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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode58:日常の影

結果発表から二日が経った。明日は、期末テストがある。

その日の授業が終わり、期末テストを控えている私は、誰よりも先に教室を飛び出した。


今日は魔法薬学の教科書を読み直して……


勉強の計画を立てながら廊下の角を曲がると、マックス先生と鉢合わせをした。


「あ、さようなら」


ペコリと頭を下げて、横をすり抜けようとすると─


「ルウラ・クラーク」


なぜか名前を呼ばれた。


「何でしょう?」


振り向くと、先生は私に手招きをしてスタスタと歩いていく。


……え、これはついてこいということ?


立ちすくんだままの私を見て、マックス先生は大袈裟にため息を着いた。


「……話したいことがあります。ついてきてください」


そうならそう言ってください……


そう思いながら、私はマックス先生についていった。

連れていかれたのは近くの資料室だった。資料が入った大きな棚が所狭しと並んでいる。

後から入った私が扉を閉めると、マックス先生は口を開いた。


「急にすみません。この前の特別賞のことなんですが」

「はい……?」

「実はルウラ・クラーク。あなたにだけバッジがあるんです。」


私がキョトンとしていると、マックス先生は透明な袋に入ったバッジを渡してきた。


「!?」


それを見た私は、思わず後退りをする。なんとそのバッジには王家の紋章が入っていた。


「いやいやいやいや、何ですかこれ」

「バッジです」


いや、そうじゃなくて……


「何で王家の紋章が?」

黒屍結社(ヴォルドグラーヴ)の下っ端を捕らえたことに対する、王家からの感謝の印です。」


「まあ、下っ端ですがね」と先生は、付け加える。


……下っ端ですみませんね。


「え、でもこれって私だけなんですか……」


皆も頑張ったのに……


しゅんとする私に、マックス先生はバッジを握らせる。


「あなたの優しさは間に合っています。国からのものですから貰っておきなさい、というか貰え」

「あ、はい……」


今のは褒められた、のか……?てか圧がすごいんだよな。


「それから……特待生に興味はありませんか」


特待生という言葉を聞いて、私はバッと顔を上げた。


「と、特待生ですか!」

「ええ。今のあなたの功績なら、これから特待生を目指すことも十分出来るはずです。」


どうしよう、護衛を目指していることを言うべきか……。


「別に興味ないならいいですよ。お貴族様以外は、特待生を目指す人などほとんどいませんから。」

「あのー、私特待生目指してるんですけど……」


そんなこと言われたら、言うしかないじゃないか。


すると、先生は片眉を上げた。


「何かなりたいものがあって?」

「えーっと王家の護衛になりたいなぁ、なんて」


指をこねくり回しながら言うと、先生は唇の端を上げた。


「護衛ですか、王家のねぇ」

「な、何ですか」

「いいんじゃないですか。条件を満たしさえすれば、特待生にはすぐなれます。」


アナベルも言ってたな……。


「言っておきますが、国家護衛選抜試験は今年の冬休みにあります。」

「ええっ」


もうすぐじゃない!?


驚いて素っ頓狂な声を出してしまった。


「今年受験できなければ、次は四年後になるでしょう」


四年後、か。


「もし今年受けたいなら、冬休みまでに条件を満たすこと。」

「はいっ」

「図書館に護衛試験についての資料があるので、時間がある時に行ってみてください」

「ありがとうございます」


私がお礼を言うと、先生は扉を開けた。


「それから期末テストは、全部満点取りなさい。では……」


ん、なんか最後にすごいことを言われたような……?


私はバッジを胸元に入れると、資料室を出た。


護衛試験は、九ヶ月後。特待生の条件は、全教科A判定をとること。課外授業諸々でバッジを三つ以上集めること。校長先生の推薦を受けること。

まずは、明日の期末テストが大きく成績に関わってくる。


「頑張れ、ルウラ・クラーク……」


自分を鼓舞すると、私はブロンズ棟へと足を向けた。


ついにテスト当日。教室に向かうギリギリの時間まで教科書を見直す。


「ルウラー、そろそろ行くよ?」

「はーい」


教科書を鞄に詰めて、部屋を出る。共用スペースに行くと、もう皆揃っていた。


「お待たせ!行こうか」


五人揃ってブロンズ棟を出て、教棟に入る。


「頑張ろうねー!」


健闘を祈ってアナベルとトロイと別れると、三人でA組の教室に向かった。


「あーあ、俺今回古代言語学やばいんだよなぁ」


後ろを歩くフィンがつぶやく。


「何言ってんのよ。あなた頭だけはいいんだから大丈夫でしょ」

「え、ひどい。今の聞いた?」

「カルロスはどう?」


カルロスに話を振ると─


「全教科90点台は取れる」


真顔で言われた。


「バケモンいるし……」


肩を落とすフィン。


「俺クラス分けやばいかも……」


フィンがそう言ったところで教室に着いた。いつもより遅く来たせいで、生徒はほとんど揃っている。


「おはよー」


エマとアウラに挨拶をして席につく。同じタイミングでマックス先生が入ってきた。


「おはようございます。今日から期末テストですね。まずは、テストを受けるに当たっての説明を行います」


荷物のこと、準備物のことを軽く説明された。先生は、「それから……」と話を続ける。


「不正行為防止のため、魔法を感知できる精霊を使役しています。どんな悪知恵を使ってもすぐ分かります。そんなことはしないように。」


先生は説明を終えると、テスト用紙を配り始めた。

一限目は魔法薬学。教科書の内容に加え、応用が問われるらしいから難易度は高め。けど、ここで取れたらいい評価が取れるはず。


「開始」


先生の合図で一斉にテスト用紙をめくる。

一問目を見た瞬間、私は小さく息を吐いた。見覚えのある問題だ。私は即座にペンを走らせた。


「そこまで」


チャイムと同時に先生が指示して、皆がペンを置くと先生が回収を始める。

問題数が多くて時間はギリギリだったが、全て埋めることができた。


……なかなかいい点がとれそうだわ。


枚数を数え終わった先生が休憩の許可を出し、教室を出ていく。その途端にフィンが突っ伏した。


「俺、もうダメかも……」

「ダメって、まだ一教科目じゃないの」

「結構勉強頑張ったんだよ。けど、時間足りなかった……」

「あー、時間は確かに足りなかったわね。カルロスは時間足りた?」

「一問……」

「ん?」


ボソッと言われ、聞き返す。


「一問間違えた」

「一問だけかよ!ふざけんなっ」


バシッとフィンが机を叩く。


「私も自信はあるけど、そこまで点は高くないかもなぁ」


やっぱりカルロスってバケモンだわ……。 


「もう頭いい人怖い……」


またフィンは机に突っ伏するのだった。


二限目の古代言語学、三限目の魔法史、四限目の魔法工具のテストが終わった。

今日はお昼で終わりだけど、作るのが面倒なので売店で昼食をとることにする。


「あ、俺サンドイッチ買ってくるわ」

「昨日も一昨日も食べてたじゃない」

「別にいいだろ!」

「僕もサンドイッチにする」

「じゃあ、ここで分かれましょう」


二人と別れて、今日はオムライスの店に向かう。近くの席に座って一人でもぐもぐしていると─


「ご一緒してもよろしくて?」

「げっ……」


珍しく一人のロゼッタが、正面に座ってきた。


「失礼ですわね」

「何かご用?」

「お話したいことがありまして」

「話したいこと?」


私が聞き返すと、ロゼッタは頷いた。


「あなたのチームメンバーのことですわ」


私は何が言いたいのか分からず、目をぱちぱちさせる。


「その……」


眉をひそめて視線を下に落とすロゼッタ。言うのを迷っているよう。こんなロゼッタ見たことがない。


「どうしたの?」


不審に思って、身を乗り出す。しかし、ロゼッタが放った言葉は想像つかないものだった。


「あなたのチームの中に、少し……妙な行動をしている方がいますわ」

「えっ?」


言ってる意味が一瞬理解できなかった。


「みょ、妙って……?」

「それは……」


ロゼッタの視線が揺らぐ。言いかけた瞬間─


「あ、ルウラいたー!」


サンドイッチを手に持った、フィンとカルロスがやって来た。


「ではまた─」


ロゼッタはそれに気が付くと、行ってしまう。カルロスは、真顔でロゼッタの姿を見送る。


「え、何話してたの?」

「いやちょっと、ね」


「ふーん」と言ってフィンは座ると、サンドイッチを取り出していそいそと食べ始めた。


「うわっ、こっちカルロスの分だったわ!すまん!」

「……別にいいよ」

「ちょっと待て!何このサンドイッチ!めちゃ辛いんだけど!?」

 

騒いでいるフィンを横目に、私はロゼッタの言葉を思い返す。


妙な行動─。


それは私たちに害をなすものなんだろうか。


きっと深い意味はないわよね……。


そう思おうとしても、その言葉だけは胸の奥に沈んで離れなかった。

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