CHAPTER,2
「おっかえりー!!!!」
玄関を開けるとすぐ大音量が響く。
「ただいま……今日はやけに元気だな、マル」
苦笑いの僕を出迎えてくれたのは妹の真昼、通称マル。
僕の妹とは思えない明るい茶色の髪の毛と、形の整った大きなアーモンド形の瞳。
すらっと伸びた長い手足に発展途上のスタイル。
身内贔屓と言われるかもしれないが、これは美少女の類に入るのではないだろうか。
っていうかマルも僕たちと同じ高校の一年生だから終業式が終わった時間は同じはずだが……妹のゲームにかける思いは僕には計り知れない。
「何言ってるのよお兄ちゃん!白々しいわ!
騎士さんからもう聞いたんでしょう?『SevenSevenceOnline』のこと!!」
マルがふっふっふと勝ち誇ったように、というかとても嬉しそうに笑った。
そういえばマルは僕を驚かせるために今までSSOの事を僕に話すのを我慢していたんだっけ。
「あぁ。聞いたよ。ありがとな、マル」
「んじゃ早速化身作成しようよッ!!」
マルが身を乗り出して化身作成の極意などを力説する。その間にぼくは荷物を部屋に置き、制服から部屋着に着替えてしまった。
「えっと、要点をまとめると
・化身は現実世界の容姿が少なからず基にされる
・USというプレイヤー固有のスキルがある
・が、USが判明するのは全ての設定が終わった後である
・種族、職業、初期武器、スキルが自由に選べる
・最初に選べるスキルは五つ
ぐらいか?」
「さっすがお兄ちゃん!
後、気を付けておかないといけないのは、スキルを装備しておかないと、魔法も武器も使えないってことかな」
「スキルを装備?」
「そ、例えば【剣】っていうスキルがあるんだけど、このスキルを装備せずにマルが剣を持ったとしても戦闘では使えず、ただの荷物扱いされちゃうわけ」
「成程。スキルを装備したうえでそのスキルの武器を使わないといけないってわけか」
「そーゆーこと。装備できるスキル枠は七つしかないから枠の使いどころが難しいんだよね。
っていうかお兄ちゃんってば飲み込みはやいね」
「伊達にお前のお兄ちゃんやってないからな」
マルの説明能力は驚くほどに低い。まぁ最近は高校生になって少しは改善されたようだが……。それでも一般の高校生よりは絶対に低い。
そんなマルの拙い説明を十六年間聞き続けたんだ。僕は理解能力だけなら誰にも負けない自信があるぞ。
「なにそれ。
ま、いいや。化身は細かいところまで変えられるけど、お兄ちゃん絶対変えないでよね」
「なんでだよ……」
「う……だって細かいところまで変えられたらお兄ちゃんをあっちの世界で探すの大変になっちゃうじゃない!
だから……お願いっ!絶対にどこもいじらないで!!」
マルが両手を合わせて今にも土下座しかねない勢いで頼んでくる。この場合の兄としての一番いい解決策は……。
「いいよ、わかった。変えないよ」
相手の条件を呑むことである。
「じゃあ今日の夜にでも早速作ってみるかな」
「えー?今すぐじゃないのー?」
マルがぶぅっとふくれる。こんな変顔しても美少女だなんて我が妹ながら末恐ろしい。
「夏休みの宿題がもう少しで終わるからな。終わらせてからにするよ」
「あー、なる」
マルが心底納得したー、という風な顔をする。一々オーバーなリアクションだ。
ちなみに僕は大きな休みの時の宿題は休みが始まる前に終わらせる主義だ。
始まってからだと多分宿題をやろうっていう気が起らないだろうし。
「マルもどうせ夏休みは『SevenSevenceOnline』をずっとやる予定なんだろ?
ちゃんと宿題終わらせとけよ」
一応釘を刺しておくと、マルはイヒヒッと笑っていった。
「マルはもう宿題全部終わらせてあるからだいじょーぶだよーぅ」
いつもいつも休みが終わる前日に「宿題が終わらない」と僕に泣きついてきていたあのマルがすでに夏休みの宿題を終わらせているだと……?!
妹のゲームにかける思いは本当に計り知れない。
内容に変化はないですが、多少文体を直しました。