CHAPTER,32
さゆ姉こと結城白百合は、僕やマルの幼馴染であり、騎士の姉だ。僕より三つ年上で、確か今は東京の大学に通う学生だったはず。さゆ姉は高校を出てすぐ一人暮らしを始めたので、暫くはメールでしか連絡をとっていなかったんだけど……といっても僕から連絡をする事はほぼなかったけどさ。
そんなさゆ姉だが、小さい頃はよく遊んでもらっていた、というか遊ばれてた。さゆ姉のお古のワンピースやらスカートやらをはかされて写真を撮られたりもしていた。勿論後でデータは消させてもらったが。そういえば、その頃はまだ騎士よりもさゆ姉との方が仲が良かったかもしれない。……何でだ…………?
まぁそんなことはいい。それよりも、
「ナイト、お前もさゆ姉が『SevenSevenceOnline』をプレイしてたの知らなかったのか?」
僕の隣りで僕以上にぽかんとしている幼馴染を見た。
「知らなかった……けど薄々マルちゃんが連れてくるのが姉ちゃんだってことは気づいてた。でも…………」
ナイトは言葉を区切りさゆ姉に向き直る。
「まさか、自分の姉ちゃんが"無尽蔵の魔姫"のユリエルだとは思わないだろ!!!?」
おおお、なんか二つ名みたいなのが出てきたぞ。
「何その、ええと、無人口の魔姫? って……?」
「お姉ちゃん、無人口じゃなくて、無尽蔵だよ」
すかさずマルが訂正をいれてくる。無尽蔵ね、無尽蔵…………。
「まぁ、この世界での二つ名みたいなものよ」
あああああ、やっぱり二つ名だったあああああああ。ってか二つ名って……二つ名って……!
「中二病か!!」
「違う!」
笑いを堪えて叫んだらナイトに頭をパコーンと叩かれてしまった。いやぁ、ごめんごめん。反射的に叫んでしまったんだよ悪気は殆どない。
「"無尽蔵の魔姫"といえば、何と言ってもその二つ名の由来にもなった無尽蔵をも思わせる魔力量! β版の時に開かれたPvPのミニイベの予選ではパーティ部門なのにも関わらず相手パーティを一人で壊滅させるという前代未聞の事態を起こしたある種の伝説的な人だぞ?!
……あ、因みにだけど。魔力量っていうのは、スキル【魔力】のレベルを上げることで増えるんだが、それでも魔法職っていうのは後衛職だしスキルレベル自体は上がりずらい。そもそも総合的にほぼ必須スキルと言ってもいい【魔力】は元々インフレにならないように必要経験値が通常よりも多めに設定されてるんだ。だから、普通の魔法職なら一対多の場面では魔力切れになってそこでおしまいのはずなんだよ。勿論壊滅させるなんて以ての外だ」
「おおう、長い解説ご苦労様」
ぱちぱちとナイトに拍手をおくる。
「でもさ、それで何でさゆ姉だって分からなかったわけ?」
「だって私、β版の頃は仮面をつけてたもの〜」
首を捻る僕に、「ふふふ」と笑いかけるさゆ姉。
成る程、じゃあしょうがないな。
「あ、そうだ〜。私こっちの世界では白百合じゃなくてユリエルっていう名前だから、二人もユリ姉って呼んでくれると嬉しいな〜」
ああ、そうか。誰しもがマルやナイトみたいに本名でやってるわけじゃないんだよな。セシリアさんとかプリンセスアンリエッタとかは明らかに違うし……ってか僕もそうだったよ。
「りょーかい、ユリ姉。あ、じゃあ僕はこっちではタカって名前だからそう呼んで」
「了解タカ君。あら、ナイトったらお返事は〜?」
そう言ってナイトの顔を覗き込むさゆ姉……じゃなくてユリ姉。
ナイトは何故か唇を尖らせて面白くなさそうな顔をしていた。
「へいへい。了解ですよーっだ」
おお、ナイトが子供みたいな反応をしてやがる……珍しー。僕の前じゃ何時も大人ぶってるからな……。
「マスターだけじゃないんだからっ! そのイベントで上位に入った人は全員掲示板で二つ名の公募があって、マルやナイトさんのもあるんだよー!!」
急に元気になったマルが拳を握って力説する。しばらく黙ってたからすっかり存在を忘れるところだったよ? 全く、マルはオンオフが激しくて困る。
「じゃあ、マルの二つ名は?」
自分から言い出したって事は言いたいんだろうなぁ、という事でマルの気持ちをくんで聞いてやる。
「マルちゃんのは"戦乙女"で、俺のは"布装備の鉃騎士"」
「もしくは、"猫好き"さんよね〜」
こわっ、マルの二つ名こわっ。イベントで何したんだこいつ……。
「てかあれ、ナイトは二つ名が二個もあるのか?」
しかも鉃騎士と猫好きって……温度差あり過ぎだろ…………。
「それは、ナイトさんがそのイベントの個人の部で優勝した所為で、二つ名の候補が集まり過ぎて結局決まらなかったからなんだよね〜マスター?」
「そうよね〜、怖いわね〜マルちゃん」
ナイトすげええええええええええ、なんだけどマルとユリ姉がお互い顔を見合わせて「ね〜」なんてやってるもんだからナイトがどんどん不機嫌になっていく……! やっぱりユリ姉と一緒の時は年相応だ……!
「なんだよ、パーティ部門の方ではそっちは準優勝だった癖に……自分達だって大概だろ」
なんだ、結局みんな凄いんじゃん!! もしかしてもしかしなくても僕って割りと凄い人たちと一緒にいるんじゃ……。
あ、ってか何か大切な事を忘れているような…………何だっけ……?
ギリギリセーフでした……!
今日(昨日)で確かちょうどこの小説を書き始めて一年が経つんですよね((ちゃんと確認しろよ
ぐだぐだな感じでここまできてしまいましたが、お話としてもまだまだ序盤なので、是非今後ともお付き合いいただければと思っています。これからもよろしくお願いします( ̄^ ̄)ゞ




