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 三日間かけて行われるレイピアの祝賀祭。その始まりの日に行われるのが、お祝いとして民から、又は、他の国からの献上物を捧げるというものだ。国の特産物や自分たちの店で有名な物。新鮮な食べ物から生地の名も挙がっていた。また地元では、国王の絵を描く企画まであり、盛況に盛り上がっていた。受付は前日まで行われ、その中には、刀剣屋&鍛冶屋の遊幻夢幻の名前も入っていた。常に城の門は閉ざされ、警備も行われているが、今回などの祭りになると城の門は開け放されているが警備は厳重になっている。

 全開に開けられた門には受付の場所があり、献上物と持ち物のチェックと身分証明書を提示を拒まなければ、城の中には簡単に入る事が出来る。その中に、ローブを着込み、フードを被っている二人組がいた。献上物は剣二本。顔は全く分からないほどに深く被っていて、誰だか分からないようになっている。身分証明書の提示を求められて、差し出し、警備兵はその者の顔を見ず、城の中に通した。

 身分証明書だけの提示で顔を見ないというのは、もし、違う人物であれば、困るので、証明書と本人の一致は確かめなければならない。それを不審がるのは正しい事なのだが、次々と城に入らなければいけない人たちがいる中で、すでに城に入ってしまった人たちを止めるのは、困難でもあった。しかし、それを見ていた者がその警備兵に尋ねた。

「ルドルフ、さっきの二人組の顔、ちゃんと確かめたのか?」

 そう、ルドルフに尋ねたのは、ルドルフと同期のラタン騎士団長のシェリーだった。金色の髪が腰まであり、風になびくと太陽の光でキラキラと輝きだす。整った顔をしていて、言わば、女性に言わせると王子様的存在の持ち主だった。

「大丈夫。あの二人、知り合いなんだ」

「だからと言ってな、周りに示しがつかないいんだ。それにしたって、お前、最近、みんなに怪しまれてるんだからな」

 ルドルフはフロドに会い、城に戻った後、すべての騎士団長に集まっってもらい、祭りが行われるこの日に国王に何があっても手を出すなと言ったのだ。不信がられるのも無理はない。騎士団は国王、そして、この国を守るもの。それに対して、何もするなというのだ。さらに、それ以上は何も言わず、ルドルフは去っていった。騎士団の中にも国王を慕ってない者が多い。できるだけフロドの邪魔になる物は少なくした方がいい。フロドとフェイの計画を知っているルドルフは少しでも力になりたかった。それが国王を見捨ててしまう事になっても。

 この話は、騎士団の者のみでまわっていた。騎士団の他に、近衛隊がいるが、その者たちは、レイピアの神官、ランクスに選ばれた者たちであり、国王にも通じているため、論外にされていたのだ。

 この話に賛同した物はいた。しかし、シェリーだけは自分の意見を変えなかった。自分は国王を守らなければならないのだと。シェリーが尊敬していたのは、レイピアの前の国王ダン・ウィルである。しかし、現国王なっても、この気持ちは変わらないと言い張ったのだ。どんなに酷い政治をしていてもだ。自分が守りたいのはこの国で、それをまとめているのがどんな国王であれ、守り抜くと。それが、シェリーの言葉だった。

「シェリー。お前の気持ちは変わらないんだろう?」

 ルドルフは聞いた。

「変わらない。自分で決めた事だからな」

 そう言って、シェリーは踵を返した。その後ろ姿を見ていたルドルフは淋しそうな顔をしていた。



 祝賀祭の記念としてレイピアの国王に送る献上会が行われていた。

「次の方どうぞ」

 そう王宮の者に呼ばれて、入ってきたのは、あの客の中でローブを羽織り、フードを深く被った二人組だった。持ってきたのは二本の剣。一つは赤色の柄に黒の鞘の剣、そして、青色の柄に金色の鞘の剣だった。

「おー、これは素敵な剣だ、先程の剣も見事だったが、その剣も見事だ。近くでよく見せてもらえないか」

 テリーは言った。それも、煌びやかな椅子に座って。そして、その椅子はその昔、レイピアの前国王が座っていたのと同じものだった。

「その椅子のすわり心地はいかがですか?」

 若い青年の声だった。自分の言葉に対して、動かない客。しかも、椅子のすわり心地を聞いてくる客に対していやな感じはしたが、来てもらった客に対して声を荒げる事もなくテリーは答えた。

「あぁ、とてもすわり心地がいいよ」

 客は立ち上がりながら言った。

「そうですか。それはよかった。ただそこは、あなたの座る所ではありませんよ」

「なんだと?」

 平常心を保っていたテリーだが、客だといって自分を侮辱するものに対してまで、平常心を保てるほどテリーは紳士ではなかった。

「ずっと思っていたんだ!私に対して、顔も見せずその態度は何だ!!顔を見せろ!!」

 その声にびっくりして中にいた人たちがぞろぞろとその場を去っていっていた。しかし、その様子はテリーの目には映らず、ただ目の前の人物を見ていた。怒りがテリーを包んでいた。

「いいでしょう」

 二人は一斉にローブを脱ぎ捨て、献上品だった剣をそれぞれ持った。赤髪の人物は赤色の柄の剣を。水色の髪の人物は青色の柄の剣を。

「貴様、ロイド・マンティーン・ダグラスだな。――なぜ生きている!!」

「いつ、オレたちの死体を見た。ちゃんと確認したか?」

「そうだ、死体はなかった。だが、殺したと知らされた。だから信じたというのに。……どういうことだ、ランフォード」

 テリーは勢いよく振り返り、横にいるランフォードを見た。

「オレはただ報告しただけだ。それを信じ、ロイドたちが死んだと決めつけたのは、貴方だ。オレに当たるのは筋違いってもんだ」

「どいつもこいつも」

 こぶしを強く握り締め、震えていたテリーはもう一人の存在に気付かなかった。

「完全に無視しちゃってくれてるね。話に混ぜてくれない?」

 口の端を挙げて語りかけてきた者に苛立ちを感じながらも言った。

「お前は誰だ」

「名前を知っている者には『貴様』で、知らない者には『お前』ですか。いいご身分だ事。あたしは、フェイ・ユートリア。まあ、あなたには興味はないわ。あたしの目的はあなたの隣にいる男。けど、あたしはリュートと手を組む事にしたのでね。加勢してるわけ。――そうそう、言うの忘れてたけど、この剣はあなたに捧げる物ではない。あなたの命を奪うものよ。さあ、ジタバタするなら今のうちよ?」

「貴様も貴様だ!私に対して、その侮辱。生きては返さんぞ!!たったとこいつらを殺してしまえ!!」

「何とまあ、国王あろうものが悪役みたいなセリフを吐くなんてね。とんだ落ちぶれ者だわ。この国が在るのはあなたが居るからではない。国を守っているのは、騎士団たち。そして、政治を成していたのは、言いたくはないけれど、ランフォードのおかげ。あなたの力ではない」

「黙れ、小娘」

「その小娘に散々言われているのは誰かしらね?結局のところ、あなたの目の前で事実を見せなければ、観念しそうにないわね」

 テリーとフェイが話している内に、兵士たちが集まってきた。しかし、それでも、十数人だ。ルドルフのおかげで国王を守ろうとしている人数は減っていたようだ。しかし、まだ、国王を守ろうとしている者がいるとは思わなかった。こんな国王でも慕う者はいるという事なのだろうか。

「あいつを守る価値なんてあるんですか?」

 フェイはこの兵士たちの中心人物なる者に聞いた。長い金髪のきれいな青年だった。

「この国王に守る価値があるなど分からない。だが、この国の国王を守ると誓ってきた。この信念は曲げられない」

「そうですか、だったら、その国王がいなくなれば、あなた方は引いてくれるという事でしょう?――いいでしょう。どうぞ、向かってきてください」

「フェイ。多勢に無勢だ。いけるか?」

「任せなさいって。リュートもいける?」

「大丈夫。そのまま進めばいい」

「分かった。後は任せる」

 二人はお互いで何をしようとしているのか分かっているようだ。少ない会話で、事は起きた。


 フェイは腰に掛けていた剣を左手で抜き、前に構えた。フェイとリュートは背中合わせで構えると、兵士たちと向かい合った。

 それが合図かのように、それぞれに五、六人が立ち向かってきた。

 フェイは前に勢いよく飛び出し、後ろの腰の差していた剣を鞘から逆手で出し、前に構え直した剣を一人目の兵士の剣とクロスさせ、力を受け止めた。剣が合わさった瞬間に青白い火花が咲く。さらに、その剣をスライドさせ、力を受け流した。次に来た兵士を姿勢を低くしたまま、切っ先を後ろに流しながら右下から相手の腹を切りつけた。一旦、立ち止まって、剣に着いた血を振り落とす。

「死にはしないわ。殺す気はないから。目的の場所に行きたいだけ。でも、邪魔するんでしょ?」

 兵士は答えた。

「当たり前だ。我らをなめないでもらおうか」

「あら、女だと思って手加減してるのは誰なんでしょうね」

 兵士は苦い顔になった。図星のようだった。

 フェイは兵士が怯んだ隙にさらに前に進んだ。剣を持っている手首を切り落とし、それを見て一歩下がった兵士の足に深い傷を負わせた。

 それを見て、前の視界が開けると、赤い絨毯がひかれている階段を駆け上り、テリーを見入った。

 テリーは逃げる事もなく、ただ、今の現状を見ていた。自分の命は守られると自負していたのか、それとも、ただの馬鹿か分からないが、フェイにとっては好都合だった。

声をワントーン落として言った。

「それ以上動くな。――動いたら、あんたの首があの血の海の仲間になるよ」

 逆手で切っ先を後ろに流したまま柄を逆に持ったまま、ひざを折り、椅子に座ったままのテリーの首に刃を当て血を滲ませて少し痛みを与える。

「後ろも剣を置いて」

 「は、早く置くんだ。わたしの命が狙われているんだぞ!!」

 テリーはフェイに怖さを覚え、兵士たちに命令した。

 徐々にガシャンと剣を落とす音が聞こえてきた。

 リュートはシェリーに言った。

「シェリーさん、分かっていただけますか?部下の命を顧みず、さらに、自分の命が危ぶまれれば、剣を置けと言う。これが、あなたが慕っていた人物なんですか?あなたが心から尊敬していたのは、父であるダン・ウィルではなかったんですか!」

「なぜ、オレの名前を知っている?」

「ルドルフに聞いたんです。あなたを止めてくれるようにと」

「ルドルフがあんな事を言い出したのはあなた方が来るからだったんですね」

 シェリーはそういうと負傷している兵士に肩を貸し、出て行こうとした。しかし、それをテリーが止めた。

「わたしがこんな状態なのに、お前は助けようともしないのか!!」

「剣を置けと言ったのはあなただ。それにオレはあなたを守りためにここにいたわけではない。レイピアを守るためにここにいるんだ。……では」

 シェリーは頭を下げてから、この場を去った。

「まだ、気付かないの?」

 フェイはテリーを哀れむように言った。

「何だと?」

「さっきも言ったけど、国を守っていたのは騎士団たち。政治をしていたのはランフォード。あなたは椅子の座っているただの人形と同じだったのよ。あなたには何かをする力など残ってはいないわ」

 そう言われて、テリーは椅子からひざを折り、崩れ落ちた。

「後は任せるわ。あたしはランフォードを追うから」

 フェイはそう言うと。いつの間にか居なくなっていたランフォードの後を追った。

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