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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode55:残る余韻

─そうです。殿下の命令でして。


遠くで誰かの声がする。


─いえ、私が護衛いたします。


護衛……?何のことだろう。


─よろしくお願いいたします。


そこで、私は目を開けた。見慣れない天井が飛び込んでくる。


ここは……保健室か。


「あっ、ルウラ。起きたんだね!」


アナベルが顔を覗き込んできた。


「あれ、アナベル……?」

「うん、覚えてる?ルウラ、終わった後倒れたんだよ。強い魔法を使用したから、その反動だって。」


あぁ、やけに眠たくって意識を手放しちゃったんだっけ……。


「あっ!そういえば皆は無事なの!?」


ガバッと起き上がる。アナベルはにっこりと笑った。


「皆無事だよ。トロイとカルロスは、すぐ治癒魔法を掛けてもらったしね」

「よかった……」

「ルウラは、体調大丈夫?」

「ええ、もう平気。ありがとう」


それにしても、あの男たちの正体は何だったんだろう……。


眉をひそめている私を見て、アナベルが言った。


「起きたことについては、全部フィンたちが説明してくれたよ。あの男たちについては、先生から説明があるみたい。」

「そっか……」


すると、ドアがノックされた。私が「どうぞ」と言うと、カルロスたちが姿を現した。


「あ、皆!」


カルロスもトロイもいつも通りだ。


「二人とも怪我は大丈夫なの?」


トロイがグッと親指を立てる。カルロスも頷いた。


「ルウラも、体調は大丈夫なのか?」


カルロスが尋ねてきて頷いた。


「ええ。それよりあの後どうなったの?」

「あぁ、あの後は……」


フィンが説明してくれた。

動けなくなったカルロスをキューブウォッチで転移させ、フィンは自力でゴールまで向かったよう。


「そうだったのね」

「ごめん、キューブウォッチ使っちゃった」


カルロスが申し訳なさそうに言う。私は、ブンブンと首を振った。


「何言ってるの!誤作動で飛ばされた私はともかく、あなたは使わないと危なかったのよ」


フィンも「そうだぜ」と、カルロスの肩を叩き、私を見た。


「てか、ルウラ助けてくれてありがとな。ルウラいなかったら、三人とも死んでたよ」

「ありがとう、ルウラ」


二人にお礼を言われて私は俯く。


「でも、結局カルロスは怪我しちゃったし、私は必要なかったのにキューブウォッチ使っちゃったし……」


私は俯いて言う。もっと上手く動けなかったのだろうか。

 

「気にしないで。助けられたのはこっちなんだから。……それよりすごい魔法使ってたね」


気を遣って、カルロスが話題を変えてくれた。途端にアナベルが食いついてくる。


「私、そのことずっと聞きたかったんだよ!ルウラ、どんな魔法使ったの?」

「えっとねぇ……」

「そりゃもうボン!って感じで、気付いたらうわああ!ってなってたんだ!」

 

私の代わりにフィンが勢いよく言い、沈黙が降りる。気まずい空気にフィンが苦笑いをした。


「は、はは……忘れてください」

「……語彙力、どうにかしたらどうですか」


そんな空気の中、マックス先生が保健室に入ってきた。


「あれ、マックス先生どうしたんですか」


キョトンとする私に向かって、先生はため息を着いつた。


「どうもこうもないですよ。何であなたは、いつも騒動を起こすんですか」


皆がチラッと私を見る。


「えっ、私が悪いんですか……?」

「とりあえず、全員揃っているので課外授業で起こったことの説明をします」


皆が顔を引き締めた。


「まず……」と先生は呟くと、


「!?」


私たちに向かって頭を下げた。突然のことに、私たちは目を丸くして戸惑う。


「……まず、君たちをこのような危険に巻き込んでしまったことを、学園を代表して謝罪します」

「せっ、先生。顔を上げてください!」


先生に頭を下げられるとか、心臓が痛い……!


先生は顔を上げると、静かに続けた。


「今回、君たちの命を狙ったのは、黒屍結社(ヴォルドグラーヴ)と呼ばれる集団です。依頼を受ければ、手段を選ばず標的を排除する、極めて危険な組織です」


私はゾッとする。

本当に、そんな集団が存在しているとは思わなかった……。


「本来、生徒が関わるべき存在ではありません。彼らの介入を事前に察知できなかったのは、明らかにこちらの落ち度です」


先生は、私たちを見る


「現在、王宮及び騎士団と連携し、警備と情報の洗い直しを行っています。今後、同様の事態が起こらないよう、学園として責任をもって対処します」


先生が言い終えた後、カルロスが「マックス先生」と声を掛けた。


「今回の事件、明らかにトロイが狙われていました。トロイが標的だった。その理由はハッキリとしているんですか?」

「……残念ながら分かっていません」


先生はわずかに眉を寄せて、そう答えた。

 

「組織全体から狙われてるってことですよね。護衛とかつかないんですか?」


アナベルも心配そうに尋ねる。


確かに、あの男たちを捕まえたからといって魔の手が途切れるわけではない。これからも刺客が現れる可能性だってある。このまま平和に学園生活を送れるのだろうか。


「その点も現在協議中です」


先生はそう前置きしてから、私たち一人一人を見渡した。


「学園内については、教師陣が責任をもって警戒に当たります。少なくとも、同じことが起きないよう、体制は強化します」


体制の強化……。

裏を返せば、この学園内も安全では無いってこと。

不安が押し寄せてくる。


「また報告が上がり次第伝えますので、今日は部屋に帰って休んでください」


先生に言われ、皆保健室から出ていく。

私もベッドから降りて、部屋に戻ろうとしたその時─


「ルウラ・クラーク」


と呼び止められ、足を止める。


「何でしょう?」


振り向くと、先生は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「お疲れのところ大変申し訳ないのですが、あなたにはやってもらいたいことがあります」


そう言って、先生がドアの方へ手を向けた。

ドアの近くに控えていた、鎧を身にまとった青年がぺこりと頭を下げた。

先生は、話を続ける。


「あなたが凍らせた黒屍結社(ヴォルドグラーヴ)の一員は、現在王宮の牢獄に入れられています。」


凍らせたって……なんか嫌味入ってない……?


「あの魔法、確か術者にしか解けないんでしたよね?」

「……はい」

「では、やるべき事は分かりましたね。行きますよ」


……溶かせってことだよね。


マックス先生が先に保健室を出て、私は慌てて追いかける。


「えっ、もしかして……お、王宮に行くんですか……?」

「そうしないと尋問ができないようなので」

「お疲れのところすみません。私は、王宮騎士団所属のエリオットと申します。ご案内しますので、よろしくお願いします」


騎士のエリオットさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。


「いえ、私のせいなので……」


王宮とか緊張するけど、行くしかない。


「ところで、ここからどうやって行くんですか?」


私が尋ねると、「外に精霊を待たせています」と、エリオットさんが廊下の窓を開けた。


え、嫌な予感……。


私が眉をひそめていると、エリオットさんは窓の枠に足をかけて、下に飛び降りて行った。


「えっ、ええ!?」


ここは確か四階だぞ!?


窓から身を乗り出すと、下にドラゴンの精霊が待ち構えていた。ドラゴンの上に乗るエリオットさんが、こちらに手を上げる。


「あれに飛び移れと……?」

「まあ、それしかないでしょうね。どうぞ?」


手を出してすすめてくるマックス先生。私はキュッと拳を握りしめた。


「あの……先行ってもらってもいいですか?」

「……仕方ないですね」


マックス先生は枠に足をかけると、躊躇なく颯爽と飛び降りて行った。


「ルウラ・クラーク!早く来なさい!」


下からマックス先生の声が聞こえる。


「いっ、今行きます……!」


仕方ない。覚悟を決めなさい、ルウラ・クラーク!


「ていっ!」


枠に足をかけると、思っきりジャンプする。


「あっ……」


思いっきり行きすぎた!


ドラゴンの横を通り過ぎて落下していく。


「何してるんですか!?」


悲鳴に近いマックス先生の声が聞こえる。


「ご、ごめんなさい!距離感間違えました!!」


おっと、まずいぞ?地面が迫ってくる。


浮遊魔法を試そうとしたけど、風圧で思うようにかけられない。


「ギャアアア!!」


空中でバタバタしていると、


「大丈夫ですか!?」


手首を誰かに掴まれた。上を見ると、ドラゴンに乗ったエリオットさんが手を伸ばしてくれていた。


「すみません!すみません!」


そのまま引っ張りあげてくれる。その途端、マックス先生に叱られた。


「本当にあなたという人は!あそこでどうしたら、ジャンプをミスるんですか!あなたのカエルのような悲鳴は聞きたくありませんから、先に浮遊魔法をかけなさい!」


一気にまくし立てられて、身を思わず引いてしまう。


「聞いてるんですか!?」

「カエル……」

「そこはどうでもいいんです!」

「すみません、ご迷惑をおかけしました……。助けてくれてありがとうございます……」


お礼を言うと、エリオットさんはにっこり微笑んでくれた。


「ご無事でよかったです。少し飛ばすので、捕まっておいてください」


私のせいですよね。すみません……。


心の中で謝っていると、


「ぐわぁっ!」


急にスピードが上がって、飛ばされそうになる。すぐにマックス先生に、首根っこを掴まれた。


「……ちゃんと捕まっときなさい」


もう怒りを通り越して呆れているよう。


「すみません……」


私はしゅんとしてドラゴンの鞍にしがみつき、しばしの静けさに身を委ねるのだった。

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