CHAPTER,26
はじまりの街のボスであるベルゼを倒してからはや一週間。なんとベルゼ討伐は僕達が一番乗りだったそうで、後で聞いて驚いた。最も、一日と置かずすぐにマルのところも討伐したようだけれど。……あいつ、昔からホント負けず嫌いだよなぁ。
勿論、一週間も経てば殆どのプレイヤー達がベルゼを倒して次の街へ進んでいた。
第二の街。其処はハーフエルフ達が暮らす街だった。街の入り口である門には、"せんたくの街"と書かれていた。
せんたくの街、か……。何を選択しなくてはならないのかと思っていたら、街に入って早々選択を迫られた。
「貴女は物理的力を求めますか?」
「貴女は精神的力を求めますか?」
「貴女は創造的力を求めますか?」
…………。
三人の女性が一斉にこちらを見て首を傾げる。瞳の色は三人共灰色だが、髪の毛の色はセリフの上から順に赤、黄、青である。信号機かよ。
おそらく、この三人はこの街に住むNPCなのだろう。この街に入ったものに選択を迫るという役割の。
物理的力、精神的力、創造的力か……。単純に考えると、物理的力はSTRかVIT、精神的力はINTかMND、創造的力はDEXってとこかな? うーん。もしそうだと仮定すると……どれがいいのかなぁ。まず、創造的力はなくていい。物理的力と精神的力だと……どっちのがいいんだろ。僕、武器は刀だけど一応回復職だしなぁ。
「うーん、じゃあ。
ここはあえて精神的力で」
僕が答えると、真ん中にいた黄色い髪の女性が一歩前に出た。
「精神的力ですね?」
「はい」
もう一度頷けば、黄色い髪の女性に手を取られる。
「では、こちらへどうぞ」
そのまま有無を言わせず連れ去られる。たーすーけーてー。
連れて来られたのは『せんたくの館・二』という建物だった。
……まんまだな!! もっと捻れなかったのだろうか。ここの運営はホントに変なところにしか力を入れないんだなぁ。
黄色い髪の女性に扉を開けてもらい、中に入る。
ガチャリ
………………ガチャリ?
「えっ、あの……?」
困惑した頭で問えば、黄色い髪の女性はにっこりと微笑んだ。
「其れでは、此処に貴女のお名前を記入してください。いいですか? 書けましたら、此方へどうぞ」
「えっ? あ、はい」
挑戦者表、と書かれている本に名前を記入するとまた建物の奥に連れていかれる。
……一体何処まで行くんだろう。そういえばこのお姉さんの名前、まだ聞いてなかったなぁ。どうしよう。一回気になったらもう止まらない。この人なんて名前なんだろう。
「ーーというわけで、何かご質問はありますか?」
「はい、貴女のお名前はなんですか?」
「え?」
きょとんとするお姉さん。あれ、口が滑った。まずったかな、とちょっと焦っていると、お姉さんがふわりと笑った。ナイトには及ばないまでも、なかなか良い笑顔だった。僕は、ふわりと、花が開くように笑う人が好きだと思った。何故って、暖かいから。
「面白い事を聞かれるんですね。こんな事聞かれたのはこの街に人が入ってくるようになってから一週間ですけど、まだ貴女で二人目です。
……そうね、私はキハナと申します」
キハナさんか。これでだいぶ親近感湧いた。だって、名前のわからない人って怖くない?
「それでは、何か他にご質問はありますか?」
「あの……もう一回始めから説明してもらう事って出来ますか?」
正直に言おう。
僕はキハナさんの話を聞いてませんでした、と。
苦笑いしたキハナさんが言うには、この『せんたくの館・二』では、精神的力を鍛えるために七つの試練のうち三つを自分で選んでクリアしなくてはならないらしい。
「また、クリアした者には特別な力が与えられます」
キハナさんはそう話を締めくくった。
特別な力かー。いいなぁ、何か燃えるよね。さてさて、どんな試練があるのかなー、っと。
「此方の部屋の中に、その試練を記した書物がございます。
私はここまでですので、失礼致します。それでは、貴女が良い選択をします事を願っております」
そう告げると踵を返して去っていってしまうキハナさん。
僕も目の前の扉を開ける。
さぁ、一体どんな試練があるのかな……?
「ん? あっ!お姉ちゃん!!」
僕はバタンと扉を閉めた。




