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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode61:守るという選択

一週間が終わり、休日となった。


「ふう」


共用スペースで紅茶を飲みながら一息つく。シーンとした部屋に時計の針が進む音だけが響いている。

アナベルはどこかに出かけて、フィンとトロイは学園のグラウンドに遊びに行っている。


こんなに静かなのは、久しぶりね。


私がぼーっとしていると、部屋からカルロスが出てきた。


「あれ、ルウラ。いたんだ」

「休日なのに、男子二人と遊ぶ元気はないわよ」

「それは確かに」

「お茶入れようか?」

「いいよ」


カルロスは、キッチンに立つと自分で紅茶を入れ始める。


「カルロスは、どこか行かないの?」

「しんどいから嫌だ」


この人、学校なかったらずっと家こもる人だ……。


カルロスはお茶を片手に、私の前に座る。


「そういえば最近部屋にこもって勉強してるよね。」

「あぁ……」


うっ、気付かれてたか。


「テスト終わったけど、ずっと授業の予習してるの?」

「いやぁ……」


まあ、カルロスなら話してもいいか。


「実はね、特待生になれたら王家の護衛試験受けようと思ってるの」

「あ、そうなの」


カルロスは驚いた様子を見せずに、お茶をすする。


「えっ、驚かないの?」

「驚いてるよ」

「どこがよ……」

「特待生目指してるのは薄々気付いてたけど、護衛試験受けるっていうのはびっくりした」


特待生のことは気付いてたんだ……。


「カルロスって、周りのことよく見てるわよね。すごいわ」

「……まあ、小さい頃色々あって」


カルロスの顔が少し陰る。


「そうだったのね」

「で、何でルウラは護衛目指してるの?」

「え、えっーと……」


話せば長くなるんだよなぁ……。


悩む私を見て、カルロスは申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん、踏み入りすぎた」

「いや、大丈夫よ。ちょっと長くなるけど……」


私は、カインが攫われてから今に至るまでのことを話した。大分長くなってしまったけど、カルロスは最後まで聞いてくれた。


「攫われた……」


眉をひそめてカルロスが呟く。


「つまり、ルウラは従者を助けるために護衛になるっていうこと?」

「んまあ、安否……というか生きてるかは分かんないんだけどね、王宮入って情報を集めたいなって」

「それってさ、護衛を目指す必要あるの?」

「え……」


カップの中の紅茶が揺れた。思いがけないことを言われ、私は目をぱちくりさせる。


「ごめん、今のは言い方が悪かった」


カルロスは、カップの取っ手をキュッと握りしめた。


「護衛ってさ、なる前に遺書書かされるってのを聞いたことがある。従者に会いに行きたいっていう気持ちは分かるけど、命までかけていくものなのかなって」


……そうだよね。


言葉はすぐに出なかった。カルロスが言っていることは正しい。

特待生になったらメイドや料理人、それどころか王家専用の庭師も目指すことができる。わざわざ危ない橋を渡る必要はない。けど─


「あのね、カインと約束したの。一緒に護衛になろうって。護衛になるって言葉の重さも、命がけだってことも、何も分かってなかった。ただ一緒にいられたらいいなって、それだけで……」


「だったら……」とカルロスは言う。


「でも今は違う。そりゃあ、あの頃の時間をなかったことにしたくないっていうこともあるけど、守りたいものが増えた今、私は皆を守る側に立ちたいんだよ」


言い切ると、沈黙が下りた。


「そっか……」


カルロスはぽつりと呟いた。


「ルウラの気持ちが聞けて良かったよ。応援する」

「ありがとう」


照れくさい空気が流れたところへ部屋のドアが開き、フィンとトロイが帰ってきた。


「あ、おかえりー」

「ただいま。もしかしてお邪魔だった?」

「はい?」

「ごめんなさい。何でもないです」


賑やかになった中、私は開けてある窓から空を見上げる。不意に窓から吹き込む風が、紅茶の香りをさらっていく。


命まで懸ける必要はあるのか──カルロスにそう問われて揺れていた心は、不思議と静かだった。


もうすぐ夏休みか……。


「ルウラ、お菓子買ってきたから後で食べようぜ!」

「何でサンドイッチなの……」

「サンドイッチもお菓子ですー」


笑い声が部屋に広がる。その声を聞きながら、私はそっと窓を閉めた。

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