中編
あの日から3日がたった、今日は大事なお客様がいらっしゃる。アレクとはあれからほとんど顔を合わせていない。
はぁ、結局全然話してくれないじゃない。
「奥様今日は楽しみですね?」
「ええ。早くお会いしたいわ」
アンと共にお客様に出すお菓子を作りながら話していると玄関が騒がしい。まだ着くには早いはずなんだけど。
すると侍女が慌てた様子でキッチンに駆け込んできた。
「奥様!大変です!」
「どうしたの?」
「あの…女狐じゃなかった マリアと名乗る方が!」
「え?」
アンと共に玄関に行くとアイリス様が怒っていた。
「あなた!アレク様に何言ったのよ!あんたのせいで!あんたのせいで!」
「落ち着いてください!一体なんなのですか?」
「第1騎士団から移動になったのよ!あんたが何か余計なこと言ったんでしょ!私とアレク様を引き離すために!」
「いくらなんでも失礼ではありませんか?急にいらしていわれのないことで怒鳴られても困りますわ。今日は大事なお客様がいらっしゃるんです。お帰りください。」
「何よ!年増のババァのくせに」
アンが今にも殴りかかりそうな勢いだ。マリア様はまだ何かを喚いているが…そんな時玄関が勢いよく開いてアレクがいた。後ろには第1騎士団の方がいらっしゃるようだった。
「団長!!」
マリア様は先程まで喚いていたのが嘘のように笑顔になりアレクに擦り寄って行く。しかしそんな彼女は眼中に無いかのように通り過ぎ私のそばまで来ると急に抱きしめられた。
「やっとだ!ただいまアイリス!」
「え?お、おかえりなさい?」
何がなにやら全く分からない。でも…久しぶりに抱きしめられた。そんなアレクの態度が信じられないとでも言うようにマリア様は怒りだしました。
「アレク様なんでそんなババァを抱きしめてるんですか?!私はここです!!」
「おい、名前を呼ぶな。何故お前がここに居る。」
「ヒイィィィ」
一体どうなってるんだろう… アレクは今にもマリア様を殺しそうな顔してるし、マリア様はわけが分からないと言う顔してるし、なんなんだ一体…使用人達も訳が分からないと言う顔だ。
「マリア貴様には異動を指示したはずだが…何故まだ第1騎士団の制服を着ている。」
「あ、あのそれは…」
「トーリ、この女にちゃんと異動命令のことを伝えたんだろ。」
アレクがそういうと第1騎士団団員の1番前にいた茶髪の大柄の方が前に出てきました。
「はっ確かに、第3騎士団の方に異動せよとの命令を伝えました。
初めまして奥様。私第1騎士団副団長を務めております トーリと申します。この度は元第1騎士団のものがご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。」
「いえ。いつも主人がお世話になっております。」
「副団長!何故私が平民のしかもただの警備兵である第3騎士団に異動しなければならないのですか?!」
「はぁ。おいマリア・ルチアーノ異動命令を出した時に説明したはずだがな…」
「納得出来ません!資格不十分だなんて」
誰でもいいから説明してくれないかしら…そう思い視線を投げかけていると副団長であるトーリ様が事の顛末を話始めた。
「彼女マリア・ルチアーノは公爵家の令嬢でして、団長に憧れ公爵の権力を使って第1騎士団に入団したんです。まあ親のコネを使って入ってくるものは今までもいましたが、しっかりと鍛錬し仕事が出来れば私達も何も言いませんでした。しかし彼女は、鍛錬はしない、仕事はできない、毎日鼻につくような香水の臭いをさせて団長に付きまとうだけでしたので何度も忠告をしていたのですが…その度に公爵から娘が虐められていると抗議の手紙が届いたのです…」
「辞めさせるというのも、公爵様が許さなかったのですね…」
「ええ。そんな時公爵の不正疑惑が浮上し第1騎士団は彼女には内密で公爵を調査しました。かなり時間はかかりましたが、先日やっと証拠が揃い公爵を摘発することになりました。本来ならば彼女も罰を与えられるのですが、公爵も彼女には犯罪の一切を隠していたようで自白剤を飲ませても何も知らなかったのです。」
「だから平民落ちのうち第3騎士団に異動となった訳ですね。」
騎士団は貴族の中でも優れた腕前を持つものしか入れないはずの第1騎士団、貴族が主に所属する第2騎士団、平民が所属する第3騎士団の3つがあります。
「ええ。調査の間彼女に勘づかれないように団長には、彼女の気を引き付けて貰っていたのです。ですが、2人っきりではなく必ず騎士団の誰かが共に行動しておりました。」
「アレク…」
「すまない。公爵が我が家の使用人にも間者を忍び込ませていたから話せなかったんだ。」
「そうだったのですね…」
「しかし、まさか奥様に別れろと迫るとは…お許し下さい。我々のミスです…」
「いいや。私のミスだ。まさか私のアイリスを傷つける言動をとるとはな…愚かな。今すぐその女を連れて行け後日処罰を言い渡す。」
「はっ」
「待って!アレク様!そんな酷すぎるわ!嫌よ!私はアレク様と愛し合ってるのよぉぉおおお」
マリア様は未だに何かを叫びながら騎士団の方々につれて行かれました。
「それでは奥様私もこれで失礼します。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
「いいえいいえ、あの奥様…団長は奥様一筋ですので安心して下さい。」
ルート様はそういうとアレクに挨拶をしてから帰っていかれました。
なんとも慌ただしくありましたが、旦那様の浮気ではなかったのですね…けど
「旦那様。」
「なんだ?…もしやマリアにどこか怪我でも負わされたのかい?!」
「いえ。違うのです…あの…マリア様と浮気はしてないことはわかったのですが、何故最近素っ気なかったり、愛してると言って下さらなかったのですか?間者が居ても調査のことを言わなければ別に素っ気なくする必要なかったのでは?…それともやはり別にお付き合いされてる方が?」
「違う!君以外に付き合うなんて有り得ない!!」
「ではどうして?」
「それは…」
アレクが言いかけた時私達の前にある方々がいらっしゃいました。




