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森と水の都であるアーバン。空気はきれいで、透き通っている。森に囲まれた国。その森からの恵みである水。それによって育った穀物。すべてが循環し、生を育て続けている。アーバンは民族織物が有名でそれぞれの民族によって、違う模様を考え、糸から形成して、刺繍に施してある。それを応用してハンカチや服の模様にして、それを観光客などに買ってもらいたりして生活を成り立たせている。
アーバンを一言で言うと、白い街。人が住んでいる家の壁は白く作られていて、一階建てがほとんどであり。地下にも住むところがあり、夏は涼しく、冬は暖かい造りになっている。所々に花や動物をモチーフにした刺繍が描いてあり、それによって自分たちの存在を表している。
国の中心にある大きな木のところに着いたフェイはその木を見上げた。何の木かは知らないが、アーバンの象徴的な木で幸福の木と呼ばれ、青々と茂り、風に揺れ、広々と広がった枝の下には人々が待ち場所としても利用もされている。
フェイは木の幹に背を預けて、腕を組み、周りを見渡す。
様々な人の姿が目に入る。
この国の者、観光に来ている者、商人、カップル、親子。いろんな人たちがいる中で、フェイの目が一人の人物に向いた。
青銀髪に緑色の目。人なつっこい顔をしていた。フェイと同じぐらいの長身で、腰に剣を二本差していた。
蒼色の柄の剣と黒色の柄の剣だった。惹かれたというより、気になったというのが正しかった。強い意志を持っている目。誰にも分からないくらいの小さな強い意志。その目に、魅力を感じた。
そう思った瞬間に体と口が動いた。
「お兄さん、オレを雇わない?」
その青年は立ち止まって、フェイを頭の先から足の先までじっくり眺めて言った。
「女に守られるほど軟じゃないよ。俺」
ビックリした。
これでも、男としてやってきたんだ。見ただけで女と見分けるなんて、どんな目をしてるんだ。
オレは男だと、言い返してやろうと思ったが、その前にこの場から去ろうとしている青年の肩をつかんで引き止めた。
言い訳するのも諦めた。すでにばれている事を弁解するよりやる事がある。この青年を逃すわけにはいかない。こっちだって切羽詰ってんだ。
「何で」
「何が?」
「だから、あたしが女だってこと」
「……見た目と自分の勘。女だって分かったらそうとしか見えない」
「勘ねー」
腕を組んで、青年を見つめる。
「ということで」
また勝手に行こうとするので、フェイはまた止めた。
「何?」
「だから、雇ってって」
「無理。っていうか何で」
隠す必要もないので率直に答えた。
「単純に、お金がないから。雇うのが無理だったら、連れとして一緒にいさせてよ。損はさせないよ。今日の宿代貸してくれたら、明日からは自分で稼ぐから」
最初はお金がないから人を雇うつもりだった。けど、この青年には何かを感じた。一緒にいれば何かがあると自分の頭がそう告げていた。
「武器は?」
ここでは、魔獣や魔物を倒す事によって、賞金が貰えるシステムになっている。より強いモノを倒すとそれ相応の代金が懐に入ってくるわけだ。だが、自分の力を高く評価しすぎると痛い目に会うというのが玉に瑕というものだ。しかし、フェイは腰に何も差していないので、青年は聞いたのだろう。
「大体のものなら使えるし、今は貸してもらえると助かる。―――『自分の身を護る盾』は持ってるから」
「ふーん。よくそれで生きてこれたもんだね。……まあ、いいや。お昼も食べてないんだろ?奢るよ。宿代も」
「じゃあ、いいの?お兄さん」
「断る理由もなくなったしね。邪魔にならないならいい。で、そのお兄さんっての、やめない?」
少し困ったような顔をして言った。別に悪い気はしないが、これからやっていく上で、不便という事だろう。
「そっか。あたしは、フェイ」
人に名前を聞くときは自分からってのが、マナーでしょ。
「リュート・アトラス。リュートでいいよ」
「よろしく」
「こちらこそ」
お互いに握手をした。
「フェイ。いきなりで悪いんだけど、ちょっと鬼ごっこに付き合ってもらうよ。付いて来て」
「何?」
リュートが走り出したので、その後を追う。何がったのか分からなかったので、後ろを見ようとしたら、リュートに止められた。
「誘い込む。ここじゃ、人が多すぎる。―――巻き込んで悪いね」
伏せ見がちに言った最後に言葉。少し本心が見えた気がした。自分に関わったせいで、あたしを巻き込んでしまったと言うように。
ちらりと後ろを見ると、五人組で同じような服を着た格好で、腰にそれぞれに剣を携えて、こちらに向かってきていた。それはアーバンの兵士だった。街の治安を守る兵士がなぜ、リュートを追いかけているのか。リュートが追われるような事をしたのかもしれない。だが、あたしにはそれを聞けるほどの親しい仲ではなかった。でも、自分が選んだ人物だ。何があろうと文句はない。それがあたしの道。
「気にしない。あたしはあんたの連れなんだから。それに、お昼も奢ってもらわなきゃいけないしね」
「分かった」
リュートは、確かにそうだった、とでも言うように、微笑した。




