4
「アーバンの前の国王だけれど、レイピアでもやっぱり、暴君らしいわ。税金やら何やら、無駄に取ってるみたい」
「どこに行っても、あの国王は変わらないのね。今のアーバンの国王はあれの息子だけれど、ちゃんと政治力のある人みたいよ。経営も安定しているしね。レイピアの人たちには悪いけど、あっちに行ってくれてよかったわ」
「本当に。でも、今こそ言えるけど、レイピアの前王妃はどうなったのかしら?前国王と王子は死んだと聞くけど、前王妃の安否はまったく伝わってこないものね」
「そうよね。でも、その王子が死んだって言うのも噂でしかないから、もしかしたら生きているかもよ。それでも、この情勢は変わらないのかしら?生きているのならその王子に取り返してもらいたいわ。自分たちが住んでいる国じゃないといっても心配だわ。だって、あの国王ならば、いつ国を滅ぼしてもおかしくないんだもの。でも、王族ってやっぱり分からないわ。一般市民には」
「本当に」
リュートが泊まっていた宿に着いた二人は、ちょうど空いていたリュートの隣の部屋にフェイは泊まる事にした。それから、昼食を食べるために、近くあった屋台に行った。
外に開放されているテラスで、二人用の席に案内された。リュートはメニューを広げて、八種類の野菜を煮たスープとパンとミートソーススパゲッティと季節のフルーツをオーダーして、フェイも同じものを頼んだ。
「もう少し頼んでもいいのに」
「そこまで、食べる食欲はないよ。あたしでもね」
肩をすくめて、苦笑した。
数分かして、注文した料理が運ばれてきて、フェイとリュートは料理に手をつけていった。
それから、ゆっくりと食事を終わらして、宿に戻った。
フェイはリュートの部屋を訪れた。
リュートと出会って、突然、追いかけっこに付き合わされて、そこで、言われた名前。ロイド・マンティーン・ダグラス。王族家を知っている者ならば、必ず聞いたことがある名前、ダグラス家。レイピアの王族である。そして、ロイド・マンティーンというのが、レイピアの王子の名前なのである。しかし、その王子はアーバンの国王によって、殺されたという噂、そして、実は、生きているという噂。両方、流れている。真相は、まだ、分からぬまま。しかし、それがリュートというならば、後者の仮説が合っていたということになる。まあ、本人だとしても、フェイに答えてくれるかは分からないが。
「好きなとこ、座って。紅茶入れるから」
そう言われて、部屋に準備されている椅子を引いて、座った。
部屋の中はいたってシンプルな作りになっていた。窓側にベッド、その真ん中に机と椅子が一脚。お湯の入った給湯とコップが二つ。
「紅茶、入れられるんだ」
「意外?」
クスリとリュートは笑った。
「いろんな事、教わってきたからね」
二つのカップを持って、一つをフェイの手に渡して、もう一つを自分の手に持ったまま、リュートはベッドに座った。
リュートは一口飲んで、話し始めた。
「聞きたいことがあるんでしょ?」
「当たり」
「何が知りたい?」
リュートは淡々とフェイに聞いた。
「あなたの素性ってとこかしらね」
「……素性ね。いいよ。少しは、知ってそうだね」




