魔法を使う者
「それで?ミルオンは今どうなっているのですか?ウィリアム様」
その頃サギネルにある一室ムール・ミランの部屋ではウィリアムとムールが二人で話をしていた。
「はい。私がマリア姫にかけた魔法はロシュの手によって解かれてしまいましたが、それにいち早く気付いた私は即座にロシュの元へと赴きマリア姫の悩みを全て伝えてまいりました。あの調子ですとロシュの方から別れを告げるでしょう。今頃は別れを告げ終わっている頃合いかと」
胸に手をあて一礼した状態でウィリアムの目の前の椅子に腰かけているムールにそう告げた。
「では、私と姫の結婚はもう決まったようなものだな。早馬でミルオンへ文を出せ。明日ミルオンへ行く!」
「かしこまりました。」
そう言うとウィリアムは侍女を呼びに部屋を出て行った。
その頃マリアは。
コン、コン
静まりかえったマリアの部屋内にノック音が響き渡る。
マリアは布団の中からモゾモゾと顔だけを出し「どうぞ」とノックに応えた。
マリアの声の後扉が開き、そこに立っていたのはマリアの兄ユリアスだった。
「マリア・・・調子はどうだ?」
ユリアスはコツ、コツと足音をたててマリアの寝台傍までやってきた。
マリアは無言のままユリアスを見上げた。
「・・・・父上や母上、それにロール達が心配していたぞ?何か口に入れなければ熱もいつか出てくるだろうし。」
ユリアスはそう言いながら寝台横にある椅子に座る。
それでもマリアは顔を枕に埋めたままで何も言わなかった。
「マリア・・・。」
ユリアスは少し不安そうな、そうであって少し考えているような表情でマリアの名を呼び決意したように話を切り出した。
「マリア。城を出よう。私と一緒に」
「・・・・・・ぇ?」
それを聞いたマリアはやっと枕から顔を上げユリアスの言葉を聞き返した。
「今さっきサギネルから早馬で文が届いた。そこには“明日ミルオンへマリア姫に結婚を申込に参ります”と書いてあった。」
「っつ!!!」
それを聞いたマリアはベッドから勢いついて起き上った。
「父上には前々から話をしてあった。もし、ロシュがお前やこの国を裏切るような事がありお前が悲しい目にあうような事があるならば私がお前を連れて城を出てお前を守って生きて行く。・・・そう父上にお願いした。私は・・・もうお前が嫌いな人間と国のためと言って結婚するとこを見たくはないのだ。それにサギネルは敵国だ。何があってもお前をあちらに渡す気は父上や母上、国の者たちにもない。」
ユリアスはそう言うと頭の中で過去の事を思い出していた。
(7話)『父上・・・・お願いがあります・・・・』
『なんだ?改まってお願いなど、めずらしいな。』
カルオは苦笑じみた表情をユリアスに見せた。
『父上は、マリアが行方不明になったことを覚えておられますか?』
『忘れるわけがなかろう?あの時はわしもお前も一緒に城の外にマリアを探しに行ったのだからな。サリナも今にも泣きそうな顔で心配していたしな』
ユリウスは頷くように目を閉じ俯いた。
『私は、泣いているマリアを見つけた時約束しました。『何があっても必ず守る』と。』
カルオはユリアスの話を黙って聞いていた。
『マリアは・・・自らの意思でこの国のために嫌な者と結婚しました。私は、今は好きではなくてもこれからの未来・・・ロシュ様もマリアを好きになりマリアも・・・ロシュ様を好きになり。マリアが幸せになってくれるのならそれでも構わないと思いました。それが、マリアの願いだったからです。ですが、もしロシュ様がこの国やマリアを裏切るような事があれば私はロシュを許しません。そして、もう二度とマリアを悲しませないように、マリア自信が何と言おうと私がマリアをこの国から連れ出し幸せにしたいと思います。』
ユリアスは目を開けまっすぐとカルオを見つめ言った。
『ですから、もし。その時が来たら。私とマリアが国を出ることをお許しください。』
『マリアは・・・良い兄を持って幸せだな』
カルオは今にも泣きそうな顔でそう言った。そして、
『よかろう。その時が来たら・・・ユリアスよ。マリアをよろしく頼むぞ。お前達が逃げるための後ろ盾は私に任せなさい。』
『ありがとうございます。父上』
「そんな事!」
マリアの声ではっとして現実に戻ってきたユリアスはマリアの方を見た。
「そんな事勝手に決めないでください!以前、お断りしたはずです!私は・・・ロシュ様の妻です。別れる気などありません・・・・・」
「悪いが、既に城を出る準備は整っている。あの時はお前がこの結婚で幸せになるのなら・・・と諦めたが、今はもう話が違う。それに別れる気がないと言っても、ロシュは魔界に帰ってしまったぞ?もう二度とここには帰ってこないだろう。自分から別れを切り出したのだからな」
「兄上は・・・何故そこまでして私を大切にしてくださるのですか?小さい頃に交わした約束のために・・・」
マリアはベッドの上に座り込んだままユリアスに聞くと、いつからあったのか寝台横にある机にある杯の中に入っている物を何も言わず口に含んだユリウスはマリアの両頬を自らの手ではさみ口づけをした。
「ん!?んーー!!」
ドンドン!とユリアスの胸をマリアは叩くがユリアスは唇を放そうとはしなかった。そして冷たい液体がマリアの口の中へと流し込まれた。マリアがそれを飲み込むとユリアスは唇を放し囁いた。
「お前を・・・愛しているからだ・・・兄としてではなく、一人の男として・・・・・」
最後まで聞き取れなかった。マリアがそのまま深い眠りについてしまったからだ。
その頃魔界では。
「ミルオン王には結婚の事話しておいたぞ。」
「ありがとうございます。」
謁見の間にロシュを呼びだした魔王はそう、ロシュに告げた。
礼を言った後すぐ立ち上がり後ろに振り返り謁見の間を後にしようとしたロシュに魔王は問いかけた。
「これで・・・良かったのか?」
「これが・・・マリアの為なのです。きっと今頃、結婚がなかったことになってマリア自信心の中で喜んでいることでしょう。」
「いや・・・」と言った魔王の言葉をロシュは聞き逃さなかった。問い返すように後ろを振り向くと同時に魔王は言った。
「マリア姫はお前が別れをつげたあの日から部屋にこもりきりで何も誰も部屋にうけつけぬらしいぞ?それに、お前が別れを告げた後マリア姫を最初に見つけたのはユリアス殿らしいが、本人の話だとマリア姫の瞳からは光が失われ頬には泣きじゃくった後まであったそうだ。私がマリア姫を最初見かけたときはとても清んでいて美しい瞳だと思ったがな、そんな美しく清んだ瞳から光が失われると言う事はよほど悲しい事があったとしか私は思わんが?」
「っつ・・・」
ロシュは何か言いかけたが言うのをやめ魔王から視線をそらした。だが、魔王の話は終わりではなかった。
「ミルオン王に話をした後、私は心配になってなマリア姫の寝室に行ったのだが、マリア姫は眠っていたよ。その瞳の下の頬は確かに赤く腫れあがっていたな。かわいそうに。腕などを見たら3日飲まず食わずなのか痩せ細っていたぞ。」
「!?3日飲まず食わず!?」
それを聞いたロシュはまた魔王に視線を向け叫んだ。
だが、確かに頬は腫れ3日飲まず食わずではあるが魔王はマリア姫の寝室へや行ってなどいなかった。そう言えば、ロシュが心配してマリアの元へ赴くと思ったからだ。
「で、ですが・・・私には・・・もう・・・」
はっきりしないロシュに魔王はいらだち始めていた。
「強いて聞くが。」
魔王の言葉にロシュは俯いていた顔を上げ魔王の方に向いた。
「お前、マリア姫の気持ちはちゃんと聞いたのか?」
「・・・・」
「・・・聞いていないのだな・・・・」
ハァ~~~~~~。というため息を魔王から聞いたロシュは魔王に言った。
「で、ですが!私はマリアを守りたい。あの時のようにマリアを悲しませたくない。マリアを悲しませる者達から救ってやりたい。たとえそれが私自信だったとしても私はマリアを守ります。それが私にとって悲しい事だったとしても・・・。」
「ロシュよ。お前はちゃんとマリア姫に聞いたのか?『私の事をどう思っている?』や『結婚して良かったのか?』など」
「・・・・・いえ・・」
「それではお前はただの決めつけだけで姫に別れを告げたと?」
ロシュはそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかったのだ正しすぎて。
と、そこに
『ロシュ様!』
何者かの声がロシュの脳内に響いた。ロシュには誰の声なのかわかっていた。ミルオンに結界を張らせている魔神の声だった。
「どうした?」とロシュが答えると光輝く物がロシュの頭上に現れた。それを見た魔王は驚かずただ見つめていた。
「ミルオン国内から馬車が一つ結界の外に出ました。馬は早馬のようで馬車の中をのぞいたところ、二人若い男と女が乗っておりました。女の方は何故か眠っているようでした。」
「若い男女?」
マリアとユリアスか・・・。若い男女が誰なのかはロシュにも魔王にもすぐわかった。と、そこで
「ロシュ様」
今度は足元から声がしたのでロシュは足元を見てみると、そこには子鬼が立っていた。
ロシュは肩膝を床につき子鬼と話がしやすいようにした。
「何があった?」
「はい。どうやらサギネル国第一王子はミルオンにいらっしゃる姫君に求婚をしに行くようです。先ほど何人かの兵と黒いフードをかぶった男を1名連れてミルオンに向かいました。」
黒いフードの男、それはウィリアムに間違いはないだろう。