episode57:評価される努力
部屋に戻ると、皆が共用スペースでくつろいでいた。カルロスなんかソファで熟睡している。
「あ、ルウラおかえりー」
「おかえりー」
皆がヒラヒラと手を振ってくる。
「ただいま。すっごいくつろいでるわね……」
「うん。自室で休もうかと思ったけど、なんかここの方が落ち着くからね」
私は手を洗うと、ソファに身体を押し込んだ。端に座っていたフィンがぐえ、と声を漏らす。
「ところで、ルウラどうだった?」
「どうって?」
「マックス先生に連れていかれてたじゃん」
「あぁ……。なんか色々あったけど、とりあえず疲れた……」
どはぁと、ソファにふんぞり返る。
「ま、明日明後日は休みだからゆっくりしようぜ」
「そうねぇ」
「俺、明日昼まで寝るわ」
「おそっ」
「ルウラだって、この前昼に起きてきたじゃん!」
「いつの話ですか?」
「ひどっ」
そんな話をしていると、アナベルとトロイがじとーと湿った視線を投げかけてきた。
「えっ、何?」
「二人とも忘れてるの?来週からテスト期間だよ」
「ええっ!?」
「はっ!?」
二人で素っ頓狂な声を出す。
そういえばそうだった……。
「ルウラは、特にいい成績取らないとだね」
アナベルがニヤッと笑い、フィンが私を見る。
「え、何で?」
「あははー、ちょっと勉強してこようかなー」
私は話を誤魔化すと、自室に戻る。
確かにテストが一番成績に直結するんだよな。
「……やるか」
疲れているけど、暗記ぐらいはできるだろう。
棚から教科書を取り出すと椅子に座る。
それから二日間徹夜で勉強した私は、どっと疲れが出て体調を崩したのだった。
そして、週の初めとなった。朝から皆がソワソワしている。
「いでっ」
鈍い音がして、アナベルが椅子の足につま先をぶつける。
「ちょ、アナベル大丈夫?」
「いたい……」
「ルウラぁ。俺のローブ知らない?」
「何で私が知ってんのよ……」
「フィンごめん。君の間違えて着てた」
「おい、カルロスぅ……」
今日は、課外授業の結果発表がある。アクシデントがあった中でも頑張ったから優秀賞は取りたい。けど……
ただの結果発表なのに、何でこんな落ち着きがないわけ……?
「皆ーそろそろ行くよ?」
「すまん、先行っといてくれ」
「……はい」
まだ準備が出来てない男子陣をおいて、アナベルと先に出る。
男子の方が準備遅いって何事……。
「皆頑張ったから、優秀賞とりたいねぇ」
「そうね。キューブウォッチは使っちゃったけど、クリスタルの方は頑張ったから、そこにかけたいわね。」
アナベルと話しながら大聖堂に入ると、すでに多くの生徒が集まっていた。後ろの方の長椅子に腰を下ろす。
少しして、バタバタと男子三人が駆け込んできた。
「遅かったわね」
私が言うと、フィンがニヤニヤしながら口を開いた。
「聞いてくれよ。カルロスが腕時計がないって言うから三人で探してたらさ、どこにあったと思う?」
「さあ」
「こいつ、既に腕につけてたんだよ!」
ブハッと吹き出すフィン。何が面白いんだか。
「あって良かったわね。とりあえず後ろつっかえてるから座りなさいよ」
フィンたちが座り、少し経ってから結果発表が始まった。司会のマックス先生が挨拶の言葉を一言喋り、ダリ校長先生が壇上に立つ。
「えー、い、今から第一回課外授業の結果発表を行いたいと思いますっ!」
力んだのか、声が裏返ってしまった模様。
「では、採点の基準を説明します。まず配点が大きい、黒ずんでいないクリスタルの数を採点しました。」
ちょっと黒ずんじゃったからなぁ。心配……
「他の得点としては、キューブウォッチの使用状態、魔物の討伐、使用魔法のレベルを見て採点を致しました。……ック」
唐突なしゃっくり。大丈夫そうですか……?
「それでは、お待ちかねの優秀賞の発表をしたいと思います」
辺りがしーんと静まり返った。優秀賞は一位から三位までの三チームが選ばれる。絶対選ばれたい!
「優秀賞第三位……」
ドキドキ……。
ギュッと手を握る。
「マーフィー班!!」
前方でうわぁ!と歓声が上がった。
えっと、マーフィーって……。
「マーフィーってあの人か。あのー、挨拶の声が大きい……」
「あ、そうよ。アウラだ」
アウラたちは壇上に立つ。校長先生は賞状を手に取った。
「マーフィー班。クリスタル210点、キューブウォッチ50点、魔物討伐0点、使用魔法10点。合計270点!!」
校長先生がアウラに賞状を渡し、チームの一人一人にバッジを授与する。拍手が鳴り響いた。
あぁ、バッジが羨ましい……
「続いて、優秀賞第二位!」
拍手が止み、またしーんと静まり返る。
「モーガン班!!」
きゃー!!と女子の歓声が上がった。ロゼッタが自慢げな顔で立ち上がる。
「ルウラやばくないか?」
「……すごくやばい」
カルロスがクリスタルをあんなに奪ってたのに、何で優秀賞取れるのよ……。
ここで一位に選ばれなかったら、ロゼッタのチームに行かなきゃいけなくなる。いや、約束を呑んだ覚えはない。けれど、約束したと言い張るロゼッタを、私はうまくやり込めるだろうか……。
メンバーが壇上に立ち、点数が発表される。
「モーガン班。クリスタル115点、キューブウォッチ70点、魔物討伐60点、使用魔法50点。合計295点!!」
クリスタル以外の得点がすごい……。魔物討伐60点ってどのぐらいボコボコにしたのよ。
校長先生は、同じように賞状とバッジを授与する。
さあ、次は一位の発表だ。心臓がバクバクと早鐘を打つ。
「では、最優秀賞である第一位を発表します!」
お願いします!
ギュッと両手を握りしめる。校長先生が息を吸った。
「ホール班っ!!」
ウオオオ!と盛り上がる。
「あ……」
ダメだった……。
「ルウラ……」
アナベルが、泣きそうな顔になっている。
「ホール班。クリスタル350点、キューブウォッチ60点、魔物討伐10点、使用魔法40点、合計460点!!」
点数を聞いて唖然とする。ぶっちぎりの一位だ。
「皆さんお疲れ様でした。これにて結果発表を終わります。……ック」
頑張ったのになぁ……。悔しい。
校長先生が転びそうになりながら階段をおりる。解散の指示が出され、皆が立ち上がった瞬間─
「ちょっと待ってください!!」
マックス先生がマイクを持ち、慌てて壇上に立った。
「すみませんが、着席してください」
何だろう?
不思議がりながらも、椅子に座り直す。
「えー、本来は一位から三位までの発表だったんですが、今回非常事態が発生したということもあり、特別賞を用意しました」
途端に、皆がざわつき出す。非常事態って何?と後ろで話す声が聞こえた。
「クラーク班っ!!」
ざわめきをかき消すようにマックス先生は、大きな声で告げた。
「えっ……?」
誰が呼ばれたのか分からずに、呆然としてしまう。
クラーク班?え、私たちですか?
「ルウラ!やったな!!」
「前に出てきてください」
「ルウラ!」
「え?あ、うん」
本当に自分たちなのだろうか。実感がなくてフワフワしている。
「もぉし、クラーク班いないんですか?」
「あっ、います!」
手を挙げて立ち上がると、ドッと笑いが起こった。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「もうっ、行くよ」
アナベルに背中を押され、五人で壇上に立つ。
「えー、一応点数の発表をしておきますね。クリスタル290点、キューブウォッチ30点、魔物討伐5点、使用魔法90点、合計415点」
ううっ、二位だったのに……。
「優秀賞は取れていましたが、想定外の事態、外部要因の介入により評価基準から外れましたので、特別賞を授与します。バッジはありませんが、賞状をお渡しします」
賞状を渡され、私は受け取る。すると、前方から不満気な声が聞こえた。
「あのチーム、D組いなくね?」
「不平等じゃないの?」
どんどんざわめきが広がっていく。冷たい視線がこちらに向けられる。
そうだよね。やっぱり言われちゃうよね……。
俯いたまま、壇上から降りようとすると─
「……ごほん」
マックス先生が咳払いをした。驚いて私たちは振り返る。
「言っておきますが、D組の生徒がいてもいなくても彼女たちの成績に変わりはありませんよ。こちらの非があるアクシデントに、上手く対応してくれたことに対しての特別賞です。それから……」
マックス先生は、息をついた。
「D組の生徒を卑下する行動、発言がよく見られます。ですが、このクラス分けは入学試験での結果によるもの。追いつかれる、追い抜かれるのは時間の問題でしょう。」
私は息をするのも忘れて、先生に釘付けになる。
「D組に限った話ではないですが、あなた達が余裕ぶっているその時間、他の生徒がどれほど努力をしているか知っていますか?今のクラスで満足していては、どん底に落ちますよ。三学期からは貴族階級の生徒も入ってきます。もっと危機感を持つように」
その声は、大聖堂に堂々と響き渡った。不平を言う生徒はもう誰もいない。
マックス先生って意外とちゃんとしてるわよね。
嬉しくなって、思わず笑みが浮かんでしまう。そんな私を見て、マックス先生が早く降りろと言わんばかりに顔を顰めた。
……よし。
胸の奥に温もりが広がり、肩の力が抜けた。私は賞状を握りしめると、壇上からおりた。




