CHAPTER,18
「んで?」
子リス君が落ち着いたところで促すように顎をくいっ、と動かす。
「えっ、あ……はい。
まず、助けてくださってありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる子リス君。
うーん、やっぱり可愛いって得だな。何かこう……なんでも許しちゃいそうな感じだ。例えば、さっきの耳をつんざくような絶叫をあげたこととか。
「えっと、僕、ニールっていいます!よろしくお願いします!!」
そう言ってガバッと僕の手を取ろうとする。システムのおかげで直接は触れられていないが、何かが当たっているような感覚がある。
えっ、うわぁ、なんかぞわっとした。極端に言うと気持ち悪い。さっきまで可愛い小動物だと思っていた少年なのに、こいつも立派な男性なのだと考えただけで嫌な汗が止まらない。
ちょっと待て、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士騎士助けてっ!!!
突然思考の波にのまれ、パニックになる。思わず握られた手を振りほどいた。
「あの……?」
こちらを気遣う柔らかい声が僕の意識を呼び起こす。
あれ?僕は、何を………………?
「いや、よろしくお願いしますも何も、僕達もう会う事もないだろう?」
気を取り直してそう問う。
それを聞いた子リス君もといニールが慌てだす。
「えっと、いや、それもそうなんですけど……あの、せめてお礼をさせてください!!」
「何で?」
感発いれずに聞き返す。
「えっ?!な、何で……って、それは、あなたが僕を助けてくれたから……」
聞き返されたのが予想外だったのか、軽くどもっているニール。
「別に、僕は君を助けるつもりはなかったよ。あそこに行ったのだって、何かイベントでもやってるのかと思って見に行っただけだ。モンスターを君から引き離して助けたように見えたのは偶然だよ、偶然」
本当の事を言うと偶然でもないのだが、あれは僕がうっかりしていたというよりも、まだスキルの有効範囲を把握しきれていなかったが為に起きた、いわば事故である。
だいたい、僕はこの世界でマルやナイト以外と一緒にいる気はないんだ。
あぁ、何故だろう?一緒にいる時や一人でいる時にはなんとも思わないのに、誰か他の人と一緒にいると、どうしようもなく騎士が恋しくなる。
……ってちょっと待て。恋しくなるって何だ恋しくなるって。僕そっちの気はないぞ?ただすこーーし、寂しくなるだけで、いや、だってしょうがないだろリアルでは何時も二人でいるんだから。
そこまで考えてから、僕は誤魔化す様に(何時の間にか僕の近くのコースター置かれていた)ブラックコーヒーを口に含んだ。
ブラックコーヒーの苦味が口の中に広がり、一瞬前までの考えに蓋をした。
「そ、そうですか……」
ニールは助けるつもりがなかったと聞いて、目に見えて落ち込んでしまった様だった。
「でも、それでも僕があなたに助けていただいた事には変わりません!どうか、お礼をさせてくださいっ!!」
今度は床に頭をぶつける勢いでかしこまる。俗に言う土下座である。
……って何だこの状況?!
「っぇぇぇぇぇぇええええええ?!!
止めてよ何で土下座?!なんか僕が悪者みたいだろヤメテー!!」
いやまぁこの喫茶店は昼間は結構人がいるけど、今みたいな時間帯ーーつまり夜ーーにはあまり人がいないから、誰かに見られる危険はそんなにないんだけどね。
「じゃあ、お礼をさせてください!後、あなたを女性だと勘違いしてしまったお詫びも!!」
ガバッと顔をあげて目を輝かせるニール。
つーか女性って……うん、あの言い方が、さ。
さっきから地味に思ってたんだけど、もしかしてニールって僕が思ってるよりも歳いってる?僕のイメージだと十代前半くらいなんだけどなぁ。
あ、因みにこのゲームはR12になっている。なんでも余りにも幼過ぎると脳に負担がかかってしまうとか何とか言ってたような。
「わかった。お礼は受け取らないけど、そのお詫びは受け取ろう」
地味に傷つくからな。その間違いは。
「本当ですかっ?!!」
あー、もう目がキラキラし過ぎて怖いよニール君。
肯定するように頷くと、まだ半分は残っていたハニーカフェオレを一気に飲み干し勢い良く立ち上がった。
「ではいきましょうか!」
そう言ってにっこりと笑う。庇護欲を掻き立てられるような小動物スマイルである。
つられて立ち上がってしまった僕は、そのまま三十分程始まりの街を歩かされる。
…………まだ着かないのだろうか。というか、これ何処に向かっているんだっけ?
そういえば聞いていなかったと思いニールの方に視線を向けると、唐突に立ち止まる。
くるりと振り返るとニールのさらさらとした淡い栗色の髪の毛が肩の上で揺れる。
「さあようこそ、師匠の工房へ!」
ニールが指すその先にあるのは大きな大きなお家。多分だけどさっきの喫茶店の三倍くらいはあるんじゃないかな。
ニールから向けられた満面の笑みに、僕はぽかんと口を開けた。
すみません……自分で作ったルール設定を忘れていました……。
なので、その部分についての描写だけ変えてあります。
指摘してくださった方、本当にありがとうございます。
また何かおかしいところがあったら御指摘お願いしますm(_ _)m




