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転生したら最強能力が『見た男を狂わせる呪い』でした〜助けた騎士も優しかった貴族も、全員が私を監禁しようとしてくる〜  作者: 品川太朗


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9/10

【幕間】庭師の憂鬱と、赤色の献身

今回は視点を変えて、ロミオ様の内面モノローグをお届けします。 彼の目に、世界はどう映っているのか。 なぜ笑顔で婚約者を殺せたのか。 その歪みきった「愛の論理」を覗いてみましょう。

 世界は、耳障りな騒音と、吐き気を催すような汚物で満ちている。


 僕は物心ついた頃から、そう確信していた。


 夜会で交わされる貴族たちの虚飾に満ちた会話、領民たちの卑しい欲望が渦巻く視線、父上が厳かに説く「家の名誉」という名の錆びついた呪縛。


 どれもこれもが、僕の神経を逆撫でする不快なノイズだ。


 色彩のない、色あせたモノクロームの映画を延々と強制的に見せられているような、退屈で、息が詰まる日々。


 けれど、あの日。


 空というキャンバスを引き裂いて、彼女が降ってきた瞬間。

 僕の世界は、暴力的なまでの鮮烈な「色」を取り戻した。


「――なんて、綺麗なんだろう」


 彼女の名前はみお


 圧倒的な力で盗賊たちを彼方へ吹き飛ばしたその姿は、破壊的でありながら、産声を上げたばかりの赤子のように無垢で、神々しかった。


 脳髄が痺れ、魂が打ち震える音が聞こえた。


 ああ、やっと見つけた。

 この腐りきった世界の大地に咲いた、たった一輪の、奇跡のような穢れなき花。


 彼女だけが「真実」だ。

 彼女以外の全ての人間も、風景も、彼女の美しさを際立たせるための背景美術セットに過ぎない。


 だというのに。

 美しい花には、どうしてこうも醜悪な害虫が寄ってくるのだろうか。


 ◇


「ロミオ様! 説明なさい! あの泥棒猫はなんですの!?」


 バン、と執務室の扉を開け放ち、怒鳴り込んできたのはエリザ・フォン・ドラグーン。

 僕の婚約者だった女だ。


 かつては、家柄も容姿も釣り合う「まあまあのパートナー」だと思っていた。

 だが、本物の宝石である澪を知ってしまった今となっては、彼女の厚化粧も、頭蓋骨にキンキンと響く金切り声も、耐え難い騒音でしかない。


「……エリザ様。少し静かにしていただけないか。僕の澪が怯えてしまう」


「怯える? あんな化け物が? 貴方は騙されているのよ! あの女は平民のくせに魔術を使って……」


 彼女は高価な扇子を振り回し、僕の愛しい女神をあろうことか「化け物」と呼んだ。


 さらに、彼女は続けた。

 自分の運命が終わることも知らずに。


「お父様に言いつけて、あの女を処刑してやりますわ! 八つ裂きにして、その首を城門に晒して……」


 プツン。


 僕の頭の奥で、細い糸が切れる音がした。


 それは激情ではない。

 僕はひどく冷静に、冷徹に、そしてある種の義務感に駆られて椅子から立ち上がった。


(ああ、そうだ。庭の手入れをしなければ)


 手塩にかけた美しい花壇に、見苦しい雑草が生えていたら、抜くのは当然だ。

 蕾を食い荒らそうとする毛虫が薔薇の葉についていたら、指で潰すのは当たり前のことだ。


 これは「殺人」ではない。「環境整備」だ。


 澪という至高の存在が、誰にも邪魔されず、快適に、美しく咲き誇るための聖なる作業。


「……エリザ様」


「な、なんですの、その冷たい目は……?」


 僕は机の引き出しから、手紙を開封するためのペーパーナイフを取り出した。

 ミスリル銀で作られた、鏡のように美しい鋭利な刃。


 僕は微笑みながら、彼女との距離を優雅に詰める。


「君は、僕たちの愛のかごには不要なパーツだったようだ」


「は……? 何を言って……いや、来ないで、ロミオ様!?」


 彼女が悲鳴を上げ、その不快な音波を撒き散らす前に、僕はその口を片手で強く塞いだ。


 腕の中で暴れる体。恐怖に見開かれる瞳。

 可哀想に。彼女もまた、この狂った世界の被害者なのだ。


 僕と澪という「絶対的な運命」に出会ってしまったがゆえに、舞台からの退場を余儀なくされた哀れな端役。


 僕は彼女の白く無防備な首筋に、静かに、優しく刃を滑らせた。


 躊躇いはなかった。

 枯れた枝をパチンと切り落とす庭師のように、僕は正確に、彼女の命を摘み取った。


 ドサリ、と肉塊が床に崩れ落ちる。


 赤い血がペルシャ絨毯に広がり、鉄の匂いが部屋に充満する。

 汚い。早く掃除をさせなければ。


 アステルに言えば、死体ごとうまく処理して、「不運な盗賊の仕業」に書き換えてくれるだろう。

 彼は優秀で、忠実な裏方だ。


 僕はシルクのハンカチで指についた温かい血を拭う。

 ふと、窓の外を見た。


 中庭では、逃げようとして失敗した澪が、アステルの部下たちに囲まれて震えているのが見えた。


「……ああ、可愛い澪」


 あんなに怯えて。小鹿のように震えて。

 きっと、外の世界が怖いんだね。


 大丈夫だよ。僕が守ってあげる。

 君を脅かす害虫は、たった今、一匹残らずこの手で駆除したからね。


 僕は鏡を見て、笑顔を確認した。

 いつもの、優しく、甘い、完璧な「ロミオ様」の笑顔。


 これを見せれば、彼女はきっと安心して、僕の腕の中に飛び込んでくるはずだ。


「待っていてくれ、僕の女神。……今、最高に愛していると伝えに行くからね」


 僕は血の付いたハンカチを暖炉の火に放り込むと、鼻歌交じりの軽い足取りで部屋を出た。


 胸いっぱいの純粋な愛と、少しばかりの甘い狂気を抱えて。

「これは殺人ではない。環境整備だ」


怖すぎます。完全にサイコパスの思考回路です。 彼にとって澪以外は「背景」か「害虫」でしかないことが、これ以上なく明確になりました。 本人は至って冷静に、善行のつもりでやっているのが一番のホラーですね。


このロミオ様の、純粋すぎてドス黒い愛に戦慄した方は、 ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】から評価、ブックマーク登録をお願いします! (あなたの評価が、澪の生存本能を高めます……)

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