episode51:課外授業I
課外授業当日。
緊張した面持ちで、集合場所となっている大聖堂に向かう。
長椅子に座ると、フィンの顔が青ざめていることに気付いた。
「やばい、緊張して死にそう……」
昨夜まで騒いでたのに、この変わり様……
私はフィンを励ます。
「昨日ちゃんと作戦立てたから大丈夫よ。」
「だって、最後の方雑談ばっかだったじゃん!」
「それは、あなたのせいよ」
先生が来るまで話していると、私の横に影ができた。横を見ると、ロゼッタが立っていた。
「あ、おはようロゼッタ」
「勝負よ、ルウラ・クラーク」
「はい?」
私が聞き返すと、ロゼッタは私の顔に指を突きつけた。
「あなたがわたくしの誘いを断ったこと、後悔させてやりたいので」
「なんか、めんどくさいのに絡まれてるね」
カルロスが呟くのが聞こえる。ロゼッタは聞こえなかったふりをして、唇のはしを吊り上げた。
「あなたのチームが負けましたら、あなた、わたくしのチームに来なさい。約束ですわよ?」
「ちょっ……!」
私の返事も待たずに、ロゼッタは取り巻きを連れて去っていった。
「これ、私は約束呑み込んでないから無効よね……?」
皆に聞くものの、肩を竦められる。
待って……ロゼッタのチームに行くの、本当に嫌なんだけど……。
「ま、ようは勝てばいいって話だろ?」
ザ・ポジティブシンキングのフィンが、ポンポンとわたしの肩を叩く。
「はぁ……」
私は、ため息をつくしかなかった。
数分後、ようやく前に先生が立ち、話を始めた。
「えー今日は課外授業です。今から課外授業で使うキューブウォッチと、クリスタル回収用の籠を配ります」
籠はまだしも、キューブウォッチ?プリントには書かれていなかったはずだけど。
次の瞬間、光の粒が集まり、私たちの前に腕時計のような装置と籠が現れた。突然のことに、皆がざわめく。
先にキューブウォッチを手に取ってみる。
時刻を示す部分はなく、中央に小さなキューブが埋め込まれているだけの簡素な造りだ。
「キューブウォッチは腕時計型の安全装置です。中央のキューブを破壊すると、皆さんは自動的に安全な空間へ転送されます」
安全のために、急遽追加されたっぽいなぁ。
そう思いながら、私は腕に装着した。付けてみて違和感は全くない。
「ただし、使用した場合は失点となります。また、課外授業中に一度でも外した場合は、リタイヤ扱いです」
一度でも、か。なかなか厳しい。
「それから……」と、先生は言葉を区切る。
「籠については説明するまでもありませんね。採取したクリスタルは、必ずそれに入れてゴールまで運んでください」
私は籠に目を移した。
中身が見える造りで、肩に掛けて運べるよう。内側には最低限の魔法加工だけが施され、運搬の補助に留められているようだった。
説明が終わると、装備をつけるように指示された。どうやら、もう転移魔法が使われるらしい。
私はキューブウォッチの装着を確認し、籠を手に抱える。
「では、校長お願いします」
名前が呼ばれて、校長先生がよろよろと出てきた。そのよろよろ具合に、本当に転移魔法使えるのかな……?と不安になってしまう。
「……ゴホッ、ゴホン!えー皆さん、準備はできたでしょうか。今から転移魔法を使いたいと思います」
今から大魔法を使うとは思えない口ぶりで、校長先生は言う。その言葉を聞いて、少し周りがざわついた。
私が不安がっていると、校長先生は指を二本立てて呪文を唱え出した。 すると、驚くことにみるみる景色が変わっていく。
「う、うわっ」
隣でフィンが情けない声を出している。
次第に辺りが眩しい光に包まれ、気付けば─
「えっ……」
森の中に立っていた。生まれて初めての転移魔法に、興奮で頭がフワフワとしている。
「しっかりしろ、ルウラ。課外授業始まってるぞ」
目の前でパチンと手を鳴らされ、私はハッとした。
「ご、ごめん……」
私は自分の頬をパシッと叩く。
切り替えなきゃ!
「まずは、現在地の確認ね」
私は地図を取り出した。魔力探知はフィンに任せ、四人で地図を囲む。
「んー、ここら辺じゃない?」
アナベルが一点を指さす。
場所は詳しく分からないものの、印をつけていたおかげで、大体の場所は理解することができた。
「よし、フィン。魔力探知はどう?」
目を閉じているフィンに声を掛ける。フィンは目を開けて「うーん」と唸った。
「この周辺には全くねぇな」
「運悪っ」
「とにかくゴールはあっち側だよね。進みながら行こう」
地図で方向を確認して、進むことにする。辺りを見回しながら歩いていると、またもやフィンが唸り始めた。
「何さっきから、うんうん唸ってんのよ」
私が言うと、フィンは頭をかいた。
「なぁんか、変なんだよなぁ」
「変って?」
「魔力探知が狂ってるっつーか」
「えっ!ちゃんとしてる?」
「してるよ、ルウラたちも気付かないか?」
私も集中して魔力探知をしてみると、確かに妙な感覚がすることに気付いた。何が起こっているんだろう。
しかし、分からないまま歩いていると、突然横にいたトロイが立ち止まった。
「いてっ」
後ろにいたカルロスが、トロイにぶつかる。
「どうしたの?」
尋ねると、トロイは右側を指差した。
「えっ、そっちに行くの?」
トロイは、コクリと頷く。
わけが分からないままトロイについて行くと、洞窟が見えてきた。
「あれ、もしかして……」
私は走って、洞窟の中を恐る恐る覗く。
「うわっ……ちょっと早く来て!」
後ろを歩く皆を慌てて呼んで、一緒に洞窟を覗く。
「すごっ!」
中に青白く光るクリスタルが大量にあった。淡い光はずっと奥まで続いている。
「危なっ、この量見逃すところだったね」
「よく気付いたな、トロイ」
トロイはグッと親指を立てる。
それにしても、トロイは何で気付けたんだろう。フィンでさえ気付かなかったのに……。
私が不思議に思っていると、ずっと黙っていたカルロスが口を開いた。
「やっぱり、探知阻害されてるな」
「え、探知阻害?」
聞き返すと、カルロスは「あぁ」と頷いた。
「場所が悪いのか、それとも学園側がやっているのか分からないけど、魔力探知はあてにしない方がいい。」
「俺、役に立たないじゃん……」
「どんまいフィン!」
「俺、戦闘とかできないからね……?」
アナベルに励まされているフィンを放っておいて、トロイを先頭に洞窟の中に入っていく。
クリスタルが薄白く光っているものの、足元を照らす程度で、洞窟の中は暗闇に包まれていた。
「この中に魔物とかいたりしないよな……?」
入口でへっぴり腰になっているフィン。確かに何が出てきてもおかしくはないけど─
「大丈夫じゃない?」
そう言って、トロイの後に続いた。
「おいしょっと」
籠を地面において、クリスタルに手を伸ばす。クリスタルは、思ってたよりひんやりとしていた。そのまま取ろうとすると─
「えっ、かたっ!」
なかなか引っこ抜けない。
「ちょっと男子諸君?手伝ってほしいなぁ」
「ルウラの馬鹿力だったらいけるだろ」
「はい?」
誰だ、今馬鹿力って言ったやつ!
すると、横にいたカルロスがつるはしを渡してきた。
「えっ、使っていいの?」
「だめとは言われてない」
「確かに……」
ありがたく貸してもらうことにした。
埋まっているところを、つるはしで何回か掘り起こす。ようやくクリスタルを取ることができた。塊をそのまま籠に放り込む。
入口付近のクリスタルを取り終わり、奥へ奥へと進んでいると─
「ヴォォォ……」
突然、奥から魔物の唸り声が聞こえてきた。低い声が洞窟内に反響する。
「なっ、何だよ……」
フィンの腰が引けている。
「私が見ておくから皆は採り続けて」
「わ、分かった……」
「僕も見ておくよ」
そう言ってくれたカルロスと、暗闇の奥をじっと睨みつける。
「カルロス、何か見える?」
「いいや」
唸り声は、どんどん近付いてくる。ついに息遣いが聞こえる距離まで来た。
「わ……」
大きな角が暗闇から姿を現すが、まだ完全な姿は見えない。
「もう逃げませんか……?」
フィンが言うけど、この量のクリスタルを置いていくのはもったいない。できたら、この魔物に退散してもらいたいものだ。
「もうちょっと待って。ヤバそうだったら合図出すから」
「はい……」
そして、それは完全に姿を現した。大きな角に尖った歯。鋭い眼光がこちらを見下ろしている。
「ひっ、竜だ……」
「こんなところに竜?」
私は魔物をよく見る。
竜を実物では見たことないけど、この魔物は角が大きすぎるような……。
「ヴォルガンだな」
横で、警戒しながらカルロスが言った。
「ヴォルガンって?」
「説明は後。トロイとフィン、アナベルはゆっくり後ろに下がって」
カルロスに指示され、三人は籠を握りしめたままゆっくりと後ずさりする。
「ゲッ!」
突然、フィンが滑って尻もちをついた。カランカランと、フィンの手からつるはしが落ちる。
「あ……」
恐る恐るヴォルガンを振り返る。ギョロリとした瞳と目が合った。
「グォォォォ!!!」
「逃げろっ!」
耳を裂くような荒々しい咆哮が、空気をビリビリと震わす。
洞窟内に鋭い風切り音が走り、ヴォルガンの爪が振り下ろされた。




