episode60:帰り道の密談
テストの週から一週間が経った。
今日は全教科のテスト返却があり、翌日に総合順位が貼り出される。
「緊張するなぁ……」
カルロス、フィンと教室に向かいながら私は呟く。
この結果で特待生への運命がかかってくる。四年後なんて待ち切れない。絶対今年受けたい。
祈っている私を見て、フィンが言った。
「緊張しすぎじゃね?ルウラは、俺より全然上だから大丈夫だって」
「いや、フィンと比べられても……」
「ひどい……」
自信はあるとはいえ、カルロスもエマもいるし、全然大丈夫なんかじゃないんだよ……。
「カルロスは緊張してねえの?」
「全部できたのに何で緊張する必要あるの」
「……はいはい、さーせんでした」
「もうカルロスに聞かない方がいいわよ……」
軽口を叩きながら教室に着いた。
「おはよー」
「ルウラ、おはよう」
エマに挨拶をして席に座る。右隣に座ったフィンが鞄を開け「あ」と声を漏らした。
「何、間違えて変な雑誌でも入れてきた?」
「俺のこと何だと思ってんだよ!」
「じゃあ、どうしたの」
「筆箱忘れたわ。ルウラ貸してくんね?」
「しょうがないなぁ……」
私は、筆箱からペンと消しゴムを取り出した。
「はい、ペン折らないでね」
「俺のこと何だと思ってんの……」
不意に横から視線を感じて、私はそっちを見る。机に頬杖をついたカルロスと目が合った。
「な、何?」
「いや別に」
カルロスはそう言うと、机に突っ伏した。寝息が聞こえてくる。
「あー!カルロス寝るなよ!」
フィンが近距離で叫び、私は咄嗟に耳を押さえた。
ホームルームが終わり、一限目を告げるチャイムが鳴った。
「では、テスト返却を行うぞ!」
一限目は、魔法史。担当のテキサス先生が、黒板に平均点を書き出す。
「えー、学年平均67.9。クラス平均75.4だ。」
先生はチョークを置くと、手をはらった。
「今回のテストは、よく出来てたぞ。お前たちよく頑張ったな」
うー、さすがA組。点差が凄い……。
「じゃあ、答案取りに来い。イアン・ホール……」
順番にテストを受け取りに行く。ついにわたしの番になった。
「ルウラ・クラーク」
「は、はいっ」
先生は私に答案を渡すと、にっと笑った。
「学年一位の成績だ、よく頑張ったな」
「ありがとうございます!」
私は席に戻ると、答案を広げる。そこには100の数字が並んでいた。
うわあああ!満点だ!
さすがにカルロスたちには勝てたんじゃない?
私が一人でにんまりしていると、カルロスの机から答案が滑り落ちた。本人は寝ていて、それに気付いていない。
「ちょっとカルロス。落ち……」
うん!?
私はカルロスの答案が目に入って仰天する。堂々と100の数字が書かれていた。
「あ、ごめん……」
カルロスが体を起こして受け取る。
「え、ええー……」
あなたも満点だったのね……。
私はガクリと肩を落とした。
そして、今日の授業が全て終わり……
テストが全部返ってきたー!
「……フッフッフ」
「怖い……」
私は一人で笑う。
全て90点台を取れていた。魔法薬学が少し心配だったけど、堪えていたからまあよし。
「ルウラさぁん、俺を助けて……」
横でフィンが情けない声を出す。
「そんなに悪かったの?」
「平均ない……」
「あらら……」
A組は平均高いから仕方ない……。
「ルウラ。売店に爆食しに行こうぜ……」
「え、やだ」
「カルロスぅ……」
「ねむい……」
すぐには帰れそうにはない、グダクダの二人を見てため息をつく。
「全く……先寮戻るわね」
フィンに貸していた筆記用具を回収して、鞄を肩にかける。
寮に戻ると、アナベルが先に帰っていた。
「あ、ルウラ。おかえりー」
「……ただいま」
フィンは論外として、他のチームメイトと話す時に、ロゼッタに言われたことがチラつくようになってしまった。
「テスト返ってきたね。どうだった?」
「思ってたより出来てたよ」
「さすがだなぁ。ルウラ頑張ってたもんね。あ、お茶飲む?」
「いや大丈夫。ありがとね」
「そっか……」
私は自室に戻って荷物を置く。
一回ロゼッタと、ちゃんと話さなきゃな……。
ベッドに腰掛けて、私はため息をつくのだった。
次の日、総合順位が廊下に貼り出される。
「見る勇気ないから先行ってて……」
そう言うフィンを置いて、私はカルロスと見に行く。すでに人だかりができていた。
「んー、ちょっと見えないな」
ようやく間ができて前に行く。
「あちゃあ……」
一位はカルロスだった。総合得点は、800点中774点。二位が私で756点。三位はエマで752点。四位にイアン、五位にロゼッタと続いている。
「くぅ、カルロスに負けた……」
エマとも四点しか差ないし、本当にギリギリの戦いね……。
「僕と競ってたの?」
カルロスに真顔で言われて、私は言い返す。
「そりゃそうでしょ!あなたライバルなんだからね!」
「……そう」
満更でもなさそうにカルロスは言う。ここにいても仕方がないから教室に戻ることにした。
そうして、一日の授業を終え、放課後となった。
「ルウラぁ。売店……」
「行かないからね!」
「そんなぁ……。この悲しみは食べ物でしか補えない……」
「明日休みなんだから、トロイとでも行ってきたら?」
「じゃ、そうするわ……。提出物あるから先帰ってて」
そう言われて、カルロスと寮に戻ることにする。二人で帰り道を歩いていると、ふとカルロスが口を開いた。
「……ルウラさ」
「ん?」
「最近なんかあった?」
そう言われて、私はドキッとする。
「な、なんかって?」
「ロゼッタと話した後から様子が変だから」
そう言うカルロスは、いつも通りの無表情で読み取れない。
「別に……何もないよ」
沈黙が下りる。少ししてから、またカルロスが口を開いた。
「……あのさ」
何を言われるのだろうか。
「間違ってたらごめんね。ロゼッタに、このチームに怪しい行動している人がいるとか言われた?」
「!?」
驚いてバッと顔を上げる。
「あぁ、やっぱりそうなんだね」
「えっ、いや、え、何で?」
しどろもどろになりながら、私は尋ねる。
「僕も少し気になることがあって探ってたんだ」
「気になること?」
「うん、ルウラに聞きたいんだけど、最近夜中に部屋抜けたりした?」
「え、部屋?」
私が聞き返すと、カルロスは頷いた。
「出てないけど……何で?」
「いや僕の聞き間違いならいいけど、いつからかな。夜中にドアを開け閉めする音が聞こえる時があってね。」
「……聞いことはないわね」
私が言うと、カルロスは「そっか」と答えた。
「なら僕の杞憂かもしれない。ロゼッタも確信して言ったわけじゃないんでしょ。あまり気にしない方がいいよ」
「……うん」
そこで寮に着いて会話が途切れた。そういえば……と私は寮を見上げる。
この寮で生徒を見たことがない。この寮に住んでいるのは私たちだけなんだろうか。
夕風が吹き、私はブルッと体を震わせる。
「ルウラ?」
前を歩いていたカルロスが、立ち止まった私を呼ぶ。
「あ、ごめん!」
カルロスも気にしない方がいいって言ってた。
……このことは忘れよう。
私は自分を安心させるように深呼吸をすると、カルロスに駆け寄った。




