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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode50:笑い声と小さな高鳴り

勇気を振り絞って共用スペースに行くと、アナベルとトロイ、フィンがお茶を飲んでいた。


「あ、ルウラ」


昨日のことを引きずっていた私だったけど、皆がいつも通りに声をかけてくれてほっとする。


「ごめん、話したいことあって……カルロスも呼んでくれる?」

「分かった」


フィンが立ち上がって、カルロスを呼びに行ってくれた。


「私、二人のお茶入れるね」

「ありがとう……」


アナベルがキッチンに立つ。

あんな雰囲気にしてしまったのに、皆の優しさが染みてジーンとする。

少ししてフィンと共に、カルロスが姿を現した。相変わらずの無表情で、感情は分からない。

カルロスは、何も言わずに椅子に座る。アナベルがお茶を持ってきてくれた。


「えっと……」


皆が座るのを見て、私は口を開く。


「昨日はすごく嫌な雰囲気にしてしまって、ごめんなさい」


頭を下げると、沈黙がおりた。


……やっぱり皆怒ってるよね。


「別にルウラのせいじゃない……」


そんな中、カルロスがぽつりと呟いた。私は顔を上げる。


「僕の言い方が悪かった」

「いや、そんな……」

「言えないのにはちゃんと理由があったんだよ。けど、何も言わずに突き放しちゃってごめん」 


カルロスの言葉に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。


「……そうだったのね。無理に聞こうとしてごめんなさい」


私は静かに頭を上げ、カルロスの目を見た。

無表情のままだけど、瞳の奥に優しさを感じる。


「ルウラ、私もごめん」


横にいたアナベルが、私の目を見る。


「もっとちゃんと話すべきだった。ごめんね」

「いいのよ。私の言い方も悪かったから」


ようやく明るい雰囲気になった。私がほっと息をついていると─


「ルウラァ。俺も悪かったよぅ」


横から情けない声が聞こえてきた。フィンが少しうるっとしている。


「え、フィン?」

「俺さ、カルロスの事情知ってたから、あんなこと言ったけど、ずっと後悔しててさぁ……」

「何、フィン。……あなた泣いてるの?」

「泣いてねぇし!」


声が裏返ったフィン。耐えきれずに、プッとアナベルが吹き出した。


「なんだよぉ、笑うなよ……」

「いや、だって!ほら、ルウラも笑ってるし!」


アナベルに言われ、私もフフッと笑ってしまった。


「カルロス。言いたくないんだったら言わなくていいよ。けど、悩んでいることあったら私たちに相談してね。」

「……うん、ありがと」


和解ができたところで、私はパン!と手を合わせた。


「じゃあ、ちゃんと作戦会議をしようか」

「よしきた!」


私は部屋から、昨日配布されたプリントと紙とペンを持ってくる。


「まず、役割の確認からしたいと思います」


私はそう言って、フィンに目線を向けた。


「大地属性のフィンは、魔力探知が得意だよね?」

「おう」

「じゃあ、クリスタルの魔力探知は基本的にフィンにお願いするね」

「了解」


「それから……」と、私は頭を働かせる。


「もしかして他チームからの妨害もありなのかな?」

「……考えられるね」


少し考えて、カルロスが頷いた。


「じゃあ、戦闘が起きることを考えて……」


私はペンを走らせる。


「私とアナベルでクリスタルを守る」

「おっけー」


アナベルがコクリと頷く。私は、カルロスとトロイを見る。


二人は……


「ルウラ、大丈夫だ」


どうしようか困っている私を見て、カルロスは力強く言った。私は思わずカルロスの瞳を見返す。迷いのないその視線に、心が自然と落ち着いた。


これなら、任せても大丈夫ね。

 

「じゃあ、どう動くかは二人に任せる」


トロイも真剣な表情で、小さく頷いた。


「じゃあ、立ち回りはこういう感じで行くわね。次は、地図をなるべく頭に入れておこう」


私はプリントの裏面を見る。そこには地図が印刷されていた。


「どこに転移するかは決まってんの?」


フィンに聞かれて私は首を振る。


「ランダムらしい。だから、すぐ現在地を理解する必要があるの。」

「まじかよ……」

「森の中、とか洞穴の近く、とか目印になりそうなところに、印つけておこう。」


アナベルの意見に賛成して、赤色で地図に書き込む。


「ここは、こうした方がいいんじゃない?」

「そうだね」


地図を囲んで、その後も作戦会議は続く。

合間には、軽くお茶を飲みながら雑談も交わした。フィンがうっかりお茶をこぼして皆で慌てたり、アナベルがからかいながらフォローしたり。小さな笑い声が部屋に広がる。昨日の険悪な空気が嘘のようだった。


日が傾き、部屋の窓から差し込む光は少しずつ柔らかくなる。


「そろそろ自室に戻ろうかな」


アナベルの声に、もう時計が六時を指していることに気が付く。


「かなり話し込んだわね」

「ほとんど雑談だったけどな!」

「フィンが変な話ばっかするからでしょ」

「皆乗り気だったじゃんか……」


机の上のプリントやペンはそのままで、皆でいる空気はすっかり変わっていた。昨日の孤独感や苛立ちは、もう遠くに感じられる。


「じゃあ、今日は僕が晩御飯の材料を買ってくるよ。ルウラ一緒に行く?」

「行く!」


カルロスに誘われ、私は頷く。

少し照れくさい気持ちを胸に、二人で買い物に出かけた。



『ご主人、今日もお疲れデス!』


ご飯を食べ終えて部屋に戻ると、ベッドの上にリットがちょこんと座っていた。


「うん、ありがとう。リットのおかげだよ……」

『皆と仲直りできてよかったデスネ!』


私は椅子に座ったまま、今日のことを思い返す。

皆の笑顔や優しい言葉が胸にじんわりと広がり、心の奥まで温かくなるのを感じた。


「ほんとに良かったよ……」


リットは満足そうに頷き、私は椅子に座ったまま、ゆっくり深呼吸する。

窓の外はもう夜の静けさに包まれ、部屋の中も落ち着いた時間が流れる。


……ついに明日だ。

 

私は一息つくと、机の上の紙とペンを手に取る。

作戦会議の続きを頭の中で整理しながら、ペンをくるくる回す。

明日のことを考えると、自然と胸が弾んだ。

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