右手
朝、幸彦は、右手のひらにじんわりとした熱を感じて目を覚ました。
布団の中でそっと手を開くと、青白い光がかすかに揺れている。
この光が見えているのは、世界で幸彦ひとりだけだ。
「……またか」
右手で誰かに触れたあと、必ず光る。
そして触れた相手には、小さな幸運が訪れる。
その代わりに、自分には小さな不幸が降りかかる。
これはもう、そういうものなんだと思っていた。
理由も仕組みも分からない。
でも、誰にも相談できない。言ったところで信じてなどもらえないだろう。
だから、不幸は受けるしかない――幸彦はそう思っていた。
学校へ向かう道。
幸彦は右手をポケットに押し込んだまま歩く。
誰にも触れないように。
誰の“幸運”とも関わりたくなかった。
校門の前で、小さな子どもが泣いていた。
ランドセルが開いて、中身が散らばっている。
「……やめとけよ」
右手を使えば、また不幸が来る。
でも、子どもの泣き声は胸に刺さる。
「……ちょっとだけなら」
幸彦はノートを拾い集め、そっと差し出した。
その瞬間――
子どもが幸彦の右手に触れた。
「あっ」
反射的に手を引いたが遅かった。
右手のひらが、ぱっと明るく光る。
もちろん、光が見えているのは幸彦だけだ。
子どもは何も気づかず、涙を止めて笑った。
そして、落ちていた鉛筆が風に転がり、
偶然にも子どもの足元に戻ってきた。
小さな幸運。
その代償が、幸彦の身体に流れ込んでくる。
脇腹のあたりが、じんわりと青白く光り始めた。
「……またかよ」




