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転生したら最強能力が『見た男を狂わせる呪い』でした〜助けた騎士も優しかった貴族も、全員が私を監禁しようとしてくる〜  作者: 品川太朗


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【第8章】迫りくる軍靴と、盲目の希望

決闘までのカウントダウン。 「どんなドレスで殺し合うか」を楽しそうに選ぶロミオ様たち。 その狂騒から逃れるように、澪は深夜の中庭へ向かいます。 そこで待っていたのは、唯一「目が見えない」彼でした。

 決闘までの十日間。

 それは、鋭利な針のむしろの上を裸足で歩かされるような、神経を削り取る時間だった。


「澪、当日の衣装はこれがいいかな? 見てごらん、鮮血のような赤だ。これなら返り血を浴びても目立たないし、何より君の透けるような白い肌に、残酷なほどよく映える」


 ロミオ様は上機嫌で、次々とドレスを私の体にあてがってくる。

 これから人が死ぬ殺し合いをするというのに、彼にとっては舞踏会の準備となんら変わらない。


 シルクの擦れる音が、刃物を研ぐ音のように耳障りだ。


「……動きやすい服がいいです。私は戦うのですから」


「ダメだよ。君は『戦士』ではなく『女神』として舞台に立つのだから。圧倒的な力と美しさで、地を這う愚民どもをひれ伏せさせないと」


 部屋の隅では、アステルもまた、恍惚とした瞳で愛剣を磨いていた。

 シュッ、シュッ、という規則的な音が、私の逃げ場のない時間を刻んでいる。


「ご安心を。もし澪様の髪が一本でも傷つくようなことがあれば、俺が観客席ごと焼き払いますから。灰になるまで、徹底的に」


 二人は、子供のように楽しそうだった。


 私が公爵家の騎士たちを蹂躙し、その異能を見せつけることで、「澪は誰にも触れられない高みの存在」であることを世界に知らしめる。

 それが彼らの描くシナリオ。


 その身勝手な脚本が、私をどれほど深い孤独の淵へ突き落とすのかも知らずに。


 ◇


 その夜、私は屋敷を抜け出した。

 といっても、逃走ではない。

 厳重な警備の網をかいくぐり、月明かりの射す中庭に出るのが精一杯だった。


 静寂の中、噴水の縁に腰掛ける人影があった。

 月光に溶けるような白い神官服。手には装飾のない白杖。


 キャス様だ。


「……眠れませんか? 澪様」


 彼は私の方を振り向くこともなく、夜風に言葉を乗せた。

 私はビクリと肩を震わせ、足を止める。


「あ、ごめんなさい。足音、消してたつもりだったんですけど」


「ええ、気配は全くありませんでした。ですが……風が、貴女の匂いを運んでくれたので」


 キャス様は穏やかに微笑み、隣のスペースを空けるように少し体をずらした。


 私は迷った。近づいていいのだろうか。また、壊してしまうのではないか。

 数秒の逡巡の末、私は彼から人一人分ほど離れた場所に、恐る恐る腰を下ろした。


「近づかない方がいいですよ。私、呪われてるから」


「呪い、ですか」


「はい。私に関わると、みんなおかしくなるんです。ロミオ様も、アステルも……みんな、私を閉じ込めようとする」


 誰にも言えなかった、喉の奥にずっと支えていた本音。

 でも、彼になら言える気がした。


 彼は私を「見て」いない。

 私の姿形に惑わされていないから。


 キャス様は、否定も肯定もせず、ただ静かに、懺悔を聞く神父のように耳を傾けてくれた。


 私が異世界に来てからのこと。

 良かれと思って助けた人たちが、怪物のように豹変したこと。

 私のせいで人が死んだこと。

 そして、自分が毒をまき散らす「歩く災害」のように思えて、消えてしまいたいこと。


 私が涙声で全てを吐き出し終えると、キャス様は懐からハンカチを取り出し、手探りで、けれど迷いなく私の方へ差し出した。


「……大変でしたね」

挿絵(By みてみん)


 その声には、まとわりつくような湿った同情も、歪んだ執着もなかった。

 ただ、あるがままの事実を受け止める、乾いた砂のような清潔な優しさだけがあった。


「私は目が見えません。だから、貴女がどれほど美しいのか、世界を揺るがすほど強大な力を持っているのか、視覚的にはわかりません」


 彼は白杖を強く握りしめた。


「ですが、貴女の声はわかります。……とても、寂しそうな音だ。誰かを傷つけたくなくて、自分の殻に閉じこもって震えている、ただの優しい人の声です」


「……っ」


「私が神に誓って保証します。貴女は魔女でも、災害でもない。ただの、心優しい一人の女性です」


 涙が、決壊した。


 その言葉が欲しかった。

 「美しい」でも「強い」でも「特別」でもない。

 「優しい」という、そのありふれた、普通の言葉が。


 この人は、私の「外側」を見ていない。

 だから呪われない。だから狂わない。


 彼となら、私は普通に話ができる。人間として笑い合える。

 もし、この決闘が終わって、自由になれたら――。


「……キャス様。私、頑張ります」


「ええ。応援していますよ」


 私は彼の手からハンカチを受け取った。

 指先が触れた一瞬、背筋が凍るような電撃は走らなかった。


 温かい。陽だまりのような、人の体温。


 私は決めた。

 この温もりを、この「普通」を守りたい。

 ロミオ様たちの狂気から逃れて、キャス様のような穏やかな人たちのいる場所へ行きたい。


 そのためには――勝たなきゃいけない。


 ◇


 屋敷の二階。

 閉ざされたカーテンの僅かな隙間から、二人の男が中庭の二人を見下ろしていた。


「……あの盲目、調子に乗っていますね。今すぐ消しますか?」


 アステルが氷点下の声で言い放つ。

 しかし、ロミオは赤ワインの入ったグラスを優雅に揺らしながら、余裕の笑みを浮かべていた。


「放っておきなさい。彼は無害だ」


「無害、ですか?」


「ああ。彼は『見えない』からね。澪の至高の美しさを認識できない、哀れな男だ。美を理解できない以上、所有欲も湧かない。男としての機能が欠落しているに等しい」


 ロミオにとって、自分たちと同じ土俵――狂気的な愛――に立てない男は、道端に転がる石ころと同じだった。

 嫉妬する価値すらない、憐れむべき欠陥品。


「それに、澪には少し『ガス抜き』が必要だ。決闘の前にリラックスさせておくのも悪くないだろう。ペットには時々、首輪を緩める時間を与えないとね」


「……なるほど。では、生かしておきましょうか。今はまだ」


 二人は、飽きたように窓から離れる。


 彼らは知らない。

 その「見えない男」こそが、今の澪にとって唯一無二の「光」になっていることを。


 そして、その油断と侮蔑こそが、後に彼らの狂気を最悪の形へと加速させる引き金になることを。


「ペットには時々、首輪を緩める時間を与えないと」


怖すぎます。 感動的な夜の密会も、ロミオ様たちの掌の上(監視下)でした。 キャス様が生き延びた理由が「見えないから男としてノーカン」という侮蔑によるものだというのが、なんとも彼ららしい傲慢さです。


この「全部バレている」という絶望感と、それでも希望にすがりたい澪の健気さ。 続きが気になる! 応援したい! と思っていただけましたら、 ぜひ下にある【☆☆☆☆☆】から評価、ブックマーク登録をお願いします!

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