CHAPTER,21
店を出て角を曲がったところで、辺りを見渡しながらうろうろする赤髪を見つけた。
「ナイトーっ!」
よかった、一応此処らにいると連絡はいれていたけど、入れ違いになると面倒だからな。こっちこっち、と手を降るとナイトも気がついたようでタタッと此方へかけてきた。
「久しぶりータカ!装備変えたんだな……って、え?」
にこやかだったナイトの顔がピシッと固まる。正確に言うと、ある一点ーー僕の胸元の事だけどーーを見て固まった。
「お前、それ……」
ぽかんとしているナイトに笑いかける。
「別に、男がフリルをつけててもいいだろ?フリルは女の子だけのものって訳でもないんだし」
僕の言葉を聞いてナイトが我に返る。
「確かに……中世のヨーロッパ貴族なんて男も女も凄いもんな……」
うんうん、と何処か納得したように何度も頷く。納得していただけたようで何よりです。
「あの、似合わないかな?」
あんまりにも反応がアレだったので心配になって尋ねる。フリル云々で驚かれたなら兎も角として、似合わないからという理由で驚かれていたのなら軽くを通り越して大分ショックだ。
「いや、似合うよ。なんか暗殺者みたいな色合いだけど」
さらっとした笑顔で言われる。
……暗殺者ってお前…………。聞きようによっては結構傷つくぞ……?
まぁ褒められているのはわかるので僕は傷つかないけど。
「じゃあそろそろメンバーの所へ行こうか。例の噴水の所で待ち合わせにしてあるんだ」
こくん、と頷いて歩き出す。
「それにしても、武器まで装備が変わってるのに頭部の装備は何もないんだな。もしかして気にいるのがなかったとか?」
トコトコと歩きながらナイトが僕に聞く。さり気なく(歩幅上の問題で)足の遅い(ナイトが速いだけとも言うが)僕にペースを合わせてくれているのも地味にポイントが高い。
だからモテるのかなー、ちっリア充め……。
まぁそんな僻みは置いておいて、ナイトの"頭部の装備"という発言で『魔王の加工場』でのメルティとの会話を思い出す。
うっかり武器を受け取り忘れた僕に武器を渡しながら、メルティが申し訳なさそうに言った。
「頭の先から足の先まで揃えてやる!とか言っておきながら、結局頭部の装備まで作れなくてごめんよ」
しゅん、と頭を垂れる姿に小動物的な何かを感じ、改めてニールの従姉なのだと実感した。どうやらメルティは普段は可愛子ちゃんだのご褒美だのとちょっとアレな所があるが、生産職としては誠実らしい。
密かに(僕の中での)メルティの好感度が上がる。
「いや、別にそれはいいんだけど、ちょっと約束があるからもう行くわ」
そそくさとメルティに背を向けていつ見てもーーと言っても昨日初めて見たのだがーー壮大という表現がよく合う扉に手をかける。
早く行かないと、ナイトが怒る。一応連絡はいれたけど、絶対怒る。あいつ時間に厳しいからなぁ。……その割には結構な頻度で約束に遅れてくるよなあいつ。まぁお詫びのアイスが美味しいからいいけど。
「ナイトってまさか、『猫好き』さんのことかい……?!
あまりにも猫が好き過ぎて攻略組なのにも関わらず生産系のスキルで"猫耳"を自己生産した、あの?!!
最高の素材を追求するあまり最終的に何処だったかのフィールドに出現する猫型モンスターを泣く泣く乱獲したっていう、あの?!!」
ぶつぶつ呟いていたのが聞こえた様で、メルティがガバッと僕の腕を掴んで捲し立てる。
そっか、メルティと僕はゲームの判定上同性だから触れられるのか……なんか悲しくなってきたからやめよう。
因みにニールとメルティとは昨日フレンド登録をした。連絡とれないとめんどくさいからな。
「『猫好き』さん……?」
なんかどっかで聞き覚えがある様な…………あ。
『猫耳ってもしかして……!!』
『あの…………?!』
『布装備さんか?!!!』
『いや、猫好きさんだろ?』
先日聞いた囁き声を思い出す。
っていうかナイトはβ版の時から名前はナイトでやってるって言ってたからやっぱり猫好きさんはナイトのことなんだろうなぁ。
「多分そうだと思うけど」
何と無く首を捻りながらそう言うとメルティが目を輝かせる。
「うわーっじゃあたーくんは猫好きさんの知り合いなのか……一体どんな仲なんだい?あぁ、これはMMOでの礼儀にかける質問だったね、忘れてくれ。
猫好きさんは生産職達の中でも割と有名でね。ある一つのものに魂を注ぎ込むその姿勢には私としても感銘を受けるところがあって……」
なんとここまでノンブレス。ちょっと怖い……っていうか、ナイトなにしてんだよ…………。
「たーくんって言うな。
で?ナイトが僕の知り合いだったら何なんだ?」
首を捻ってそう問えば、メルティがさらに目を輝かせる。
「うん。あのね、猫好きさんに頭部装備もとい猫耳を作ってもらえばいいと思うんだ!!」
「だが断る」
即答である。
「なん…………だと……?!」
崩れ落ちるメルティに背を向けて僕は店を出た。
「なぁ、お前ってさぁ、生産系のスキル持ってんの?」
僕が聞くと、ナイトは何故か驚いた様な顔をした。
…………ってそりゃ驚くわ。話してもいないのにいきなりそんなこと言われたら。
しかもこれナイトから見たらいきなり話が変わって二重でびっくりだよな……。
「おう、持ってるぞ。でもまぁ今はギルドの生産職に結構任せちゃってるからあんまり育ててないかな」
「ふーん」
「自分から聞いた割にはあんまり興味なさそうだな、お前」
ナイトが呆れた様に言うけど……そんなに興味なさそうに見えるかなぁ?別にそんなこともないんだけど。
「ナイトーー!!!」
大きな声が噴水の方から聞こえてくる。
「っと、あいつホントにうるせぇなぁ……」
はぁ……、と溜息をつくナイト。
ということはあの叫んでいた人がナイトのギルドの人か。女の子か小さい子がよかったんだけど、どうやら声から察するに男らしい。
……まぁナイトがいるんだし、何も起きないだろうけど、全員が全員あの男と一緒ではないことも理解はしているのだけれとも。
まだ見ぬナイトの知り合いを前に、知らず知らずの内に僕は唾を呑み込んだ。




