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 レイピアに行くための用意をすませて、フェイはリュートの部屋をノックした。すぐに返事があって、部屋からリュートが出てきた。朝食は宿の食堂で食べてから、峠へと向かった。


 アーバンからレイピアへ続く峠に向かっていると、後ろから声を掛けられた。

「フェイか?」

 そう呼ばれて、後ろを振り向いたフェイ。呼ばれた方を見ると、昔、一緒に旅をしていた者がいて、その隣には、女の人がいた。

 黒い髪と灰色の眼で細身ではあるが、すっきりとした姿の男と藍色の髪と目で、優しそうでおおらかな女の人だった。

「リオ?」

 久しぶりに会った男はあまり姿、形が変わってもいなかったが、フェイは疑問形で返した。一応、本人か確認するために。

「あぁ、久しぶりだな、フェイ」

 リオは、フェイに会った事を懐かしむように、目を細めて、優しく微笑んだ。

「リオもな」

 二人は握手を交わした。

「紹介するよ。今一緒に旅をしている……」

「リュートです」

 リュートは、リオと隣に居た女の人によろしく、とあいさつした。

「オレはリオだ。で、この人が」

「ロゼッタです。よろしく」

 ロゼッタが会釈をしたので、リュートも合わせて微笑んだ。

「新しい雇い主か?」

 それはリュートのことを指して言っている言葉だった。

「いや、連れだ」

 ふーん、とリオは頷いた。

「ちょっと、リュート。フェイを借りるよ」

「え?あ、はい」

 リュートはリオにいきなり言われて、一瞬戸惑ったが、すぐに理解して返事をした。

 リオはフェイを少し離れた所に引き連れて、後ろのほうの二人に聞こえないように、小声で話し始めた。

「あいつ、……お前の過去、知ってんのか?」

「いや、知らない。って言うか、言ってないし」

 フェイは少し俯き加減で言った。

「そっか。いつかはってやつか?」

「それは、……分かんないけどね」

 苦笑い。

「そっか」

 そう言って、リオはフェイを解放した。そして、お互い話をして別れた。



「オレだけだと思ってたんだけどなー」

 リオは一人ごちした。

「どうしたの?」

 ロゼッタが聞いた。

「いや、今回は秘密」

「そう。無理に聞いたりはしないけど……」

「怒ってるのか?」

「どうして?」

「いや、どうしてと聞かれても……」

 リオはぽりぽりと頭を掻いた。どう言っていいか分からなかった。

「まー、うらやましいなとは思ったけど。当たり前だけど、私は何も知らないから、話にも入れないし、少し寂しいなと思って」

「寂しい?」

「おかしい?」

「いや。そう思ってくれるだけでうれしいよ。でも、フェイに口止めされてるからな」

「分かってる。大切な仲間なんでしょ?」

「そういう事」



「ねえ、フェイ。あの二人とどういう知り合いなの?」

 リュートはフェイに聞いた。

「どういうって。リュート知らなかったの?リオは現アーバンの国王でロゼッタは王妃。知ってて黙ってるのかと思ってた」

「えぇっーーーーーー!!」

 リュートは大いに驚いた。そして、驚いた後、何も言えなかった。フェイがこの後話す話に驚いたのとそれが正しいと思ったからである。

「だいぶ前かな?リオはあたしの雇い主だったの。結構、お金持ってたから、ちょっと怪しかったんだけど、仕事的にはありがたかったから、引き受けたのね。そしたら、アーバンの兵士が追いかけてきて、連れてかれたの。家出中だったんだって。リオ。それから、たまに会ったりして、ロゼッタとは初めて会ったけど。リオはテリーと違って民の事を大切にしていて、たまに町に降りて、自分の目で民を見てるそうだよ。どこかのバカとは大違いだ」

――どこかのバカというのはリオの元父親であるテリー・ポッドの事である。

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