episode63:努力の証
それからまた一週間が過ぎ、夏休みの前日となった。今日は大聖堂に集まって終業式、表彰式を行う。
「ちょっと急いで!」
「急いでるって……!」
皆寝坊して、出るのが遅くなってしまった。無事開始五分前に駆け込み、入口で息を整える。顔をあげると、大勢の生徒が座っていた。
「なんか今日広くねえか?」
フィンが大聖堂を見回して言う。
「確かに……?」
私が首を傾げると、アナベルが小さく笑った。
「全校生徒が集まるから、空間拡張の魔法が使われているみたいだよ」
「そうなのね。何でもありじゃないの」
そんなことを話しながら空いている席に座る。開始時間となり、聖堂内が静まった。
「えーでは、ただいまから終業式を行います。始めに校長の挨拶です」
司会のマックス先生が言い、脇からダリ校長先生が出てきた。校長先生はヨロヨロしながら階段を上がると、壇上に立つ。
「えーゴホン。まずは生徒の諸君。一学期間よく頑張りました。こちらの非によるアクシデントもありましたが、無事に一学期を終えることができて、私はホッとしています……ゴホ」
一学期色々あったもんなぁ……。
「頑張った分、夏休みでぜひ羽を伸ばしてくださいね。しかし!!」
聖堂内に声が響き渡り、私たちは身を縮める。
「分かっていると思いますが、夏休み明けにはテスト、一年生は課外授業もあります。羽目を外しすぎないように!……ゴホゴホッ」
校長先生は咳き込むと、壇上から降りた。次に夏休みの過ごし方について、生徒指導のロイ先生から説明……というか忠告を受ける。
先生が前に立った瞬間、空気がスっと冷えた。
「夏休み前で騒いでいるやつらがよく見られるが……俺が言いたいのは騒ぐな、浮き立つな、問題を起こすな、だ。怪我なく夏休みを過ごせ。そして勉強しろ。分かったな?」
先生がそう言い終えると、聖堂内はしばし静まり返った。
……うわあ、怖いなぁ。
肩を竦めて先生の話が終わるのを待つ。その後もグチグチと嫌なことを言うと、先生は去り、聖堂内の緊張はゆっくりと溶け出した。
「えーでは、表彰式に移ります。」
きた!!
私はギュッと握りしめる。
密かに楽しみにしていた表彰式。一学期に優秀な成績をおさめた五人の生徒は、全校の前で表彰される。つまり、私の特待生への道はここにかかっている。
「ではまず一年生から行います。」
さっきとは違う雰囲気で、周りがしーんと静まり返った。
「A組、イアン・ホール」
名前を呼ばれて、右前に座っていたイアンが立ち上がった。
彼は勉強もできる上に、噂で聞くと運動神経も物凄くいいみたい。
イアンもなかなかの強敵なのよね……。
「A組、エマ・クリーン」
「ひゃいっ」
前方からエマの声が聞こえ、立ち上がるのが見えた。転けそうになりながら壇上に歩いていく。
「A組、カルロス・エバンス」
私はチラッとカルロスを見る。コクリコクリと船を漕いでいた。
「ちょ、カルロス!」
小声でいい、肘でつつく。カルロスはゆっくりと目を開けた。
「ん……何?」
「カルロス・エバンス。いないんですか?」
怪訝そうなマックス先生の声が響き渡る。
「あなた呼ばれたわよ。前に出て」
「あぁ……」
カルロスは眠たげな顔のまま立ち上がると、壇上に向かう。
う、悔しいけどやっぱりカルロスは呼ばれるわよね。
枠は後二人。ここで入らなければ、これからが厳しい。
「A組……」
あぁ、お願いします……!
「ルウラ・クラーク」
よしっ!
小さくガッツポーズをして私は立ち上がる。横に座っていたアナベルが、おめでとー!と小声で言ってくれた。
さて、後一人は誰になるんだろう。
壇上に向かいながら考えていると─
「B組、アラン・シーヤ」
キャーと小さな歓声が上がった。B組の生徒が呼ばれ、私は身を強ばらせる。
……やっぱり油断したらいけないわよね。
私は拳をギュッと握りしめた。
壇上に立つと視線が一斉に集まった。
「よく頑張りました」
校長先生の穏やかな声が、静かに響く。
差し出された賞状を両手で受け取った瞬間に、胸の奥にじわりと実感が広がった。
拍手が巻き起こり、私たちは深く一礼すると、ゆっくりと壇上を後にした。
その後、上級生の表彰も滞りなく終わり、やがて式は閉じられた。
「解散してください」
解散の許可を出されて、人波に押されながら大聖堂を後にする。
頭の後ろで手を組みながら、フィンが呑気に言った。
「いやー我がチームから二人も優秀者を出すなんて誇らしいなー」
棒読みのフィンをチラリと見る。
「頑張ったら、あなたも目指せたんじゃないの?」
「俺もうZ組行くから何も言わないで……」
「そんなのないわよ」
そんなにひどかったの?と思ったけど、聞かないことにした。
「じゃあ、私たちこっちだからまたね」
「あ、うん。また」
アナベル、トロイと別れて三人で教室に向かう。次の時間はホームルームで、成績表が返却される。
教室に戻ると、ワイワイと賑わっていた。皆夏休みのこと、成績のことを話している。
「怖いなぁ。成績表別にいらないんだけどなぁ……」
フィンが入口でビクビクしていると─
「いらないなら掲示板に貼り付けておきますから、そこどいてもらえます?」
後ろから声がして振り向くと、無表情のマックス先生が私たちを見下ろしていた。
「ひっ、あのそれだけはご勘弁を……」
青ざめたフィンが言うと、マックス先生はふっと意地悪そうに笑った。
「冗談ですよ」
先生は、どこまで冗談なのか分からないからな……。
私たちが着席するとホームルームが始まった。
「一学期間お疲れ様でした。早速皆さんが楽しみにしている成績表をお渡しします」
イアンから名前を呼ばれ、受け取りに行く。
フィンは成績表に絶望していて、カルロスは成績表を机の上に放り出したまま、コクリコクリと船を漕いでいる。
そして、ついに私の番となった。成績優秀者としては選ばれたけど、判定はどうだろうか。
私は手が震えるのを感じながら成績表を受け取る。
「ルウラ・クラーク」
名前を呼ばれて、私は顔を上げる。マックス先生が唇の端を上げた。
「よく頑張りましたね」
「あっ、ありがとうございますっ」
席に戻り、二つにたたまれた成績表を開く。
「わっ……」
目を疑ってもう一度見直す。そこには、全教科Aの文字が書かれていた。あまりの嬉しさに、一人でにまにましてしまう。
良かった、努力が実った……!
「よかったみたいだね」
いつの間にか起きたカルロスが、私を見て言う。
「えっ、バレた?」
「幸せオーラ放ってたよ」
「へへへ」
「ルウラ、良かったな……」
フィンが眉を八の字にして言った。
そこへ全員に渡し終えた先生が、私たちを見た。
「いい結果が出なかった生徒もいますが、まあ及第点でしょう。自分の成績がいまどのくらいなのか、しっかり把握して夏休み明けの試験に挑んでください。」
軽く先生の話が続いた後、空いた時間は皆で雑談をしてホームルームが終わった。
「ルウラ、またねー!」
「うん、またね」
エマとアウラに手を振って二人を見送る。
「やっと夏休みねぇ」
私が呟くと、フィンは成績表を握りしめた。
「俺、勉強頑張ろう……」
「僕が教えようか」
カルロスが言った途端に、フィンはブルブルと首を振る。
「カルロス、スパルタだからやだ」
「確かに怖そう……」
「心外だな」
たわいのない話をしながら教室を出る。
「うし、昼飯にすっか」
「そうだね」
昼前に終わったため、お腹はぺこぺこだ。直接売店に向かうことにした。
「何食べようかな」
悩むフィンにカルロスが言う。
「どうせサンドイッチでしょ」
「いや……もう飽きた」
顔をしかめるフィンに、私は呆れて笑ってしまう。
「そりゃあんだけ食べてたらね」
「次はホットドッグに行こうかと思ってるんだけど、どう思う?」
「好きにしたら?」
「うん、じゃあこれから一週間はホットドッグにしよう」
「何でそうなるの……」
校舎から出ると、夏風が私たちを包み込んだ。
この一学期、我ながらよく頑張ったな……。
小さな達成感を胸に、私は微笑む。
成績のことをアルゼ様に報告したいし、帰ったら荷造りでもするか。
私はそんなことを考えながら、二人の後を追った。




