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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode59:テスト明けの放課後

次の日はテスト最終日だ。昨日のことを気にしながらも、何とか二日目のテストを終えることができた。


「やったー!テスト終わったな!!」


解答用紙が回収され、先生がいなくなるとフィンが両手を突き上げた。


「そうね」

「なんか食いに行かね?」

「私パス」

「僕も」


途端に不満気な声を上げるフィン。


「えー、二日間頑張ったのに!」

「どうせまたサンドイッチ食べるんでしょ」

「昼も食べたのに、さすがにもう食べねえよ」


五日間連続でサンドイッチを食べているフィン。この連続記録は、一体いつまで更新し続けるのだろうか。


「仕方ない。今日は大人しく部屋に帰るか……」

「今日は部屋でゆっくりしたら?」

「はい……」


三人で教室を出る。そこへ、取り巻きを連れたロゼッタが歩いてきた。


「あ」


ロゼッタを見て、つい声を漏らしてしまう。


「どうした、ルウラ?」


フィンが怪訝そうに言う。

ここで、ロゼッタに昨日の話を持ち出されたら困る。二人に聞かれて、気まずくなりたくない。


「あらぁ、ルウラ・クラークじゃないの」


私がどう切り抜けようか考えていると、向こうから話しかけてきた。昨日の様子はすっかり消えていて、高飛車な笑みはいつも通りだ。


「え、えっーと、ごきげんよう」

「少しだけお時間よろしくて?」

「ルウラに何か用?」


なぜか、カルロスが突き放すように言う。


……まさかここで昨日のことを話すつもり?


私が警戒してると、ロゼッタはフフッと笑った。


「いやあね。約束のことを話してなかったと思いまして」

「約束?」


拍子抜けして、私はキョトンとしてしまう。


「課外授業の前に言ったでしょ。あなたのチームが負けたらわたくしのところに来なさいって」

「うわあああ!!」


そのことを思い出して、私は頭を抱える。


すっかり忘れていた!!


「あのぉ、私は約束を呑んだつもりはなくてですね……」


上目がちになりながら恐る恐る言うと、ロゼッタはにっこり微笑んだ。


「わたくしが言ったら全てその通りになりますのよ。知りませんの?」

「知らないわよ!」

「まあ、けれども今回は引き分けということで約束はなったことにしましょう」

「え?」


あっさり引いたことに驚き、本日二度目のキョトン顔。


「特別賞取ってましたわよね。だから今回の約束はなしということで」

「え、いいの?」

「来たいなら来てもらっても構いませんわよ」

「結構です!」


私が即答すると、ロゼッタは少し不満気な顔をした。


「では、次の課外授業も楽しみにしておりますわ」


そう言うと、ロゼッタは取り巻きを連れて去っていった。

後ろ姿を見送ってようやく一息つくことができた。壁際で縮こまっていたフィンが、ため息をつく。


「いやー、お嬢様って怖えな。あの目で睨まれたら心臓止まりそう」

「全く大袈裟ね」

「ていうか、ルウラ良かったな。まだこのチームにいられるじゃん」

「そうね。ロゼッタにまだ優しさが残っていて良かったわ……」


そう言った途端に私は用事を思い出す。


「あ、今から図書館行こうとしてたの。先帰っといてね!」


私は二人に手を振ると、図書館へと向かった。


図書館は学園の敷地内にあるが、他の校舎から少し離れた場所に建つ、独立した大きな建物だ。

寮へと帰っていく生徒の合間を縫い、ようやく図書館にたどり着いた。


「……大きいわね」


目の前に立つと、図書館は二階建てで、思わず見上げてしまうほど大きさだった。


ここなら護衛試験の資料もありそう。


私は中に足を踏み入れた。

中に入ると、外観以上に広く、静かな空気が流れていた。壁一面には本棚が並び、どれもきれいに整理されている。生徒が数名机で本を読んでいて、カウンターには眼鏡をかけた女性の司書さんが立っていた。


「あのー、すみません」


声を掛けると、司書さんは顔を上げた。眼鏡の奥の瞳と目が合う。


「護衛試験の資料ってどこにありますか?」


尋ねると、すぐに司書さんは紙にペンを走らせた。


「二階の、この番号が書かれた所に置いてあります。」


私はそれを受け取ると、お礼を言って二階へと上がった。

二階は人の気配がなく、物音一つしない静けさが漂っていた。


「……えっーと」


私は渡された紙を見る。そこには、『Kー3』とだけ簡潔に書かれていた。

棚に書かれている記号を見ながら、一つの棚に辿り着く。


あった……。


《護衛》と記された棚を覗き込む。

そこには護衛に関する資料や本が、整然と並べられていた。

私はその中から、護衛試験の過去問を一冊手に取り、ページをめくる。

内容自体は、学校で習った科目が主らしい。けれど問われ方が、圧倒的に違った。

例えば、学校の試験なら「この魔法の効能を答えよ」

といった問題が並ぶ。しかし護衛試験では、「なぜこの場面で、この魔法を使ってはいけないのか。」など、判断そのものを問う設問ばかりだった。


今は、全部は解けないわね……。


私は、過去問を抱えると、近くの椅子に腰を下ろす。


……少し解いてみよう。


ノートを取り出すと、ペンを走らせた。


何時間経っただろうか。ふと外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。


「閉館時間です」

「ひゃっ!?」


急に誰かが私を覗き込み、驚いて身を縮こませる。


「驚かせてすみません」


そう言ったのは、一階にいたはずの司書さんだった。


「あ、すみません。帰ります!」

「その本、借りますか?」

「はいっ」


本を手渡して、一階のカウンターへと向かう。


「お名前教えてください」

「ルウラ・クラークです」


名前を言うと、司書さんは何やらパソコンをカタカタと操作する。


「そういえば、司書さんって一人しかいないんですか?」


気になってふと聞いてみると、彼女は頷いた。


「ここで暮らしておりますから、一人の方が気楽なのですよ」

「あ、図書館に住んでるんですね」

「まあ、精霊ですので」


淡々と言われ、私は目をぱちくりさせる。


「あ、精霊さんでしたか」


喋り方も動きも自然で、人にしか見えなかった。


「貸出できました。一週間後に返却してください。返却期限を伸ばしたい場合は、再度カウンターにお持ちください。」

「分かりました。ありがとうございます」


差し出された本を受け取る。


「それから私のことは、フィーシャとお呼びください」

「はいっ。よろしくお願いします!」


私はペコリと頭を下げ、出入口の扉に手を掛ける。


「またの来館お待ちしております」


私が外に出ると、扉が閉まり、「CLOSE」と書かれた札が下ろされる。中の明かりがすっと消え、内部は闇に沈んだ。


「大分遅くなっちゃったなぁ」


帰路を辿る足を少し早める。

ロゼッタの言葉も考えると、不安なことはたくさんある。けれど今は、考えすぎても仕方ない。


……今は、やるべきことをやるだけ。


そう自分に言い聞かせ、私は寮への道を急いだ。 

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