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冷静を取り戻したテリーは階段を下り、リュートが立っている側まで行き、手を太ももの上に置き、指同士を交差させ、猫背で胡座を掻いて座った。
リュートもテリーに倣い胡座を掻いて座った。
「全力疾走した後のようだ。わたしにはもう何も残ってはいない。ランクス・フォードがわたしの前に現れた時から、自分自身の姿を忘れ、ただがむしゃらに走っていたように感じる。わたしは国を治める主の器ではなかったようだ――何か聞きたいことがあったんだろ?わたしが答えられることなら何でも話そう」
テリーは和やかな顔で言った。
それを聞いたリュートは驚いた。
元々、テリーはこういう人ではなかったのかと。
冷静沈着で、物事を理解し、成し遂げられる人だったのではないかと。ただ、ランクス・フォードが目に前に現れ、自分を見失ってしまっていたのではないのかと。テリー自身も民の事を大事に考えていたのかもしれない。今になっては聞けはしない。レイピアをギリギリの所まで追い込み、民を考えない政治をしていたテリーには素性が分からなかったし、本人の失意によって問い詰める必要はないと考えた。例え、そうだとしても王位は返してもらわなくてはならない。レイピアはリュートが守るべき国なのだ。
「母について聞きたいんです。父は死んだと聞いています。しかし、母は未だとして真実が分かりません。あなたに本当の事を話して頂きたいと思ったんです」
「そうか。――君の母であるシフレ・サパンはとても美しい人だった。それでいて芯を強く持っていた。何事にも囚われず、凛としていた。素敵な人だった。争いが終わり、レイピアに着いた後、シフレを捕虜とはしたが待遇で饗すつもりだった。しかし。シフレは拒否し、ダンが死んだ今、ここにはいられないと自ら牢屋に入り、自分の命を絶ったのだ。公表しなかったのは、彼女のためだったんだ。王族の者が自ら命を絶ってしまったと伝わっては欲しくなかったんだ。たしが逃げたと思ってくれてもいい。だが、彼女、いや、シフレ・サパンは最後まで自分の信念を貫いたんだよ。――わたしが言った事を信じてくれとは言わないが、スミスならちゃんと教えてくれるのではないか?」
「貴方を疑うつもりはありません。しかし、スミスには言ってあるんです。自分の両親の事、そして、過去の事は占いで見ないでほしいと。己を守ってきた母に悪いと思ったので……」
リュートは声を落ち着かせて言った。
「そうか」
沈黙の後、テリーは言った。
「二人の墓は王族家の墓に葬っている。あとで、行くといい。そして、レイピアは君が守るべき国だ。そして、この指輪は君の指輪だ。受け取ってくれ」
首にかけていたチェーンネックレスを外し、飾りだったレイピアの紋章入りの指輪をリュートに渡した。これはレイピアの王位の証なのである。
「ありがとうございます」
リュートは預かると、指輪をはめた。
「これからどうするんですか?」
「そうだな。アーバンに帰って、隠居生活でもするよ。アーバンも息子に任せれば大丈夫だろうから」
テリーはそう言うと部屋から出て行った。