第4章:ギルドでの異変(疑念の芽)
念願の外出許可を得て、冒険者ギルドへ。 そこで出会ったのは、春風のように爽やかな受付係・セイルさんでした。 「よかった、まともな人がいた!」 そう安堵したのも束の間。彼もまた、澪の「チート能力」を目撃してしまい……。
数日にわたるロミオ様との神経を削るような交渉の末、私はなんとか「外出」という権利をもぎ取った。
名目は「社会勉強」。
といっても、背後には死神のように無言で付き従うアステルの気配があるのだけれど。
「……やっと、外の空気が吸えた」
あの屋敷に充満していた濃厚すぎる薔薇の香りに比べれば、馬糞の混じった街の空気ですら自由の味がした。
私は重厚な扉に手をかけた。冒険者ギルドだ。
ギギィ、と蝶番が軋む。
ムワッとした熱気。安酒と汗、鉄と脂の匂い。
ここなら、あの狂った二人以外の「普通の人」に会えるはずだ。
「いらっしゃいませ! 冒険者登録ですか?」
カウンターの向こうで声をかけてくれたのは、春風のように爽やかな笑顔の青年だった。
名札には『セイル』とある。
よかった……普通の人だ。
私を見ても跪かないし、靴を舐めようともしない。
「では、まず魔力測定を行います。この水晶に手を置いてください」
私は緊張した。
チートがバレないよう、できるだけ力を抑えて、絞って……。
パリンッ。
乾いた音が響いた。
光るどころか、水晶が内側から弾け、粉々に砕け散っていた。
「あー……劣化してヒビが入っていたみたいですね。実技試験をしましょう」
セイルさんは嫌な顔ひとつせず、手際よく破片を片付けてくれた。
裏のない、真っ当な善意。私は心底安堵した。
◇
訓練場。試験官の女性教官・マストルさんが木剣を構える。
「ひ弱そうな嬢ちゃんだな。本気で来な!」
全力は出しちゃダメ。小石を弾くデコピンくらいの感覚で……。
私は、ほんの少しだけ地面を蹴った。
ドォンッ!!
足元が爆ぜた。
マストルさんの視界から私の姿が消失する。
私は慌てて思考のブレーキを踏み込み、寸止めで木剣を振るった。
ブンッ――!!
剣圧だけで暴風が巻き起こり、後方の防具棚がガシャガシャと崩れ落ちる。
訓練場が、水を打ったように静まり返った。
「……合格だ」
マストルさんの引き攣った声。
よし、殺さずに済んだ。
私は笑顔でセイルさんの方を振り返った。
「セイルさん。これで登録できま……」
言葉が、喉に張り付いた。
セイルさんの表情から「業務的な笑顔」が消えていた。
彼は羊皮紙を持つ手に力を込めすぎ、ペンをへし折っていた。
「……すごい」
高熱に浮かされたような、焦点の合わない瞳。
彼はカウンターを乗り越える勢いで私に歩み寄り、私の手を掴んで自分の頬に押し当てた。
「完璧だ。僕の理想とする数値を遥かに超えている」
「えっ、あの、セイルさん?」
「澪。君の管理は、全て僕に任せてください。宿、食事、クエスト、睡眠時間……ああ、君の排泄のリズムまで記録しないと」
狂っている。
まただ。私が「力」を使った瞬間、彼の中で何かが壊れた。
「離れろ、下衆が」
ギンッ、と鋭利な金属音。
アステルが私の腰を引き寄せ、セイルの首元に剣を突きつけていた。
「俺の主に触れるな。切り落とされたいか?」
「……おや、野蛮ですね。彼女は僕の完璧で緻密な事務処理を求めているんですよ」
セイルは刃を突きつけられても眉一つ動かさない。
冷ややかな、爬虫類のような目でアステルを睨み返す。
「澪、そんな野蛮人は捨てて、僕のカウンターの中においで。君の人生のスケジュール、一秒単位で僕が死ぬまで埋めてあげるから」
「澪様のスケジュールを決めるのは俺だ。貴様は今すぐ焼却処分してやる」
狂気と狂気がぶつかり合うその中心で、私は小刻みに震えていた。
脳裏に浮かんでいた疑念が、確信に変わる。
ロミオ様も、アステルも、そしてセイルさんも。
この力は、神様がくれた祝福なんかじゃない。
これは――男たちの理性を焼き切り、私をそれぞれの檻に閉じ込めるための『呪い』だ。
「君の排泄のリズムまで記録しないと」
アウトです。セイルさん、完全にアウトです。 爽やかな笑顔から、わずか数分で「究極の管理ストーカー」へとジョブチェンジしました。 事務処理能力が高いヤンデレ、ある意味一番タチが悪いかもしれません。
「まともな奴が一人もいない!」と戦慄した方は、 ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】から評価、ブックマーク登録をお願いします! 澪の安息の地はどこに……。




