episode54:課外授業Ⅳ
「動くんじゃねえよ」
後ろの男に銃を突きつけられ、身動きが取れなくなる。
ごめん、カルロス。失敗したわ……。
「殺す前に一回聞きたいんだが、緑頭のガキンチョはどこだ?」
カルロスに銃を突きつけている主格の男が言う。
緑頭……トロイのことね。まさか標的って……。
私たちが何も言わないのを見て、男はフィンの頭に銃をつきつけた。フィンの顔が強ばる。
「そうだなぁ。場所さえ言ってくれたら、一人だけは見逃してやる」
そんなこと言われても、命の保証はない。
なんと答えるべきか頭を働かせていると─
「……トロイとはさっきはぐれたよ、後ろから来てるんじゃないかな」
息が詰まりそうなほど張り詰めた空気の中、カルロスが言った。男は舌打ちをついて、下っ端に命令する。
「おい、後ろ確認してこい」
男が二人、場を離れた。私たちの来た道を通って、奥へと去っていく。足音が遠ざかっていった。
「……っとくけど、嘘だったら皆殺しだからな?」
鋭い目線に睨まれて、身がすくんだ。
タイムリミットは、二人の男が帰ってくるまで。いないとバレたら、すぐ撃たれるだろう。
すると後ろにいた男が、突然私の手を捻りあげた。
「いっ……」
「ルウラ……!」
鈍い痛みに顔を歪ませる。
「腕時計?これ何つけてんだ?」
他の男たちも、フィンとカルロスの腕を捻りあげる。
「魔力感じるな。……おい、これ外せ」
銃を押し付けられながら言われ、素直にキューブウォッチを外す。遠くに投げるよう指示され、放り投げた。
……最後の切り札がなくなってしまった。
心臓が痛いぐらいにうるさい。この状況を打開する方法を考えていると、遠くから足音が聞こえてきた。
……もう帰ってきた!?
しかし、今の体の向きでは姿が確認できない。
姿が見えたのか、向かい側のカルロスが顔を顰めた。
現れたのは、さっきの男二人だった。
この後のことを考えると、冷や汗がたれる。
二人は、主格の男に向かって首を振った。途端に男は激昂する。
「ったくふざけやがって!後ろになんかいねえじゃねえかよ!」
「……そんなはずはない。ちゃんと─」
カルロスが言いかけた瞬間、乾いた音が響き渡った。数匹の鳥が、バサバサと飛び立っていく。
「……っ」
カルロスが足を押さえて座り込んだ。
「かっ、カルロス……」
じんわりと、ズボンにシミが広がっていく。
「くだらねぇ嘘つきあがってよ。もういい、そいつらぶっ殺せぇっ!」
銃口が私たちの方を向いた。躊躇なく発砲される。
……あ
カチリと、何かがはまる音がした。
その瞬間、頭の中の混乱や恐怖、絶望感─すべてが、奇妙に静まり、目の前に飛んでくる銃弾が、まるでスローモーションのように見える。
もう誰も傷つかないで欲しい─
体の奥底から魔力が渦巻き、ほとばしるのを感じた。
今ならいけるよ─
今ならできるよね─
どこか遠くで、誰かの声が重なった。
「光裂風塵&極零氷殺───」
その瞬間、周りの空気がキィンと冷え、皮膚に刺すような寒さが走った。
ペキペキ、と氷の刃が次々に生まれ、無数に立ち上がっていく。それぞれが鋭く光を反射し、まるで空間が刃で満たされていくかのようだった。
「貫け──」
私は手を振り下ろす。
空気を切り裂く音を立て、いくつもの刃が弾丸に向かって飛んでいく。そして─
キィン─
氷の刃が弾丸を貫き、弾丸は粉々に砕け散った。氷の破片が飛び散り、冷気の衝撃が辺りを揺るがす。
衝撃波が周囲を揺らし、砂埃と氷片が空気を裂いた。
咳き込みながら砂埃を手で払い、顔を上げると─
「……あ」
銃を持っていた男たちが、頑丈な氷の中に閉じ込められていた。
凍りついた表情、動かない手足─全てが魔法で封じこまれている。
震える手のひらを見下ろすと、指先に魔力の余韻が残っていた。じわりと熱く、微かに振動する感覚が、まだ体の中を駆け巡っている。
「ル、ルウラ……」
フィンが声を震わせて言う。カルロスは、座り込んで呆気に取られていた。
……今、何が起こったの?
ドッと力が抜けて、地面にへたり込む。
「大丈夫か、ルウラ!」
フィンが慌てて駆け寄ってくる。
「私は……いいから、カルロスを……」
「お、おう!」
なぜか疲労感がすごい。息切れがすごいし、心臓がバクバクと波打っている。
「カルロスは……大丈夫なの?」
「大丈夫だ、それよりルウラ。顔が真っ青だよ」
「え、そう……?」
手の震えと魔力の余韻で、まだ体が力を思うように動かない。
その時、遠くでピシリと何かが割れる音が聞こえた。
「何……?」
その瞬間、私の周りが光り始める。『緊急システム作動。ゴールへと転送します』と、遠くから機械音声が聞こえてきた。
まさかキューブウォッチが割れた!?
「えええっ!!ちょっと、まっ……!」
私の叫び声も虚しく、目の前が光り、気が付けば大聖堂の中に立っていた。
嘘、まさかの誤作動……
「君、どこか怪我は?」
一人の男の先生が駆け寄ってくる。
「いや、怪我じゃなくて……」
すると、男の先生はあんぐりと口を開けた。
「な、何だ、その魔力は……」
「魔力……?」
次第に先生が集まってきた。その中には、ロイ先生もいる。ロイ先生は、私を見て顔を顰めた。
「またお前か……」
またでごめんなさい……
「とりあえず怪我はないんだな?」
「はい……あっ、それよりカルロスとフィンが……」
「カルロスとフィン……?奴らがどうした」
「あの……」
何だろう、やけに眠たい……。ちゃんと伝えなきゃいけないのに。アナベルとトロイのことだって気になる。
「まだ……後ろにいて……」
「ルウラ・クラーク?」
ロイ先生が、訝しげに顔を覗き込む。
「お願いします……」
「おい、しっかりしろ!」
なんか無理かも……
目の前が揺らぎ、ついに私は意識を手放してしまった。




