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転生したら最強能力が『見た男を狂わせる呪い』でした〜助けた騎士も優しかった貴族も、全員が私を監禁しようとしてくる〜  作者: 品川太朗


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【第11章】決闘と失敗

タイムリミットは60秒。 その間に10人の騎士を「殺さずに」無力化しなければなりません。 禁じ手を使った澪の、孤独な戦いが始まります。 しかし、章題は『失敗』。その意味とは――。

(――スタート!)


 心の中で、命を削るカウントダウンを開始する。


 『禁呪:世界改変ワールド・チェンジ』が発動した刹那。

 視界から鮮やかな色彩が剥落し、世界は色あせたモノクロームの無声映画のように変貌した。


 残り六十秒。


 このわずかな時間だけ、世界のことわりは私の「異常な力」を認識しない。

 私が何をしようとも、それは「偶然の風」や「光の悪戯」という自然現象として処理される。


 私は大地を蹴った。

 音はない。


 正面から迫る二人の重装騎士。彼らが剣を振り上げる動作が、水中にいるように、あくびが出るほど遅く、滑稽に見える。


「……ふっ!」


 私は彼らの懐に音もなく潜り込み、マストルさんに教わった人体の急所――顎の先端を、掌底で軽く、羽が触れるように打ち抜いた。


 カクン、と騎士たちの意識の糸が断たれる。


 鋼鉄の巨体が崩れ落ちるその前に、私はもう風となって次の標的へ向かっていた。


(残り、五十秒!)


 三人目、四人目。

 鎧の隙間、関節の継ぎ目。正確に、精密に。


 観客席からは、何が起きているか分からないだろう。

 屈強な騎士たちが、少女が近づいただけで糸の切れた操り人形のようにバタバタと倒れていくのだから。


 だが、改変された彼らの脳内では「突然のめまい」「足元が崩れた」という認識に強引に書き換わっているはずだ。


(残り、三十秒!)


 息が切れる。肺が焼ける。

 体力の消耗ではない。脳を直接やすりで削られるような魔力の消費が、頭蓋骨を内側からきしませている。


 鼻血がツーと垂れ、唇を濡らした。鉄の味が広がる。

 それを手の甲で乱暴に拭い、私は舞うように、祈るように戦場を駆ける。


 七人、八人、九人。

 ついに、最後の一人が目の前に立ちはだかる。


 エリオット様だ。

 彼だけは、動きが違う。


「ちょこまかと……! 死ねぇぇぇッ!!」


 スローモーションの世界の中で、彼だけが明確な殺意を纏い、公爵家の秘宝である魔剣を振り上げ、魔力を迸らせていた。

 速い。他の騎士とは生物としての格が違う。


 私は最後の力を振り絞り、彼の懐へと、死地へと飛び込む。


(あと一撃! これで終わる!)


 私は彼のみぞおちに、意識を刈り取るための拳を突き出そうとした。


 その時。


 ブツンッ。


 脳内で、何かが焼き切れる嫌な音がした。


(――え?)


 六十秒。

 私の計算よりもコンマ数秒早く、酷使した魔力が底をついたのだ。


 魔法が、解ける。

 その瞬間、世界に色が戻った。風の音が、観客のどよめきが、土埃の匂いが、色彩と情報の暴力となって私の感覚に雪崩れ込んできた。


「……あ」


 私の拳は、エリオット様の鎧に届く寸前で止まっていた。

 目の前には、振り下ろされる魔剣の刃。鈍色の死。


 死の恐怖が、私の理性を一瞬で吹き飛ばした。


「い、いやぁぁぁッ!!」


 私は反射的に手を伸ばした。

 手加減なんてできない。殺されたくない、死にたくないという生存本能だけで、迫りくる鋼の刃を――素手で掴んでしまった。


 ガギィィィンッ!!!


 闘技場に、耳をつんざくような甲高い破壊音が響き渡る。

 私の指が触れた箇所から、伝説の魔剣がまるで脆いガラス細工のように、粉々に砕け散った。


 キラキラと舞う刃の欠片が、陽光を反射して残酷なほど美しい。

 その煌めきの向こう側で、エリオット様が限界まで目を見開いている。


 見ていた。

 至近距離で。

 か弱い少女が、魔剣を素手で握り潰すという、物理法則を無視した絶対的な力の奔流を。


「……ひ、っ」


 私は震える手で、剣の残骸を離した。カラン、と乾いた音が響く。

 やってしまった。一番、見せてはいけない相手に。


 エリオット様は呆然と立ち尽くし、それから糸が切れたように膝から崩れ落ちた。

 終わった。殺される。あるいは、化け物としてその場で処刑される。


 私は死を覚悟して、ギュッと目を閉じた。


 けれど、いつまで経っても罵倒は飛んでこなかった。

 痛みも来ない。

 代わりに聞こえたのは、熱っぽく、濡れたような吐息だった。


「……ああ……」


 恐る恐る、瞼を持ち上げる。

 エリオット様が、私を見上げていた。

 その瞳から、妹を殺された憎悪や怒りは、きれいに消え失せていた。


 あるのは、ロミオ様やアステルと同じ――濁った、理性の光を失った、底なしの暗い情欲。


「なんて、強い……。なんて、美しい……」


 彼は震える手で、私の足首に触れた。

 そして、あろうことか、私の土に汚れたブーツに、愛おしげに頬を擦り寄せたのだ。


「俺の全てを懸けた復讐が、こんなにも美しく、無惨に砕かれるとは……! ああ、これこそが俺が求めていた力、俺がひざまずくべき絶対者……!」


「エ、エリオット様……?」

挿絵(By みてみん)



「お許しください、女神よ。この愚かなエリオット、貴女の輝きに目が眩み、不敬を働きました。……償いは、この命で」


 彼は地面に落ちていた鋭利な剣の破片を拾い上げ、恍惚とした表情で、自らの喉元に突き立てようとした。


「きゃあぁぁぁっ! やめてぇッ!!」


 私は悲鳴を上げて彼の手を止めた。

 会場が、水を打ったように静まり返る。


 誰もが理解できずにいた。

 復讐鬼だったはずの公爵令息が、敵である少女の足元に這いつくばり、至上の喜びを噛み締めながら服従を誓っている、この異様な光景を。


 貴賓席を見上げる。


 ロミオ様が、優雅に、ゆっくりと拍手を送っていた。

 アステルが、満足げに深く頷いていた。

 彼らの仲間ヤンデレが、また一人増えたことを歓迎するように。


 そして。

 その狂乱の傍らで、キャス様だけが、青ざめた顔で立ち尽くしていた。


「……今のは、風の音ではありませんでしたね」


 彼の見えない瞳が、まっすぐに私を射抜いている気がした。

 その悲しげな声は、歓声にかき消されることなく、私の胸に鋭く突き刺さった。


 私は勝利した。

 けれど、その代償として、最強の権力を持つ「三人目の狂信者」を、この世に生み出してしまったのだ。

エリオット様、陥落おちました。


復讐の鬼から、靴に頬擦りする狂信者への華麗なるジョブチェンジ。 「殺されたくない」と抵抗して剣を折っただけなのに、相手には「圧倒的強者による愛のムチ」に見えてしまったようです。 これで攻略対象(監禁予備軍)が3人に……。


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