CHAPTER,13
ピンと張った愛らしい耳にルビーの様な紅い目。体毛はふわふわと柔らかそうに見え、揺れる尻尾が心を誘惑する。
そこだけ見れば、ホーンラビットはとても可愛らしい兎なのである。が、しかし。
で、でかい……っ!
それが初めてホーンラビットを見た僕が、最初に抱いた感想である。
普通の兎の何倍になるのだろうか。普通の兎の大きさというものがいまいちピンとこないが、155センチ程の身長である僕よりも遥かに大きい。……ざっと見て、二メートル位かな?
つまり、二メートルもある巨大な兎が、額に角を持っているのである。
「こういうの何て言うんだっけ?鬼に金棒?あ、違うか」
「おーいタカ!ぼさっとしてるとやられるぞー」
間の抜けた様なナイトの声が飛ぶ。
ハッとして咄嗟に身をひねって躱す。
ドシュッ
息を整えてホーンラビットの方を見ると、もう既にこちらに狙いを定めており、さっきまで僕がいた所には大きなクレーターが出来ていた。
「何だあれ!?」
思わず叫んでしまう。
あれー?あれって兎さんじゃなかったのかなー?
「まぁホーンラビットの売りはその速さだからな。威力自体はそんなにないんだが、風圧がなぁ」
「あの風当たると涼しいんですよねー。
β版の時はよく涼みにここに来たなぁ」
風かぁ……さっすがこのゲームは細かいな。じゃなくて!
涼みに来てた?!非常識もいいとこだな危ないだろ!妹がこんなにも非常識だなんてお兄ちゃんは悲しい!!
「ま、兎に角だ。まず自分一人で倒してみろよ」
「あれを一人で?!」
「クリティカルに入れれば一撃だから大丈夫だよお姉ちゃん!」
一体何が大丈夫なんだ。誰か教えてくれ。
「ホンラビのクリティカルは眉間!さぁレッツトラーイ!!」
そう言って僕から少し距離をとる二人。
「危なくなったら助けてやるから落ち着いていけよー」
ナイトの声が聞こえる。
あいつの事だからどうせ本格的に危なくなる前に助けに入るつもりなんだろう。でも、折角の初戦闘なんだ。できる所まで一人でやってやろうじゃないか。
キッとホーンラビットを睨む。
次の瞬間にはホーンラビットは目にも留まらぬ速さでこちらに向かって跳んだ。
「……ッ!」
さっきの要領で体を捻って躱す。辺りにクレーターが出来、ホーンラビットが動きを止めた瞬間に刀をその眉間に叩き込む。
「っらぁ!」
しかし叩き込むよりも一瞬先に動けるようになったホーンラビットの角によって、その攻撃は阻まれる。
慌てて後ろに跳び、距離をとる。
その時、さっきまで静かだったナイトやマルのいる方が急に騒がしくなった。
うるさいなぁ、集中できないじゃないか等と思いながらチラとそちらの方に視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「えー……」
「あ、お姉ちゃんは気にしないで戦ってていいからね!」
「まぁ、こっちはそれなりに邪魔にならないようにやってるから、さ」
「いや、えー……」
そこに居たのは、溢れかえらんばかりのホーンラビット。
数は……、
「ひい、ふう、みい……ってうわっ!!!」
思わず数える事に集中して、目の前にホーンラビットが居た事をすっかり忘れていた。
「おーい、気をつけろよー?
幾ら向こうがデスゲームじゃないって言ってても、まだ確証はないんだからさ」
「そうだよ!お姉ちゃん!!
NOTガンガン行こうぜ!YES命大事に!だよっ」
「お前等にだけは言われたくないわ!!!」
沢山のホーンラビット達を鮮やかな手際で倒していくナイトとマルに向かってツッコむ。 流石廃人だけあって、危なげな感じは一切と言っていいほど感じられない。寧ろ倒す度に現れる光のエフェクトがキラキラと綺麗だなぁ、と思う程度である。しかしそれでも心配してしまうのが人間というものだろう。
っていうかいくら大きくてモンスターだからって、嬉々として兎の眉間を斬りつける妹というのは色々とカオスなものがある。
ねえ、マル。お兄ちゃんは今君が怖い。
「それにしても、何でこんなにホーンラビットが沢山いるんだ?」
僕がもしかして何か非常事態なのかな?と思って聞いてみると(勿論ホーンラビットの方に意識を向けたままだ)、予想外の答えが返ってきた。
「一羽いたら三十羽はいると思え!それがホーンラビットだ!!」
「ゴキブリか!!」
間髪いれずにツッコんだ僕は絶対に間違ってないと思うんだ。
え、何それホント。兎がゴキブリと同列の扱いとかこの世界色々凄いな。
戦闘狂の様に(というか、実際そうなんだろう)エフェクトを纏うようにしながら戦い続ける妹を必死で視界に映さないようにしながら、ぼんやりとそんな事を考える僕だった。
初戦闘が一話で終わらなかった……だと?!
次で終わらせます。初戦闘ぐらい……お、終わる、よね?
内容に変化はないですが、多少文体を直しました。




