表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
62/63

episode62:夏月の夜

それから数週間が経った。一週間後は夏休みで皆ソワソワしている。


「ルウラは夏休みどっか行くの?」


休み時間にフィンが尋ねてきた。私は教科書を取り出しながら言う。


「あー家に帰ろうかなって」


長期休みは許可証なしで外出できるため、実家に帰る人が多い。

私も長期休みぐらいは、アルゼ様に顔を見せておきたい。


「だーっ、ルウラもか。」

「ん?」

「アナベルもトロイも帰るみたいでさ。いやー寂しくなるな」

「フィンとカルロスはどこも行かないの?」

「俺はまあ……カルロスも帰らないってさ」


変に言葉を濁しながら言うフィン。突っ込まないようにしよう。


「じゃあ、しばらく二人で過ごすことになるのね」

「そうなるな。それにしてもカルロスと二人きりかぁ」

「……聞こえてるよ」


横からカルロスが呟いた。慌ててフィンが取り繕う。


「別に嫌なわけじゃねえぜ?ただカルロスは、俺のギャグに突っ込んでくれないというか……」

「突っ込む価値があるギャグを見せて欲しいな」

「……つまんないギャグですんません」


そこへ予鈴が鳴って七限目のホームルームが始まった。担任のマックス先生が教卓に立つ。


「今日は、夏休み明けにある課外授業の説明を行います。」


課外授業!!


私は目をキラキラさせた。

プリントが配られて目を移す。

そこには、『皆で守りきれ!結晶大作戦!』とでかでかと書かれていた。


何このネーミングセンス……。


「くそださいタイトルですが、大体分かりますよね。ようは与えられた結晶を守りきれということです。」


暴言を吐きながら先生が言う。


意外と怖いんだよな……。


「一チームに三個の結晶を与えますので、それを他チームから守りきってください。」


どうやら今回は対人戦の課外授業らしい。

配られたプリントと先生の説明をざっと目を通すと、ルールは大体理解できた。

各チームには三つの結晶が与えられ、それを決められた時間まで守りきるのが基本。守りに徹してもいいが、他チームの結晶を破壊すれば、より多くのポイントを得られるらしい。つまり、守るか攻めるかはチーム次第で、戦略によって勝敗が大きく左右されるということだ。


「ちなみに今回の精霊の使役は可。属性を上手く利用してください。」


私はそこでリットを思い浮かべた。

最近姿を現さないけど、大丈夫だろうか。


「質問がある生徒は、聞きに来ること。詳しくはプリントを見て、夏休み中に準備を行ってください」


先生が最後にそう言い、ホームルームが終わった。


「ふわあ、終わったー」


放課後になり、横でフィンが体を伸ばす。


「それにしても対人戦か。怖えなー」

「夏休みのうちになるべく作戦を立てておかないとね」

「夏休み明けはテストもあるし、休ませる気ないだろ……」

「気抜くなってことじゃない?」

「……気抜いてるつもりはないんだけどな」


教科書をしまい、私がカバンのチャックを閉めたのを見て、フィンは椅子から立ち上がった。


「んじゃ帰るか」

「カルロス帰るわよ」

「……ん」


カバンを手に取って教室を出ようとすると、「ルウラ・クラーク」と呼び止められた。見ると、教室の外にマックス先生が立っていた。


「何ですか?」

「少しお話があります。今大丈夫ですか」

「……まあ、大丈夫ですけど」


怪訝そうなフィンと、眠たげなカルロスと別れてマックス先生についていく。またこの前と同じ資料室に案内された。


「ルウラ・クラーク。夏休みの予定はありますか?」


急に聞かれて、私は一瞬詰まる。

 

「……家に帰ろうかと。どうしてですか?」

「冬休みに護衛試験があるでしょう。夏休みの間に講師の先生を呼んで魔法の手合わせをしませんか?」

「えっと……」


私は悩みながら、アルゼ様の顔を浮かべる。


「ありがたいんですけど、師匠がいるので……」


申し訳なく言うと、先生は「そうですか」とあっさり引き下がった。


「ちなみに、試験の勉強は進んでいますか?」

「過去問三年分は解きました。」

「まずまずですね。期待してますからこのまま頑張りなさい」

「あ、はいっ」


話は終わりのようだ。先生はさっさと部屋を出てしまった。


魔法の練習もしないといけないんだよなぁ……。


特別な許可がなくては、学園内で魔法の練習などできない。先生はその事を懸念して言ってくれたのだろう。けれど、私にはアルゼ様という難ありだけど、すばらしい師匠がいる。きっと何とかなるはず。


そんなことを一人で考えていると─


「あのーここ使っていいですか?」


一人の男の先生が、ダンボールを抱えて部屋を覗き込んでいた。


「あ、ごめんなさい!今出ます!」


私はぺこりとすると、部屋を出た。



焼き付けるような日差しの中、汗をかきながら寮に戻ると、エアコンがついていて冷気が体を包み込んだ。皆が共用スペースで、ぐでーとなっている。


「ただいまー……って何この有り様」

「おかえりルウラ。いやーエアコンが気持ちよすぎて……」


自室にはエアコンが設置されていない。設置されている共用スペースに集まるのはいいけど、ちょっとだらけすぎでは?

カルロスなんか、自室からちゃっかり毛布を持ってきて寝ている。


「そういえば、ルウラも実家に帰るの?」


アナベルが聞いてきて私は頷いた。


「やりたいこともあるし、夏休みが終わるギリギリまではいようかなと。」

「そっかー」


話が途切れ、私が手を洗いに行こうとすると─


「……そういえばルウラさ」


ソファにふんぞり返っていたフィンが私を見る。


「最近マックス先生とよく話してない?脅されてる訳じゃないよな?」

「え、おど……?」

 

予想外の事を言われて私は驚く。


確かに人を脅すような性格の先生だけども!


「そんなことないわよ。まあ色々あって、ね」


そう言うと、フィンはアナベルたちの顔を見回して不満気な顔になった。


「色々って……もしかして知らないの俺だけ?」

「あぁ、言う機会なかったから」

「俺に隠し事してたの……?」

「そんな大層な話じゃないわよ。私が特待生目指して、護衛になろうとしてるって話。」


すると、フィンは目を大きくした。


「特待生!?護衛!?」


耳元で叫ばれたトロイが耳を押さえる。


「そうよ。それで、マックス先生に色々とアドバイス貰ってたの」

「そうだったのか!すげえじゃん、ルウラ!応援するぜ!」


またもやトロイが耳を押さえる。

なんか思ってたよりも熱い応援をもらってしまった。


「あ、ありがとうございます……」

「何で目指そうと思ったの?え、いつから?」


質問攻めにされて私は口ごもる。


これ話してたら夜になるぞ……?


「ん……今日のごはん担当誰だっけ?」


そんな中、目を覚ましたカルロスが助け舟を出してくれた。


「あっ、俺とトロイじゃん。うし、トロイ。カレーでも作るか!」

「え、一昨日も……」


アナベルがぽつりと呟き、フィンが「そこ!」とビシッと指さす。


「ルール決めただろ。人が作るものに文句は言わない。」

「……ごもっともです」


フィンは満足気に頷くと、冷蔵庫を漁り出す。ようやく私は手を洗いに行くのだった。



部屋は暑いため共用スペースで皆で勉強していると、次第に香ばしい香りが漂ってきた。


「お腹すいた。もう勉強無理……」


突っ伏するアナベルを見て、時計に目を移すともう七時だった。


「できたぞー!」


集中が切れたタイミングでフィンが言い、勉強を中断することにした。

皆で手伝ってテーブルにカレーを並べる。


「おいしそー!」

「今日はトロイが野菜を切ってくれたからな。この前よりも美味しいと思うぞ」


一昨日はフィンとカルロスがカレーを作ったのだが、フィンが切った野菜があまりにもでかくて文句は言わなかったものの、食べるのに苦労したのだ。


「二人ともありがとう。いただきます!」


五人で手を合わせて、カレーを口に運ぶ。


「おいひ!」


口に入れた瞬間、スパイスの香りがふわっと広がった。程よい辛さと甘みのバランスが絶妙で、すごくおいしい。


「俺の唯一の得意料理だからな。ところでルウラ。何で護衛目指そうと思ったの?」

「私もそれは聞いてないから聞きたいな」


フィンの言葉を聞いて、アナベルも乗っかかってくる。


ぐっ……忘れた頃かと思ってたのに!


「……長くなるわよ」

「全然大丈夫!」

「カルロスはもう一回聞く羽目になるけど……」

「……気にしないで」

 

私は水を飲むと、口を開いた。


「カインっていう従者がいてね……」


私はカルロスと話した時と同じように、今までの事を話し始めた。


窓の外には淡い月光が差し込み、食卓の上にはまだほんのりカレーの香りが残っている。 そうして夜は静かに更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ