あぁ、もう。考えたら会いたくなってしまった。会っている間は鬱陶しいのに会わないとさみしくなる。なんか、少し前にも同んなじような事考えてた気がするなぁ。このイベントも、多分他のプレイヤーともすぐ合流することになるだろう。それまで頑張れ、僕。
ごろりと寝返りを打って、暫くたつと意識がうつらうつらしてきた。それからゆっくり目を瞑って…………。
「ぅお姉ちゃぁぁあああああん!!!」
「?!」
耳元で爆音がして、強制的に起こされる。なんか……デジャヴな感じ。
「おはよう、マル…………サガミ」
「おっはよー!」
「……おはよう」
どうやら先に起きていたらしい二人に挨拶をすると、元気良く返事が返ってきた(勿論、サガミは普通だったけど)。
お兄ちゃんなのに妹に起こされるなんて、何だか不甲斐ないなぁ。|サガミ(知らない人)と一緒だったのに、少し気が抜け過ぎじゃないのか、もっとしっかりしなくては。
「今日の予定は?」
朝ごはんにサンドウィッチをアイテムボックスから取り出してパクつく。一定時間毎に食事を取らないとペナルティがついてしまうからだ。まぁ、朝昼晩と三食食べてればなんの問題もないんだけどね。
僕の問いに、マルがにっこり笑う。
「勿論、探索ッ!」
デスヨネー。
「お姉ちゃんそっちいった!!」
「あいよ」
短く応えて、飛び込んできたそれに向かって刀を構える。
「[一の型]!」
構えたそれを上から下へ向けて振り下ろす。スキルのお陰でどの体勢から振ってもそんなに体は痛くならないのが嬉しいかな。いや、インドアの人間には結構キツイんだよ? これ……。
体を真っ二つに切られたそれは光のエフェクトとともに消えていく。
「って僕の攻撃力で一撃?! 弱っ」
「……数が、多い」
そう、弱くて多い。それが今僕たちの戦っているモンスター。確か名前はゴーストだったかな、半透明の体で、よくイラストになってるようなのを想像するとわかりやすい。因みにどのくらい弱くて多いかと言うと、強さはホンラビ以下のポップ率はホンラビ以上、って感じだ。
つまり、キリがない。
「うーん、中々に効率の悪いことをしているような……」
ぼそりとぼやいていると、歓声が聞こえる。マルの方からだ。
「おおおおお!! なんか半透明のスライムキター!!!!」
どうやら、新しいモンスターが出たらしい。半透明のスライムって事は、アレかな? この状況から察するに、ゴーストスライム的な……? どんな感じなんだろう、と少しワクワクしながらマルの方を向くと、白くてぼんやりもったりとした、何か。体の真ん中にふわふわ浮いているように見える球体は、おそらくスライムの核か何かなのだろう。もっとよく見ようと近寄ろうとした時には既に遅く、ゴーストスライムはマルの手によって斬り伏せられていた。……この場合マルが強いのかこのスライムが弱いのかよくわからん。
僕もだいぶスキルを使うのにも慣れてきてるし、ホンラビと戦いまくって少しは強くなってるはずなんだけど、戦闘狂には敵わないかぁ。別に超えたいとか思ってないからいいけど。あ、そういえば、思っていたよりもサガミは強かった。本当にこいつVRMMO初心者なのか? と疑いたくなるような体の使い方でモンスターを切り伏せていく。マルとかナイトと同じでプレイヤースキルが高いって言うのかな? 酷い裏切りを見た、と絶望したよ。冗談だけど。
いつの間にかポップしてこなくなった(出来る面積がなくなったということなのだろうか)ゴーストとゴーストスライムを一掃した後、キリの良いところで、今日の分の探索(三エリア)を終了する。イベント期間はまだまだあるし、一気に進むと疲れるからね。
ではここで、このイベントで出てくるモンスターについてまとめていこうと思う。っていうかそろそろまとめないと僕がわかんなくなるんだよね。
まず、ゴースト。外見はさっき言った通り、正統派の(でもどちらかと言うとコミカルタッチである)幽霊って感じだ。ドロップアイテムは"霊の舌"。攻撃力はあまり高くなく、防御力もHPも低い。素早さこそそれなりに高いが、ホンラビの方が断然速いので、西門組にとっては遊び相手にもならない。唯一厄介なのはポップ率。次から次へとポップしていくので、下手をすると攻撃が間に合わなくてそのまま……なんてこともあるのかもしれない。解せないのは物理攻撃がもろに効くってこと。本当にゴーストなの?
次に、ゴーストスライム。多分強さは下の上くらい。普通のスライムと違って白の半透明で、中心に浮き上がった核がぼんやりと光を放っていて中々気持ち悪い。また、これはスライムというモンスターの特性なのか、このスライムも何匹か集まると合体して大きくなるようだった。ドロップアイテムが"スライムゼリー"だったし、物理攻撃がもろに効いたので、もしかしたら本当にゴースト要素は半透明さだけなのかもしれない。
ウォール。まんま壁である。こいつが出て来た時、ようやく名が体を表すモンスターが来て安心したのは内緒だ。攻撃力は低いけど、兎に角堅い。おまけにこいつが出て来ると通路が塞がれてしまうから迷惑な話だ。特に、他のモンスターから逃げてる時とかに出会うと「あれ? ここ行き止まりだったっけ??」ってリアルになるから本当にやめてほしい。てか実際なったし。魔法とかの方がダメージが入りやすいみたいだけど、まぁ物理攻撃だけでもいける人はいける。マルとサガミはいけてたし。……僕? 本当に聞きたい? 因みにドロップアイテムは"石壁の欠片"。
そして何と言っても厄介だったのはゲシュペンスト。簡単に言うと、こいつも幽霊系のモンスターで、どうやらとある条件下でしか出現しないらしいことがわかった。その条件とは、『何処かの部屋一つでゴーストだけをポップ不可まで出現させる事』だ。部屋っていうのは、通路の途中にある少し開けた場所の事で、僕は便宜上そう呼んでいる。ゲシュペンストの見た目は恨めしそうな目をした女の人の幽霊で、直視するとちょっと怖い。怪談とかで引っ張りだこになりそうな、ゴーストとはまた別の典型的なお化けである。ポップして速攻マルとサガミの二人にボコボコにされてたから何とも言えないけど、多分このイベント中に出てきたモンスターの中では今の所一番強いんじゃないだろうか。ちゃんと幽霊系のモンスターらしく物理攻撃もあまり効かなかったし! ドロップアイテムが"霊の薄霧"に加え"霊の舌"もあったことから、ゴーストの進化系なのではないかと思われる。
と、まぁこんな感じだ。暫く粘ってみたけど他のモンスターは出てこなかったから、もしかしたらこのイベントでポップするのはこいつらだけなのかもしれない。この館の攻略を進めればもっと違うモンスターも出て来るかな? 出て来るといいんだけど……主にうちの戦闘狂を静かにさせるために。
「うおー!! もっともっとモンスター出てこぉーい!!!!」
今年度は作者が受験生の為、ますます更新頻度が下がることと思われます。
来年度には復活いたしますので、それまで今暫くお待ちください。




