第二話 陰獣出会したり
多分脱字あります。
幼子から名をやっと聞き出た鹿威達は、また御代ノの村へと向かった。
幼子の春菊が『お母さんに会いたい会いたい』と泣き止まないからだ。
そのせいでまた霪馬がキレそうになり、鹿威がそれを止めるの繰り返しだった。
しかし、御代ノの村の近くまで行くと鹿威は立ち止まった。
「なあ、霪馬。やっぱり今から御代ノ村に行くのはよそうぜ」
「あん?何でだ?……お前まさか!急に怖くなって帰りたくなったのか?肝っ玉が小っせえなぁお前」
「ちげーよ。お前、オレをバカにしてんの?」
「じゃあ何だ?」
「もう直ぐ日が暮れる」
「は?」
「だから、もう直ぐ日が暮れるから村に行くのは明日にしようぜ。しかも、ここら辺は夜になると、意外とたちの悪い妖がうろつくんだよ」
「………」
「おい!聞いてんのか?霪馬」
「あ、ああ、そうか。そうだな、うん。お前の言う通りかも知れない……」
彼は真っ青になっていた。
「ん?どうしだ、そんな真っ青な顔に……」
鹿威は、彼が後ろに視線を向けているのに気づき、鹿威もつられて後ろへと振り向いた。そして彼の顔は、みるみるうちに青くなった。
そう、鹿威達が見ているそこには、涎を垂らした兎と牛が混じった顔の陰獣がいた。その陰獣は、鹿威達の方へ顔を向けると─────
「おぅまうぇらうまぁぞおうだぇなぁ」
と聞き取りにくい言葉で言った。
辛うじてその言葉が聞き取れた鹿威達はお互いに汗ばんだ顔を見合わせると一目散に逃げた。
「「ギャアアアァァァア!」」
神あるまじきもんが情けない声を二人で叫んでいた。
「お、おいィィィイ!どうしてくれる霪馬!お前のせいでしつこい陰獣の髏鬼にでくわしたじゃねぇかァァァア」
「俺が知るか!つか、この近くにまさかコイツが居たなんて知る訳ねぇだろ!」
「チッ、使えねぇ奴め」
「んだとぉ!お前こそ一回ここに来たことあるなら見ていたはずだろ?」
「オレがこの前ここに来た時こんな奴何て見かけなかったよ!てか、一切、陰獣とかに会わなかったな?」
「じゃあ何でこんなにいるんだ?」
と霪馬は後ろに指を指しながら言った。
彼らの後ろには、一匹から十匹にどんどん陰獣が増え今や数えきれないほどいた。
「おい霪馬。お前、あいつらの囮にならないか?」
(その間にオレは逃げるから)
と、鹿威はこんなことを密かに思った。
「お前、俺を置いて逃げる気満々な!もうバレバレだ」
「チッ」
「本気で俺を囮にする気だったんかい!」
そうこう言っている間に陰獣達は彼らに追いつきそうな勢いで追いかけている。
「おい霪馬。何とかあいつらをまくこと出来ないのか?」
「さあ。他の奴はともかく、髏鬼はどうやら?あいつ、六個の目と鼻や耳が良いから多分死ぬまで追っかけて来るし」
「じゃあ、お前は今までコイツに出会った時どう対処した」
「今までは一匹か多くて二匹だったから、そうだな……蹴り上げて殺して何とか免れたな」
「じゃあ今回もその自慢の蹴りで何とかしてくれよ」
「何言ってんだよ。あいつら素早いから二匹でも倒すのに大変なんだからな」
「チッ使えねぇ奴め」
「それさっきも聞いたァ!」
そして鹿威達はさっきから同じ場所をぐるぐると逃げ惑っていたが、鹿威が次第に遅れてきた。
「おいお前、大丈夫か?遅いぞ」
「仕方ないだろ。大体コイツを背負ってんだからな」
「そいつ捨てたらどうだ?」
「普通にいかんだろ!コイツ一様重要人物だからな!」
「じゃあここら辺に神社とか社とか無い……」
「あー、良い案だな。確かにそこに逃げ込めばアイツらは追って来れないってか入って来れないな……じゃあ、あそこならどうだ?ほらあの……出雲大社は」
「そこがあったな。早く行くか」
と霪馬が言い、鹿威はその後を追いかける形で付いて行った。
「あとどのくらいかな?」
「多分…もう直ぐかな?多分だけど」
「多分ね」
そして、出雲大社の社の屋根が見えてきた。急いで霪馬は社の中に入った。
「ハアハア、随分走り回ったな鹿威……ってあれ?」
後ろにいるはずの鹿威と春菊がいなかった。彼は慌てて鳥居の外を見渡したが物音一つなかった。
「おいおい!まさかはぐれちゃったの?」
霪馬のあとを追う形になっていた鹿威は、出雲大社の社の屋根が見えて来たっという時に背負っている春菊が陰獣達を見てまた泣き出し、暴れはじめ、後ろにズレ落ちたのだった。
(あ、やべ!)
春菊はそのまま、ちょうどそこに空いていた真っ暗のあの世とこの世の狭間に真っ逆さまに落ちていった。
鹿威は慌てて落ちる春菊を掴もうとしたが足が滑って一緒に闇に落ちていった。