シネリオ
前話のあとがきで述べたように、
今回から少し雰囲気が変わると思います。
「エスター!どこに行った!」
家中のあらゆる場所を探したが彼はどこにもいない。
子供の体の大きさならと、わずかな希望を抱いて押入れなども
開けて隅々まで調べつくした。
ついにこの時が来たか。
最近エスターは私に反抗的になってきているのは分かっていた。
私も自分なりに勇気のいる決断だったが、いつまでもケネスのことを
引きずっていては家族にとっても彼女にとってもいい事ではない、
お互いの踏ん切りがつかない、そう思ったからだ。
なのに家具を処分したことにあそこまで息子に恨まれるとは。
外に探しに行こう。
靴を履きに玄関へ向かう途中、いつもの汚い廊下に出ると急に悲しさがこみ上げてきた。
普段なら散らばったごみを見た次の瞬間にはエスターの部屋に
怒鳴り込みにいくところだが、今はそのエスターがいない。
「どうした、別に死んだわけじゃない」
自分にそう言い聞かせるその声が震えていた。
そして行き場のない悲しみを振り払うかのごとく、玄関まで全力で走った。
仕事用にも出かける時にも履いているボロ靴のかかとを踏んだまま
玄関ドアのドアノブに手をかける。
そのときふと気がついた。
ドアの建てつけが悪くなり、自分で修理したときにやや高めに釘で開けておいた
ドア穴の向こうに人の姿が見える。
かかとを踏んでいるせいでいつもより身長が数センチ伸び、目の高さと
穴の高さがちょうど一致している。
私はノブを力1杯回して訪ねてきた者たちに早口で話した。
「せっかく来ていただいたところ悪いんですが、今急いでるんです。
息子を探しに」
言い終わらないうちに私の視界にエスターの姿が入った。
「ああどうしたんだ、いや無事でよかった」
しゃがんで息子の小さな肩をつかむ。
彼の瞳は私を1直線に見つめていた。
しばらく息子の無事に安堵していたが、ふと我に返り同行してきた
男たちの方へと視線を上げた。
「あんたたちが息子を連れてきてくれたのか?」
彼らはなにも答えずただじっと私を見下ろしている。
そしてエスターの服の襟元をつかんで自分のほうへと引き寄せて
私に聞こえないように耳打ちした。
なにをやっているんだ。
事の成り行きをただじっと見守る。
しばらくして再び耳打ちしていた男が私に向かって
エスターを押し戻した。
「済んだのか?だったらほら、もう家へ入ろう」
「ねえパパ」
パパと呼ばれたのはいつぶりだろうか。
「ん、どうした?」
「シネリオの戦いって何?」
驚いた、妻も私にシネリオの戦いと言っていた、まさか息子の口からもそんな馴染みのない同じ言葉が
発せられるなんて。
「なんだいきなり、パパだってそんなこと知らないよ」
軽く笑いながらふと男たちのほうを見ると、鬼のような表情でこちらを睨んでいた。
「連れて行け」
彼らのなかでひときわ目立つ長身の男がそう命令すると
彼ら全員が私を取り押さえた。
必死に抵抗する私の頭に、なにか硬いもので殴られた衝撃が走った。
薄れる意識の中で血のついたレンガを片手に持った男と、怯えているエスターの姿が目に入った。
あまり雰囲気かわりませんでした。
でも次回こそは…