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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode54:課外授業Ⅳ

「動くんじゃねえよ」


後ろの男に銃を突きつけられ、身動きが取れなくなる。


ごめん、カルロス。失敗したわ……。


「殺す前に一回聞きたいんだが、緑頭のガキンチョはどこだ?」


カルロスに銃を突きつけている主格の男が言う。


緑頭……トロイのことね。まさか標的って……。


私たちが何も言わないのを見て、男はフィンの頭に銃をつきつけた。フィンの顔が強ばる。


「そうだなぁ。場所さえ言ってくれたら、一人だけは見逃してやる」


そんなこと言われても、命の保証はない。

なんと答えるべきか頭を働かせていると─


「……トロイとはさっきはぐれたよ、後ろから来てるんじゃないかな」


息が詰まりそうなほど張り詰めた空気の中、カルロスが言った。男は舌打ちをついて、下っ端に命令する。


「おい、後ろ確認してこい」


男が二人、場を離れた。私たちの来た道を通って、奥へと去っていく。足音が遠ざかっていった。


「……っとくけど、嘘だったら皆殺しだからな?」


鋭い目線に睨まれて、身がすくんだ。

タイムリミットは、二人の男が帰ってくるまで。いないとバレたら、すぐ撃たれるだろう。

すると後ろにいた男が、突然私の手を捻りあげた。


「いっ……」

「ルウラ……!」


鈍い痛みに顔を歪ませる。


「腕時計?これ何つけてんだ?」


他の男たちも、フィンとカルロスの腕を捻りあげる。


「魔力感じるな。……おい、これ外せ」


銃を押し付けられながら言われ、素直にキューブウォッチを外す。遠くに投げるよう指示され、放り投げた。


……最後の切り札がなくなってしまった。


心臓が痛いぐらいにうるさい。この状況を打開する方法を考えていると、遠くから足音が聞こえてきた。


……もう帰ってきた!?


しかし、今の体の向きでは姿が確認できない。

姿が見えたのか、向かい側のカルロスが顔を顰めた。

現れたのは、さっきの男二人だった。

この後のことを考えると、冷や汗がたれる。

二人は、主格の男に向かって首を振った。途端に男は激昂する。


「ったくふざけやがって!後ろになんかいねえじゃねえかよ!」

「……そんなはずはない。ちゃんと─」


カルロスが言いかけた瞬間、乾いた音が響き渡った。数匹の鳥が、バサバサと飛び立っていく。


「……っ」


カルロスが足を押さえて座り込んだ。


「かっ、カルロス……」


じんわりと、ズボンにシミが広がっていく。


「くだらねぇ嘘つきあがってよ。もういい、そいつらぶっ殺せぇっ!」

 

銃口が私たちの方を向いた。躊躇なく発砲される。


……あ


カチリと、何かがはまる音がした。

その瞬間、頭の中の混乱や恐怖、絶望感─すべてが、奇妙に静まり、目の前に飛んでくる銃弾が、まるでスローモーションのように見える。


もう誰も傷つかないで欲しい─


体の奥底から魔力が渦巻き、ほとばしるのを感じた。


今ならいけるよ─

今ならできるよね─


どこか遠くで、誰かの声が重なった。 




光裂風塵(リストフ)極零氷殺(ヴァルグレイス)───」




その瞬間、周りの空気がキィンと冷え、皮膚に刺すような寒さが走った。

ペキペキ、と氷の刃が次々に生まれ、無数に立ち上がっていく。それぞれが鋭く光を反射し、まるで空間が刃で満たされていくかのようだった。


「貫け──」


私は手を振り下ろす。

空気を切り裂く音を立て、いくつもの刃が弾丸に向かって飛んでいく。そして─


キィン─


氷の刃が弾丸を貫き、弾丸は粉々に砕け散った。氷の破片が飛び散り、冷気の衝撃が辺りを揺るがす。

衝撃波が周囲を揺らし、砂埃と氷片が空気を裂いた。

咳き込みながら砂埃を手で払い、顔を上げると─


「……あ」


銃を持っていた男たちが、頑丈な氷の中に閉じ込められていた。

凍りついた表情、動かない手足─全てが魔法で封じこまれている。

震える手のひらを見下ろすと、指先に魔力の余韻が残っていた。じわりと熱く、微かに振動する感覚が、まだ体の中を駆け巡っている。


「ル、ルウラ……」


フィンが声を震わせて言う。カルロスは、座り込んで呆気に取られていた。


……今、何が起こったの?


ドッと力が抜けて、地面にへたり込む。


「大丈夫か、ルウラ!」


フィンが慌てて駆け寄ってくる。

 

「私は……いいから、カルロスを……」

「お、おう!」


なぜか疲労感がすごい。息切れがすごいし、心臓がバクバクと波打っている。


「カルロスは……大丈夫なの?」

「大丈夫だ、それよりルウラ。顔が真っ青だよ」

「え、そう……?」


手の震えと魔力の余韻で、まだ体が力を思うように動かない。

その時、遠くでピシリと何かが割れる音が聞こえた。


「何……?」


その瞬間、私の周りが光り始める。『緊急システム作動。ゴールへと転送します』と、遠くから機械音声が聞こえてきた。


まさかキューブウォッチが割れた!?


「えええっ!!ちょっと、まっ……!」


私の叫び声も虚しく、目の前が光り、気が付けば大聖堂の中に立っていた。


嘘、まさかの誤作動……


「君、どこか怪我は?」


一人の男の先生が駆け寄ってくる。


「いや、怪我じゃなくて……」


すると、男の先生はあんぐりと口を開けた。


「な、何だ、その魔力は……」

「魔力……?」


次第に先生が集まってきた。その中には、ロイ先生もいる。ロイ先生は、私を見て顔を顰めた。


「またお前か……」


またでごめんなさい……


「とりあえず怪我はないんだな?」

「はい……あっ、それよりカルロスとフィンが……」

「カルロスとフィン……?奴らがどうした」

「あの……」


何だろう、やけに眠たい……。ちゃんと伝えなきゃいけないのに。アナベルとトロイのことだって気になる。


「まだ……後ろにいて……」

「ルウラ・クラーク?」


ロイ先生が、訝しげに顔を覗き込む。


「お願いします……」

「おい、しっかりしろ!」


なんか無理かも……


目の前が揺らぎ、ついに私は意識を手放してしまった。 

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