魔法を使う者
「お前は可愛いよ、昔も今もね。」
マリアが気を失う寸前ロシュがそう言ったような気がした。
「ん・・・・?・・・あら・・・何故私はベッドに・・・・あ!」
ベッドから起きた後少し困惑したが何故自分がベッドにいるのかを思いだし、さっきまで自分がどこでロシュとどんな事をしていたのかを思い出し頬を染めた。
(私ったら気を失ったものだからロシュ様が運んでくれたんだわ・・・あ・・・あんなところであんなことを・・・)
マリアはベッドから身体を起こしそのままベッドから降りようとすると
「え・・・?か・・・からだが・・・うごか・・ない?」
マリアの身体はそれ以上動こうとはしなかった。すると突然どこからか声がした
『ミルオン国第二王女マリア様であらせられますね?』
―――――だ、だれ!?え!?こ、声が・・・出ない!?―――――――
さっきまで出ていたはずの声までも奪われてしまっていた。
『申し訳ありません。騒がれてしまっては少々面倒な事になりかねないので声は奪わせてもらいました。ご了承ください。』
そう言うと寝室の隅の暗闇から黒装束の胸にはサギネル王国のマークが施されたバッジが飾られている男が足音を立てずに歩き姿を現した。
『マリア様にお願いがあってまいりました。』
黒装束の男はそう言うとマリアのベッドの傍に立ち
『我が王国。サギネル王国第一王子ムーン・ミラン様がマリア様をご所望ですので私と一緒にサギネルまで来ていただきます。申し訳ありませんが拒否権は差し上げることはできませんのでご了承ください。』
男はそう言うとマリアの布団をはがし、寝着姿のマリアの背に片手を両足の膝の裏にも片方の手を通して抱き上げ小声で意味のわからない言葉を告げるとマリアの身体に急に眠気がおとずれた。
その頃ロシュは魔王召喚の時使われた塔の部屋にいた。
「魔界に住みし古の精霊達よ我は魔界国第一王子ロシュ・ゾーン、今我の前に姿を現し我に従え。」
自分の手に剣で傷を付け血で床に魔法陣を書くとロシュは何やら言葉を話始めた。
ロシュが言葉を言い終わると同時に頭の上で光輝く物が出てきた
『ロシュ・ゾーン様、古の契約のためはせ参上いたしました。命令をどうぞ』
光の中から低い声が鳴り響き
「この国、ミルオン王国の周りに結界を張り他の者の侵入を許すな」
そう言うと「御意」とだけ告げ光は消えた。
部屋の隅でそれを見ている者がいた、ミルオン王国第一王子でマリアの兄のユリアスだった。
ユリアスはロシュがいつかミルオンを裏切りサギネルに付くだろうと決めつけ魔法を国にかけるところを見ていたのだった。
「今のはどのような魔法をかけたのだ」
ユリアスが聞くとロシュは後ろに踵を返しユリアスの方を見て言った
「魔界に住み古くから私の一族に付き従っている魔神を呼び出しこの国全体に結界を張らせました。結界と言ってもその結界は特別なものでその魔神自信が姿を変えて結界の姿に変形したものなのでもしも結界を破るような事があったり、通り抜けされたりすることがあればすぐに私のところに知らせが来るようになっています。」
それを聞くなりユリアスは不機嫌そうな表情を緩める事なく何も言わず踵を返しその場を後にした。
「さて、そろそろマリアが目を覚ますな。王のところにはマリアと赴く事にしよう」
10年前魔界の森を狩りと称して探索していた時、どこからか鳴き声が聞こえてきた事がある。俺は鳴き声を辿り森の奥に進んで行くと鳴き声が近くなったところに人間界へ行くためのひずみが開いてしまっていた。それより少し歩いたところから鳴き声は聞こえていて俺は葉をどけ鳴き声のするところを除くとそこには一人の少女が座りこみ両手で顔を覆って泣いていた
俺の中で何かが一瞬ドキリと鳴ったがその時の俺はまだ幼くそれが恋とはわかっていなかった。その少女の名は「マリア」人間界にあるミルオンという国の王女だと言う事がわかるとそのまま彼女の手を握りひずみまで連れて行った。
ひずみの中に入り森がもうすぐで終わるというところで俺はマリアの額に手をかざし魔界での記憶を全て奪い彼女の背を押し、そのまま姿を消した。それからの10年間の間俺は「あの時の少女は元気にしているだろうか?」「見たところかなりの泣き虫だったが、また迷子になっていないだろうか?」「今頃何をしているのだろうか?」
と少女の事を考え時はなかった。そんな俺を見て魔王は息子のためにとでも思ったのだろうちょうど召喚で呼び出しをされた時自分自身が赴く事を俺に告げ人間にあっさり召喚されやがった。そして俺は良いと言っていないのに勝手に条件なんか出しやがった。
だが、そのおかげで俺はまたマリアに会えた。
もうマリアの悲しむ顔は見たくない。俺が絶対に彼女を守ってみせる。
そう決意しながらロシュは塔を後にしマリアの眠る寝室に向かった。
その頃サギネル王国では
「ん・・・ここは・・・?」
私今まで何してたのかしら?えっと・・・ミルオンのベッドで目を覚まして身体を起したらそれ以上身体が動かなくて・・・・っ!?
マリアは自分が今どこにいて何があったのかを思い出し身体を起こした。どうやら術は解け身体も動くし声も出るらしい。
「ここは一体・・・?誰の寝室なのかしら・・・」
マリアが不思議がって部屋の中をベッドの上から見渡していると
コンコン
部屋の扉をノックする音がしてマリアの身体はビクついた。するとマリアの返事を待たずに扉を開けたのは、舞踏会の日の夜マリアやロシュ・カルオやユリアスの目の前に現れたムール・ミランだった。
「目が覚めたんだね。」
そう言いながら彼はベッドに近づきベッドの横に置いてある椅子に腰かけた。
「手荒な扱いをしてしまってすまないね。どうしても君と話がしたくて、部下に君をここに連れて来るように頼んだんだよ。」
「あなた様とお話することはありません。あなたの国と我が国ミルオンは敵対しているのですから何を話すと言うのですか?」
マリアがムール・ミランの言葉に即座に答えると
「そんなに怒らないで。あなたにそんな顔似あいません。あなたにお願いがあるだけなのです。」
「お願い?」
対、ムール・ミランにされた問いかけに答えてしまうとマリアは即座に手を口にあてる
「ええ、あなたにはロシュ・ゾーン様と別れていただきたいのです。そしてこの国に妃として来ていただきたい。もちろん私の正妻としてね。」
それを聞いたマリアは目を見開き口を動かし言葉を絞り出した。
「な、何を仰っているのかわかりかねます。私にロシュ様と別れて敵国に嫁げとおっしゃるのですか?」
マリアがそう聞くとムール・ミランは頷いた。
「はい。あなたの父、カルオ陛下は両国の戦争にけりをつけたかったから魔王を召喚し、そして魔王から出された条件をのんだのでしょう?ならば、魔王に助けなどこわず両国の王子と王女が結婚すれば二つの国は合体し今までより遙かに大きな物となりましょう。それに、そうすれば戦争する理由もなくなるのでは?今すぐ戦争をやめさせるにはそうするしかないと思うのですが」
―――確かにそうだけど・・・―――
だが、マリアには答えを考える理由はなかった。
「申し訳ありませんが。そのお話お断りさせていただきます。」
「!?な、何故です!?」
ムール・ミランは驚いたようにマリアに聞き返した。
「私はもう既にロシュ様の妻、そしてこの戦争をロシュ様は終わらせてくれると約束してくださいました。私はロシュ様のそのお言葉を信じたいのです。それに・・・」
マリアはそこで言葉を止めると瞳を閉じて続きを話した。
「それに、何故かロシュ様とは初めてお会いした気がしないのです。昔・・・幼い時に会った事があるような・・・そんな気がするのです。もしその記憶が本物ならあの方は悪魔などではありません。とても清んだ美しい心の持ち主だと、私は思います。なので、このお話お受けできません。申し訳ありません。ムール様」
マリアはそう言うとベッドの上から頭だけ下に下げて礼をした。
「そうですか・・・それでは最後に会ってほしい方がいるんです。」
「会ってほしい方?」
マリアがそう聞き返すとムールは頷き扉の方を見た。
「どうぞ」
ムールがそう言うと同時に扉が開いた。そこに立っていたのは外見がとてもロシュとそっくりな青年だった。
青年は扉を閉めてから扉の前で一礼をしてからベッドに近づいてきた。
「マリア様、この方に見覚えは?」
「ロシュ・・・様に、似ていらっしゃいますね」
マリアがそう言うと青年は頷き
「はじめまして。私の名はウィリアム・ゾーンと言います。外見が似ているのは私が彼の従兄弟だからでしょう。魔力はロシュの方がはるかに上ですが年は彼より上です。」
「ロシュ様の従兄弟が何故このようなところにいらっしゃるのですか?」
マリアがそう言うと何故かウィリアムの横にいたムールが質問に答えた。
「我が国もミルオンと同じく召喚を行ったからですよ。魔力はロシュ様の方が上かもしれませんが、こちらにはウィリアム様とあなたがいます。この国は元々魔法の国ですし魔力の違いなどどうにでもなります。それに、あなたをおとりにすればロシュ様はこちらの要求には逆らえないでしょうしね。」
ムールのその言葉を聞きマリアはムールの方を睨むようにして見つめた。
「どういう意味ですか?私をおとりにしてもロシュ様はこの国の言う事を聞く事は絶対にありえません。」
「ほぉ?それは何故です?」
「ロシュ様は・・・私を愛していないからです。元々この結婚は魔王様が我が国ミルオンを守ってくれるための条件だったからなのです。なので、ロシュ様は私を助けには来ません。」
マリアがそう言うとウィリアムが瞳を閉じ
「マリア様。あなたはどうやらロシュ様と会ったのは結婚式当日がはじめてだとお思いのようですね。申し訳ありませんが、初めてではありませんよ。」
ウィリアムのその言葉を聞きマリアは目を見開いた。
「え・・・・?」
「10年前、あなたは魔界に行かれた事があるのですよ。あの時ロシュ様と私は森で狩りをしていました。その時どこからか泣き声がしてきたのですよ。ロシュは一人で泣き声の元を探すと森の奥へ入って行きましたが私は心配だったので隠れて後を付いていったんですよ。そして、ロシュを見つけた時傍には一人の少女がいたんですよ。名は「マリア」と名乗ってましたね。あなたの事ですよね?ロシュはその後あなたを人間界に帰しあなたの魔界での記憶を消して森から出していましたよ。」
「・・それでは・・・それでは・・・あの時の少年はロシュ様だとでもおっしゃるのですか・・・?」
驚きを隠せない表情でウィリアムに問う
「ほう・・・記憶を消す魔法はどうやら失敗していたようですね。あなたの中にはロシュ様と会った時の記憶がまだあると?まぁ、それで結婚につながったのかは知りませんがね。」
マリアはその言葉を聞き手を口元に運んだ。
―――あの時の少年がロシュ様・・・それなら・・・私の初恋の相手は・・・!?ロ、ロシュ様って事!?―――――
マリアが驚いた状態でいるとムールが話しかけてきた。
「よくわかりませんが。お話は終わりましたか?まぁ、そういうことですのであなたにはしばらくこの城に滞在していただきます。そしてウィリアム様がロシュ様を抹殺した後、私とあなたの結婚式をあげましょう。」
ムールはそう言うとマリアの答えを聞かずウィリアムの方を向き何も言わないまま頷いた。すると、ウィリアムはマリアの枕元までやってきてはマリアの額に手を当て何やら呪文のような物を小声で唱えた。すると、マリアの視界が段々暗くなりそのまま後ろに倒れてしまった。
――――――ロ・・・シュ・・・さま・・・――――――