息子の失踪
ケネスの誕生日を2人で一緒に祝った後、まだ降り続く大雨の中急ぎ足で帰宅した。
車1台分の薄暗い車庫の上に建っている簡素な1軒家、これが私の家だ。
私が戻るときにはいつも息子の部屋の明かり以外は消えていて、その部屋の破れたカーテンの
隙間からゲームに没頭する姿が覗える。
我々の時代では考えられない。
4歳のころといえば近くの公園に出てはサッカーや砂場で遊んだものだ。
天候とともに時代が変わったなと苦笑した。
白く、ところどころ表面がはがれている古い木のドアを開け、玄関に入ると
息子の食べかけのお菓子や遊びっぱなしのゲームが放り出されていた。
昨日注意したばかりのことがもう守れていないのか。
1度は諦めかけたが、やはりこのまま自堕落な生活をさせるわけにはいかない。
床を貫かんばかりの勢いで足を踏み鳴らしながらノックもなしに息子の部屋のドアを開いた。
「なんだよ、いつも勝手に入るなって言ってるだろ!」
「廊下に出て片付けろ、今すぐにだ」
私の前にやってきて何をするのかと思えば、なんと怒っている父親を押し出して
再びドアを閉めた。
音をたてて閉じられたドアを前にして大きなため息が漏れた。
あいつはケネスにはなついていたのに、そう思うと踏ん切りがついたはずなのに
また彼女が恋しくなってきた。
いつも彼女が使っていたソファ、クッション、ベッドなど全て置いてあったのだが
これを見るとまた思い出してしまう、そう思ってこの間一気に処分した。
それが息子には不満らしく、しまいには「お前が母さんを殺した」などと
言いがかりをつけられる始末だ。
まだ子供の彼には早すぎる親の死だったのかもしれない。
その日はそれ以上怒る気にもなれなかったので放っておいて、また後日に
説教は改めることにした。
翌朝起床してリビングへと入ると、もう食べた後のフレンチトーストの皿が
無造作に置かれていた。
「おいエスター、食器はちゃんとキッチンに戻しておけと言っただろう!」
おそらく彼がいるであろう部屋へと大声で怒鳴る。
確かにリビングから一番遠い玄関まで怒声は届いたはずだが
息子からの返事はない。
「おいエスター!」
念のためもう1度叫んだがやはり返事は返ってこない。
仕方がなく彼の部屋まで行き、今回はちゃんと入るぞとノックして
ドアを開けた。
するとそこには彼の姿はなく、食べかけのお菓子の袋と食べかすが散乱しているだけだった。
これといった盛り上がりがなくてすみません。
序盤はそういう感じです。
次回からは少し変わりますので