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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
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episode9:星の夜Ⅱ

数分馬車に揺られていると、遠くの闇の中にぽつぽつと光が浮かび始めた。

最初は星かと思ったが、近づくほどにそれが街の灯りだと分かる。


馬車が止まると、外からざわめきが流れ込んできた。


「着いたみたいですね。」


カインが扉を開け、私に手を差し出す。

いつもの冷静な動作なのに、今日は少しだけ緊張しているように感じた。


「行きましょうか、お姫様。」


私はくすっと笑ってその手をとる。

外に降りると、一気に世界が広がった。


灯り、声、香り、全てが押し寄せてくる。

提灯が頭上を連なり、屋台からは湯気と香ばしい匂いが漂う。

道を歩く人たちの笑い声が重なり合い、夜なのに昼みたいに明るい。


カインはキョロキョロと視線を彷徨わせ、目を見開いていた。


「すごいですね……。」


カインの年相応な表情に、思わず胸が温かくなる。


「カインはお祭り来るの初めて?」

「ええ。ルウ様は来たことあるんでしたっけ。」

「5歳の時だから、あんま覚えてないけど……」


言いながら、私はカインの手をキュッと握った。


「今夜はお姉さんに任せなさい!」


カインは苦笑しつつ、「はいはい」と言うように肩をすくめてついてきた。


屋台をひとつずつ回っていく。

わたあめはふわふわで、手に持つと甘い匂いが漂う。

口に入れるとすぐ溶けて、あまりのおいしさに二人で笑い合った。


金魚すくいでは、私は必死で紙のポイを動かしすぎて一瞬で破いた。


「私下手くそすぎ……」

「焦りすぎなんですよ。」


カインがひょいとしゃがみ、無駄のない動きで一発成功させる。


「えーずるい!!」

「ずるくありません。実力です。」

「うう……悔しい……」


射的でも型抜きでも全部負けて、私のプライドはズタズタ。カインは景品を抱えつつ、口元を押さえて笑いをこらえている。


「お姉さん下手ですね。」

「う、うるさいわよ!」


結局何も取れなかった私に、カインは景品を分けてくれた。


しばらく歩いたあと、通りの隅にあるベンチに座ることにした。

少し休むと、さっきまでの喧騒が遠くに聞こえて、心地いい静けさが落ちてくる。


「祭りってこんなに楽しいんですね……。」


カインがぽつりと呟く。

口調はいつもの通りなのに、ほんの少しだけ子どもみたいだった。


「おいしいものもたくさんあるし、幸せよねぇ。」


私が言うと、カインがプッと吹き出す。


「ルウ様は、食いしん坊ですからね。」

「誰が太ってるですって?」

「そんなこと言ってません。」


たわいもないやり取りをしながら、空を仰ぐ。

夜空は澄みきっていて、風が少しひんやりして気持ちいい。

周りの灯りが遠くなった分、星がよく見える。


その時――


ふっと、一筋の光が夜空を横切った。


「流れ星だ!!」


私が指をさすと、光は次々に増えていく。

祭りの喧騒が静まり、人々が一斉に空を見上げる。

私はとっさに願い事をする。


……カインと、ずっと一緒にいられますように。


横を見ると、カインも目を閉じて願い事をしている。


「カイン、何願ったの?」

「秘密ですよ。」

「私はねぇ、カインとずっと一緒にいられますようにって願ったの。カインは?」

「……言うわけないでしょ。」


頬がかすかに赤い。

視線をそらした横顔が、どこか照れてるみたいで、私は胸がぎゅっと締めつけられた。


「あの……ルウ様。」


不意にカインがこっちを向いた。


「お渡ししたいものがあるんです。」

「え、私に?」


カインは少し手を震わせながら手のひらを開く。

そこには、星をかたどったイヤリングがあった。光を受けてキラッと輝く。


「ええ!いいの!?」

「気に入らなかったら捨ててもらっても構いません。安物ですけど、受け取ってください。」

「捨てるわけないじゃない!……ありがとう、カイン。」


イヤリングをキュッと握り込む。


カインはふっと小さく肩をすくめ、視線を一瞬逸らす。

どこか寂しげなその仕草が、ほんの少し胸に引っかかる。

ふと空を見上げると、夜空にはまだ星がいくつも流れていた。

この夜の温もりが、ずっと消えなければいいのに―。

ついそう思ってしまった。



夜風に吹かれながら、馬車に戻ると街の灯りが遠ざかっていった。

窓の外で光が小さく揺れるたび、今日の出来事をそっと胸にしまい込む。


家の明かりが見えたとき、ふっと安心した気持ちが胸に広がった。

この夜の温もりは、ずっと忘れない――そう思いながら、私はそっと目を閉じた。

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