魔法を使う者
(わかっているさ。わかっているとも。マリアは無理やり私と結婚させられただけだ。俺には・・・あの時の記憶もあり俺一人だけの一目惚れだったんだ。それなのにその自分の好きになった女を無理やりに自分の物にしてしまった。マリアは・・・さぞや悲しんだだろう。きっと好きな男だっていたはずだ。それに、私は魔王の息子で魔界の王子だ。人間のマリアが私を怖がらないはずがない・・・)
「わかって・・・いるみたいだな。ってことわだ。彼女が操られて言った言葉は本音ってことだぞ?お前はあそこまで言われても彼女を手放さないつもりなのか?それで彼女が幸せになれるとでも?」
ウィリアムはロシュに詰め寄った。
ロシュは下を向き悲しそうな表情を見せていた。
「お前なら条件をなくして彼女を自由にできるはずだ。彼女の幸せを思うなら彼女から手を引け。」
ウィリアムはわざと心配しているという表情を作りロシュを見つめた。
「・・・・俺はー・・・・・・・」
「う・・・・ん」
「マリア?マリア!私がわかるか!?マリア!」
「あ・・・にう・・・え?」
その頃ちょうどマリアが目を覚ました。
「あぁ、私だ。ユリアスだよ。マリア。良かった。無事目を覚ましてくれたのだな。どこか痛いところはないか?気分は悪くないか?」
ユリアスに色々質問されまだ完全ではない頭を働かせ問題がない事を確かめた。
「大丈夫です、兄上。あの・・・私は今まで何を??」
「覚えていないのか?」
「はい・・・。サギネル王国の一室にある寝台の上で気を失ってからの記憶がなくて・・・どうして今ここにいるのかさえ・・・」
「そうか、そうか。いいんだ。無理に思い出さなくていい。お前が無事だったならそれだけで・・・」
ユリアスはマリアに優しく微笑んで見せた。そしてマリアをそっと自分の胸の中に入れ抱きしめた。
マリアは記憶がなくともユリアスのこの状態で自分がユリアスにとても心配をかけてしまったことに築きユリアスの腕を避けずそっと瞳を閉じユリアスの胸の中へと収まった。
しばらくしてユリアスが腕の力を緩めるとマリアは瞳を開けた
「あの・・兄上?」
「どうした?」
「ロ・・・ロシュ様は・・・どこに?」
「・・・・寝室にいるよ。」
「そ、そうですか。」
そう言いマリアは寝台から降りようとした
「もう動いて平気なのか?」
ユリアスが心配そうにマリアの両肩に手を添えてくる。
「いっぱい寝ましたから。平気です。」
マリアは心配させまいと笑顔でそう言った。
それを見たユリアスはホッとしたようにマリアの寝台から離れた。
マリアは寝台から降り立ちあがると
「あの、兄上。私、ロシュ様のところへ行ってまいります。」
「行ってらっしゃい。無理はするなよ?」
「はい!」
マリアは微笑みながら返事を返し、ユリアスに一礼すると部屋を出て行った。
(眠ってからの記憶はないけど・・・その前のものならある・・・ウィリアム様は確かに言ったわ。ロシュ様はあの時の男の子だと。もしそれが本当ならロシュ様は・・・)
そう心の中で呟いてマリアは足を止めた
「ううん・・・。ロシュ様が誰であっても関係ないわ。私はロシュ様が好き。それだけはまぎれもない事実よ」
そう言いながら胸の前まで腕を上げ手をグッと握った。
コンコン
ロシュの部屋内にノック音が響き渡った。
しばらくして「はい」という声が聞こえマリアは扉を開けた。すると、ベッドで身体を起こしているロシュを見つけたマリアは驚いた表情で寝台に駆け寄った
「ロ、ロシュ様!?どこかお悪いのですか!?何かの御病気ですか!?」
そう聞いてくるマリアをロシュは見やった後
「いや、大丈夫だ。少し立ちくらみをしてな。もうすっかり元気だ。」
それを聞くなりマリアはホッとしたように胸にあてていた手を撫でおろした。
「あ、あのロシュ様・・・」
「マリア」
「は、はい!」
質問しようとしたマリアの言葉をロシュの声が遮った。ロシュは真剣なまなざしをマリアに向けていた。
「悪いのだが・・・別れよう」
「え・・・・・・・」
「条件を無しにしようと言っているんだ。そのかわり、召喚されたのに違いはないからな責任を持ってこの国は守らせてもらう。構わないか?」
「な、なぜ、そのような事をいきなり仰るのですか・・・?」
マリアは同様を隠せないままに聞いた。
「別に理由などない。疲れてしまったのだ。遊び半分で人間と結婚してみようと思ったが、人間はめんどうな生き物だ。魔法も使えないし、心も弱い。そんな者達と一緒にいてもいいことがないとわかったんだ。・・・・っ!」
そう言いながらマリアの方を見ると、マリアの瞳からは涙が流れていた。
「そ、そういうことだ。だから私は魔界に帰らせてもらう。この国には結界を張ってある。私が生きているかぎりサギネルの者はだれ一人この国には入れないだろう。それでは、さようなら」
そう言い残しロシュは姿を消してどこかへ行ってしまった。
「ロ・・・シュ・・・様・・・・っっ!!!」
マリアはベッドに頭を伏せ声にならないほどの泣き声を出した。
マリアの帰りが遅い事に心配したユリアスはロシュの部屋へと向かっていた。すると、暗闇の中からマリアが歩いてくるのが見えてユリアスはマリアに駆け寄った。そして目にした物を見て安堵した。マリアの頬には泣きじゃくった後で真っ赤に腫れあがり、瞳には一寸の光も存在してはいなかったからだ。
ユリアスは何があったのかは聞かずそのままマリアをまた自分の胸の中で抱きしめた。
抱きしめられた事にもきづかずマリアはそのまま立ちどまっていた。
(「さよなら」)
マリアの頭の中ではロシュが最後に口にした言葉がこだましていた。
「マリア姫はどうしたロシュ。」
ロシュは魔界城に帰ってきていた。帰ってきている事に案じた魔王はロシュに聞いた。
「お前がここにいるってことはもしや、マリア姫も魔界にいるのか?」
「父上、マリアとの結婚なかったことにさせていただきます。」
「・・・・なぜだ?望んでいたのではないのか?」
ロシュは魔界城の謁見の間、玉座の置いてある段の下で肩膝を付き頭を下げ王にマリアとの結婚なかったことにさせていただけないかとこうべを垂れていた。
「私は・・・父上のお察しのとおりマリアが好きでした。」
「であろう?だからわしは召喚されたことを良い事にあちらの王に結婚という条件を出したのだぞ?」
「はい。ですが、それではマリアの意思はどうなるのでしょう・・・『条件』などというもののために魔界の人間に嫁がされるマリアの意思は・・・」
「・・・・・」
魔王はロシュの言葉を聞くなり押し黙ってしまった。
ロシュは何も言わない魔王を背にして謁見の間を出て行った。
(これでいいのだ・・・これで・・・)
自分にそう言い聞かせていた。
「マリアの調子はどうだ?」
謁見の間にある玉座に腰をおろしていたカルオは心配そうにロールに聞いた。
「はい・・・何も食べたくないとだけ仰ってお部屋に籠っておられます・・・」
ロールは心配していた。姫が幼い時から傍にはいたがこのような事初めてで困りはててしまっていた。
「ロシュ様は見つかったか?ユリアスよ」
ロールの横には同じく肩膝をつき頭を下げているユリアスがいた
「それが・・・城の中だけでなく町の中も探しましたがどこにもいませんでした・・・・。あいつ・・・!マリアに一体何をした!!!!」
ドカッ!!!とユリアスは床を殴りつけた。
するとユリアスの前、何もない空間から光が溢れだし、その中から魔王が姿を現した。
「ミルオン王国王カルオよ。話があってまいった」
「魔王様!ロシュ様が消えてしまわれてしまいました!もしや、この国は救う価値がないということですか!?」
カルオは立ちあがり魔王に聞いた
「いや、この国にはいまだに息子、ロシュの結界がかけられております。話というのはロシュとマリア姫の事についてです」
「姫の?」
「ええ、このたび、私がそちらに差し出した条件を無にして二人の結婚をなかったことにさせていただきたい」
「「!!??」」
その場にいた。カルオ・ユリアス・ロールがそろって驚いた。
「我が息子。ロシュは・・・とても優しい子なのです。時期魔王候補でありながらに自分の事より相手の事を思ってしまうほどに・・・。ロシュは、マリア姫を『条件』という言葉だけでしばりつけてしまうのはあんまりだと言いました。一人の人間の幸せも守れないのでは一人の妻の『夫』にはなることはできないと・・・なんとも馬鹿げた事を言い出しました。」
「・・・・・・そ、それでは。この国と隣国サギネル国との長き戦いを終わらせるにはどうすればよいのですか??結界を張っているだけでは戦いが終わったとは言えません。それではあくまでこの『国と城』を守っているだけです。国の周りにある自然は罪もないし守る事はできません。」
「聞いたところによれば、サギネルにもマリア姫と年の近い王子がいらっしゃるそうです。」
「・・・それ・・が?」
「サギネル国第一王子とこの国の姫を結婚させれば国は合体し今まで以上に素晴らしい物となりましょう。それに、その方がマリア姫も幸せかと・・・っ」
言いきる前に魔王の元に剣が飛んできた。魔王は何もないようにヒラリと剣を避け飛んできた方を見やるとそこにはユリアスがいた。
「ユ、ユリアス!な、なんということをするんだ!ここにおられるのが誰なのか知らないわけではないだろう!」
カルオは驚き目を見開いたまま玉座のある段から降りてきた。
「わかっております。わかっておりますが・・・魔王の言葉を聞いていたら怒りを抑えきれず・・・」
「何か意見があるのなら聞こう。」
魔王はそう言った。
「あなたま今、マリアにはマリアの意思があると言いましたね?」
「ああ」
「でしたら、何故マリアは今部屋に籠りこの2日間何も飲まず食わずなのですか?それに私がマリアの帰りが遅い事を案じてロシュ様の部屋へと迎えに行った時マリアは瞳から光を失い声までも失ったような状態でした。そして頬には涙の後があったのですよ?私は・・・マリアがまだ幼い時約束しました。『何があっても守る』と。あの子はその約束をしてから私や父上に心配させまいと毎日笑顔を絶やさず見せてきました。そのマリアが今ではあのような状態なのですよ?私には・・・マリアはロシュ様の事が嫌いだったようには思えないのです・・・」
「「・・・・・」」
魔王とカルオは黙ってしまった。
最初に口を開いたのは魔王だった。
「それでも申し訳ないが、私にとっての一番は息子なのだ。あなたには悪いがロシュの事は諦めてください」
そう言い魔王は一礼をしてきた時のような光の中へと戻って行った。