CHAPTER,17
真っ暗だった視界が急に明るくなったので体を起こしてみると、随分と身体が怠い。よく周りを見てみると、僕は光り輝く大理石の上に横になっていたらしかった。
此処は……神殿?周りの雰囲気と神官らしき人でそう判断する。そこでやっと先程の光景を思い出した。畜生チートめ。
あぁ、死に戻りをしてしまった。僕は溜息をついた。まぁ運良く(?)最初に頭をやられたからか、感じた痛みは少ない。でもさ、ナイト達と「あんまり死ぬなよ」的な話をしたばかりだったのに、だから三日間無理の無い様にちょこまかと休憩とりながらやってたのに(まぁ最後はちょっと調子に乗ったけど)。
うん、まぁもう死んじゃったものは仕方が無いか。どうせ死に戻りのデスペナルティは二時間の能力低下だけだ。
それに、僕以外にも死に戻りをした人は結構いるみたいだ。近くにある大理石が淡く光ったかと思うと、戦士と思わしき人が現れた。
ふむ、綺麗なエフェクトだ。
「あ、あのっ」
だんだんと薄れていく光をぼんやり見つめていると、唐突に声をかけられた。
声がした方に体を向けると、そこにいたのは淡い栗色の髪の少年だった。……なんかどっかで見た事ある様な……えっと、どちら様?
「あの!助けていただきありがとうございました!!」
軽ーく困惑している僕に気づいていないのか、深々と頭を下げる少年。
助けた?……って事は、もしかして……
「君さっきチートモンスターに追いかけられてた子?」
というか他に心当たりがそもそも無いんだけどね。ほら僕、なるべく人と関わらない生活をしてたから。
首をひねりながら聞けば、やり過ぎだと思うくらいぶんぶんと頭を揺らす少年。
……頭もげるぞ?
「そ、そうです!!」
どうやら頷いていたらしい。
何か言いたげにこちらを見つめる少年に、懐かしい嫌な雰囲気を感じてこっそりと溜息をつく。……こいつもか?
「取り敢えず、場所を変えようか」
こくこくと頷く少年に、何処か小動物らしさを感じた。
場所を移して此処は、ダンディなお爺さんNPCが経営する喫茶店『THUBASA』。ここのマスターは渋くて、僕は密かに憧れだったりするのだ。
「いらっしゃい」
扉を開ければマスターの低い声が迎えてくれる。
あぁ、今日も今日とてダンディな声ですねマスター!
「いつものをお願いします」
メニューを見ずに言う。それだけでマスターには伝わったようで、渋い笑みを浮かべて頷かれる。伊達に三日間暇をみつけてはこの喫茶店に入り浸っていたわけではないのだ。
ふふん、と鼻高々になりながら正面に座った少年を改めて観察する。
何と言うか、全体的に小さい。少し垂れた大きな二重の目も、服の上からでも分かる細い腕も、白い肌も、どの部分をとっても小動物にしか見えないし、正直に言って可愛いと思う。……勿論ちゃんと少年は少年だ。僕のように女顔なわけでは無い。おおぅ、自分で言っといてダメージが……。なんて言うんだろうなぁ……子リス?うん、そんな感じだ。
その子リスは首を可愛らしく捻りながらメニューとにらめっこをしている。
「ハニーカフェオレにします」
なん……だと……?!飲み物のチョイスまで小動物だっただと?!あー、もう可愛い。このままではさっき感じた嫌な雰囲気の事も忘れてしまいそうだ。
よし、忘れる前に切り出そう。
「あの、さ……」
「あの!僕!」
被ったー!!
僕とした事が出鼻を挫かれてしまった。
何と無く気まずいな、これ。
「あ、先にどうぞ!」
子リス君に先を譲られる。
うむ、やはりこの子は良い子だなぁ。
良い子だからこそ。もしも幻想を抱いていたならば即刻打ち破らねばなるまい。
「まず、僕はタカ。ソロプレイヤーだ。」
そこまで言って、ちらりと子リス君の顔を見る。"僕"という一人称に少し動揺しているようだ。
動揺を相手に悟られるなんて、まだまだ青いな、子リス君!
そして追い打ちをかけるように続ける。
「僕は、男だよ」
後に聞こえたのは思わず耳を塞ぎたくなるような絶叫。
「嘘っ!!」
……良い子だけど、反応はもうちょっと遠慮しなされよ。子リス君。
滑り込みセーフ!まだ七月!




