キング
謎の男集団に連行されて一体どれくらい経ったんだ。
私は薄暗い部屋で、木製テーブルの上に黄ばんだ毛布を敷いたぞんざいなベッドに寝かされていた。
まだ意識がもうろうとしている。
「ここはどこだ、誰か出でこい!」
そう大声で叫ぶと耳に激痛が走り、そのショックでうめきながらようやく起こした体を
またベッドに倒してしまった。
なんだ、一体やつら何をした。
しばらく仰向けになっているとさっきの叫びを聞いてか、
男が一人駆けつけてきた。
そして私の右腕をつかんで、見下しながら怒鳴った。
「これから尋問の時間だ。お前がシネリオの戦いのことを吐くまで帰さん!」
「なんのことだ、私は知らんぞ」
「うそをつくな!」
男は小さなナイフを私の右腕と胴体の間に刺し立てる。
全身に悪寒が走った、なんとかこの場を切り抜けなければ。
下手をすれば殺される。
「ああ、分かったよ。きちんと説明する。
とにかくその場所まで連れて行ってくれ」
知っているんだな、そう低い声で訊く男の問いに無言でうなずいた。
尋問が行われるという部屋まで連れて行かれる途中でまた別の男に出会った。
直接聞いたわけではないが、彼の名はチャールズというらしい。
どうやら新入りのようで、私を連行していた男が見ない顔だと疑ったので
チャールズだと名乗っている会話が石の壁に反響して聞こえてきた。
彼はあの男には陽気に話していたが、私と話すときは態度が豹変しこちらを睨んで
交わす言葉も一言、二言だ。
やがて例の部屋に到着し、背中を押されて先に入れられた。
入ってみると、来た道と同じく壁は石造り。
なぜか天井だけが木でできており、部屋に来て数分の間に
何度もきしむ音が聞こえる。
後は特になにもない簡素な造りだった。
「まあ座って」
部屋の奥に立っていた細身の男が私に言った。
「どうも。私はここの責任者のチェンバレンと申します」
彼のその対応に少々驚いた。
今までの男たちは皆非常に乱暴だったからだ。
チェンバレンというその男性は服装も燕尾服のような正装で
紳士的な印象だ。
「さて本題に移ります。貴方、シネリオの事をご存知ですね?」
「ん、まあ知っているが」
嘘をついているとばれないようにしっかりと相手の目を直視する。
「お話願いましょう」
相手も鋭くにらみ返してくる。
数秒沈黙が流れた。
急かすような視線がチェンバレンと連行してきた男から向けられる。
私が何か言おうと口を開きかけたそのときだ。
沈黙を破ったのは嘘の告白ではなく男の叫びだった。
驚いて後ろを振り返ると、私を連れてきた男の腹に果物ナイフが深く
突き刺さっていた。
チェンバレンが悲鳴を上げる。
それと同時に何者かに腕をつかまれた。
今度は私が殺される番か、と恐怖に駆られたが、
そのままナイフは刺さらずに腕をつかまれたまま部屋の外へと
引きずり出された。
「一体どういうつもりだ」
もと来た道の半分あたりまで連れ戻されて、ようやく落ち着いた私は
自分をここまで連れてきたチャールズに問いかける。
「奴等にシネリオの事を話されては困りますからね」
血のついたナイフを地面に捨てて、彼は平然と答えた。
何を言っているんだこいつは、私とシネリオにどう関係があるんだ。
「300年ぶりですね、キング」
「何をわけの分からないことを言ってるんだ、私はウィルマだ」
「おや、お可哀相に。記憶を失われてしまわれたんですか」
「おい、聞いているのか。私はキングなんかじゃ」
怒鳴っている最中に急に視界が開けた。
ようやく外に出れたのだ。
さっきまでの暗い場所と違って一気に明るいところに出たので
眩しくて仕方がない。
目を細めながら外の様子を見ると14人の男女入り混じった集団が
こちらに向かって何かを叫んでいる。
はじめは全く聞き取れなかったが、次第に鮮明に聞こえてきた。
そして分かった。
その14人全員が私に向かって「キング」と叫んでいるのを。