16
空が暗くなり、闇へと包まれようとしている。その中で明るく照らす丸い満月。
ベランダの柵に手を置いて、空を見上げて月を見た
――あれから、数日が経ち、それぞれ何かが変わった。
リュートはテリーから王位を返してもらった後、スミスと一緒に国を回り、何がいらないのか、何が必要なのかと思考錯誤をしていた。民にとってよい国。そして、過ごしやすく、住みよい環境の国を作りたいと言っていた。政治を行う上でも、制度や法律をよりよいものに変えたり、他の国とも友好を交わせるように奮闘していた。民が待ち望んだ王位第一継承者。祝いの式は盛大に行われた。
で、あたしはというと。あの場で消えたランクス。スミスに事情を話すと、ランクスが今いる所を見てくれると言ってくれた。普段はこういう事ははしないのだと言っていた。自分が行くべき道は自分で見つけるべきだとスミスは思っている。しかし、フェイの死期が迫ってる以上、さらに本人が見つけだすと思っている以上、手を貸してくれるということだった。スミスによれば、ランクスはこの惑星上の次元を渡れるトンネルというモノを通って、別の国に移動したのだという。ランクスが消えた時間帯の近くに開くトンネルの扉を見つけだし、さらに同じ場所にいけるトンネルまでも見つけだしてくれた。スミスには感謝してもしきれなかった。これは、フロドをそして、この国を助けてくれたお礼だそうだ。
テリーはレイピアを去った後、リュートに言ったとおり、レイピアから、姿を消し、息子であるリオ・リバースにアーバンのすべての権利を譲ったそうだ。
今は、そのトンネルの扉が開くまで、休養を取っている。
「ここに居たんだ。フェイ」
いきなり、後ろから話しかけられて、びっくりして後ろを振り向くと今までいなかったフロドがいた。
「リュー……じゃない、ロイド」
「リュートでいいよ。そっちの方が慣れてるから」
そう言って、微笑むリュートは国王になっても変わらない。慣れてるといっても、城で名前を呼ばれているだろうから、 フェイが呼びやすいようにそう言ったのだろう。
「今日はもう終わり?」
フェイはリュートに聞いた。
「うん。でね、フェイに言いたい事があるんだ」
「何?」
「俺もフェイと一緒に行きたいんだ。俺はここまで来るのにフェイに手伝ってもらった。だから、逆にフェイが行く所についていきたいんだ」
「ちょっと待って。あなた自分が何言ってるのか分かってるの?あなたのはこの国という大事なものを守らなくてはならないのよ。それを投げ出してまで、あたしに着いて来る意味なんてあるの?あたしがあなたの連れとして来たのは、自分に利益があったから。それにしたって、この国はどうするの?」
急にそんな話をされれば、誰だって声を上げたくなる。夜と分かっていても自然に声が大きくなっていた。
「スミスに全部任せる。大方の事は終わってる。スミスも理解してくれてる。だから、俺は着いて行く」
「どうして?自分がつかみたかったものを手に入れたのに。それまでも手放せるの?」
「俺の話を聞いて」
「……聞いてる」
「冷静にね」
「……分かった」
冷静になんて聞けない。決定的な事がなければ『うん』なんて言ってやらない。
フェイはどうしても一人で行くつもりだ。ちゃんと本心を言わないと『うん』とは言ってくれそうにない。どの道言うつもりだったんだ。ちょっと早くなっただけの事だ。
「フェイと最初に会ったときはただ、変わった人だなんて思ってた。自分を雇えだの、連れにしろとか言ってるし。断るつもりだった。けど、すでに後ろから兵士たちが来ていたもんだから、面倒くさいから承諾したんだ。そうしたら、自分が助けられて、尽くうまくいくんだ。それで一緒にいるうちに気が変わった。実はいい奴なんだって。一緒にいてよかったって。それで、いろいろ見てるうちにフェイが気になってた。一つ一つの行動が気になってた。それで気がついたんだ。……俺はフェイが好きなんだって。だから、今度は俺が助けたいって思ったんだ。フェイを」
「だって、そんな素振り……」
「だから、隠してたんだ。フェイは過去に背負ったものに対して強く気持ちを持っている。だから、こんな素振りを見せれば、邪魔になると思ってたんだ。だから、今まで言うつもりもなかった。すべてが解決してから言おうと思ってたんだ。けど、ここで言わないと自分が君の隣にいる意味がなくなっちゃうからね。ごめんね」
「……どうして、謝るのさ。自分の気持ち押し殺そうとしてたあたしが馬鹿みたいじゃない」
フェイは下を向いていた。手を強く握って。よくは分からないが顔が紅く染まっているようにも見える。
「え?」
「だから、あたしもリュートが……好きなの。でも、リュートはこの国があるし、あたしは自分の信念を変える気はなかった。だから、自分の気持ちに嘘ついて、離れようと思ってたんだ。けど、リュートがそんな事言うから、離れたくなくなるじゃない」
「だったら、ずっと傍にいればいい。そしたら、自分の気持ちに嘘つかなくてもいいだろ?」
「ほんとにいいわけ?」
「だから、最初から言っているだろ?一緒に行くって」
「わかった。――だったら、一つ言わせて」
「何?」
「絶対に死なない事。あたしから離れていくなんて許さない。あたしはもう何も失いたくないから」
「だったら、フェイも死なないで。これからは俺のために生きて」
フェイはリュートからこんな事を言われるなんて思わなかった。自分を大切に思ってくれる人がいることがこんなに心が温かいものだなんて思わなかったのだ。
頷いてから、うれしくてリュートに飛びついた。