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 国境付近に設置されている検問に近づいたため、茂みに隠れて様子を見てみる。

 兵士が数名、仁王立ちで待機している。この道を通るには、この検問を突破しなくてはならない。すると、そこにいたすべてに兵士がその場にいた者に敬礼をし、姿勢を正す。たぶん、その者がここの騎士団長に間違いないのだろう。ここで余計に神経をめぐらせて、挑まなくてはならないというのに、どうどうと前に出て行こうとするリュートをフェイは止めた。

「堂々と出て行って、どうするのさ」

「大丈夫。俺にまかせて」

 そう自信たっぷりににこやかに言うものだから、止める気が失せて、様子を見ることにした。

「ルドルフ」

 その騎士団長らしき者の名前をリュートが呼ぶと、兵士と話をしてたルドルフは呼ばれた方に顔を向けた。

「おー、リュートじゃん。よく、ここまで来たな」

 右手を上げて、リュートに手を振っている。ルドルフは黒髪で、リュートと話しているように何者にも気さくに話せるような雰囲気だった。

「もちろん。お前も元気そうで何よりだ」

「一人か?」

「いや、連れがいる」

 リュートはフェイがいる方にこっちに来るように手招きした。それを見て、しぶしぶ姿を現してみる。

 リュートが安心してルドルフと話をしているということは、知り合いであることは確かだ。ここは難なく越えられそうだ。

「あれ、どっちに見える?」

 面白そうな顔をして、リュートはルドルフに聞いた。

「どっちって、性別?」

「そう」

「どっちって、女、だろ。どう見たって」

「だろ?なのに、初めて会った時、どうして分かったんだ!!って血相を変えて聞かれたよ」

 フロドは微笑した。

「二人で何話ししてんのさ?」

「ん?内緒」

「内緒ねー。まー、いいけど。……その人、紹介してくれる?」

 まずは、リュートがフェイに紹介する。

「カイン騎士団長のルドルフ・シルキド。で、この人は、フェイ」

「よろしく。フェイ」

「こちらこそ。ルドルフ」

 お互いに握手を交わした。

「お話中よろしいでしょうか?」

 検問の中にいた兵士の一人がルドルフに聞いてきた。

「何だ」

「もしかして、奴が手配中の者ではないのですか?」

 兵士たちは元といえば、リュート、いや、フロドを捕まえるためにこの検問を実施していたわけだ。自分たちの騎士団長の知り合いといえども捕まえないわけにはいかないのだ。

「お前知らなかったのか?」

 いきなり、とぼけた顔でルドルフが話し始めた。

「実は奴は双子でな。これはそれの片割れだ。しかしこの事は口外されていない。秘密事項である。よって、口出しは無用であるし、この事を口にすることも許さない」

「ならば、尚更じゃ……」

 不満があるとでも言うようにさらに聞こうとたが、ルドルフの一言で場は固まった。

「何か文句はあるのか?俺に言うことがあるなら言ってみろ」

「……何もございません。失礼いたしました」

「ならば、持ち場に戻れ」

「はっ!!」

 敬礼をして、兵士は戻っていった。しかし、帰り際にリュートたちを怪しんだ目で見る事は忘れずに。

「無理やりな、誇示付けだな」

「助けてやった恩人に、それはないだろ」

「助け舟にもほどがある。まだ、あれは疑っている目だったぞ」

「いいんだよ。俺に逆らえばどうなるか知ってるから、これ以上検索されることはないよ」

「お前、変わったな。違った意味で」

「伊達に、上にいる立場ではないんでね。まー、立ち話もなんだ。中に案内するよ」

 そう言って、中に案内しようとしたが、兵士に止められた。

「お待ちください、国王からの電話がかかっております」

「後で、かけ直すと言ってくれ」

「いえ、しかし、すぐに出るように言われておりますので」

 ルドルフは舌打ちをすると、その兵士に自分の部屋に案内するように言い、自分は電話がある部屋に向かった。


「代わりました。ルドルフです」

「おー、ルドルフ。シギとルアンがやってくれたぞ」

「と言うのは?」

「あの二人を始末してくれたぞ。まだ、死体は見つかっておらんが、確実に仕留めたと言っておる。だから、お前の部隊も帰ってきてくれ。その場は誰かに任せて」

「かしこまりました。では、二日後に」

「分かった。では、失礼するよ」

「はい」

 国王が電話を切ってから、ゆっくり受話器を置いた。

 ルドルフは自分の部屋に戻りながら考えていた。あの二人とは、リュートとフェイの事だ。報告では、二人は死んだとなっている。しかし、死体は見つかっていない。当たり前だ。本人たちが目の前にいるのだから。



「死んだにも何も、本物がここにいるし」

 入り口の柱に凭れて、腕を組みながら、ルドルフは愚痴をこぼした。リュートとフェイは何か話をしていたので、はっきりとは聞こえなかったらしい。

「何か言ったか?」

 リュートが聞いた。

「いんや、別に」

「で、何だったんだ。電話」

「お前たち、死んでる事になっている」

「なら、好都合じゃないか」

「って、お二人さん。ちょっと待ちなよ。一応、あたしたち、敵地に乗りこんでいるのと同じ状況なのよ。いくらなんでも、知り合いだからって、話してもいいの?あたしたちには好都合だけれど」

「そんなこと、気にしなくても大丈夫だよ。俺にできる事は、城の情報を渡すぐらいなんだ。ちょっとは、協力させてよ」

ルドルフがにっこりと笑った。

「城の中の事はルドルフからの情報が大事なんだ。フェイが気にする事ないよ」

「そういうこと」

「あなたがいいのなら何も言いわない。聞かせて」

「もちろん。二人が死んだ事になった以上、俺たちは城に帰らなくてはならない。その時が、絶好のチャンスかもしれない。俺らの部隊がいる事で、気が緩むはずだ。そこで何とかして忍び込めば」

 ルドルフの提案にすぐにリュートは言った

「いや、一端、町の様子もうかがいたい。すぐには行けない。準備が整いしだい、行動に移したい。その時に、協力してもらう事があるかもしれない。その時に頼むよ」

「分かった」

「ただ、おれたちが生きている事がれないようにしといて欲しい」

「もちろんだ」

「で、フェイ。これからのことだけど。……フェイ?」

 右肩を抑えて、うずくまっていた。少し苦しそうな感じもした。

「フェイ?」

「ん?あ、ごめん。ちょっと、疲れちゃったみたいで、先に休んでていい?」

「うん、いいよ」

「客室に案内してもらってくれ」

「うん、ありがとう。ごめんね」

 そう言って、フェイは兵士に案内されていった。

「何か変だったな、フェイ。リュート、何か知ってるか?」

「いや。少し経ってから、様子を見てくるよ」

「そうしてあげた方がいいかもな」

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