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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode48:騒がしい同居生活

そして、チーム編成締切日から二日が経ち─。


「うわーん!」

「朝からうるさいですわよ!!」

「だって、イザベラとは今日でお別れじゃん……」


引越しの当日となった。二週間以上続いたこの生活が、今日が最後だと思うと悲しい。


「ルウラ、イザベラ!ご飯届いたよー!」

「はーい」


もそもそと布団から出て、団欒スペースに向かう。


「寂しいのは分かるけど、会えない訳じゃないしさ。大丈夫だよ」

「そうよね……」


朝食をとって、いつものように朝の時間を過ごす。

今日は授業はなく、引越しだけの日となる。

自分の部屋で制服に着替え、カインのイヤリングを付けて部屋を出る。目ざとく、イザベラがイヤリングに気付いた。


「オシャレなイヤリングね。いつも付けてたかしら?」

「いいえ、荷物を整理したときに出てきてね。今なら似合うんじゃないかと思って」

「え、何それ!可愛いー!」


アナベルも気付いて、声をかけてくれた。


「ありがとう。大切な人からもらったの」

「ふーん、大切な人、ねぇ」


アナベルがニヤニヤとしている。イザベラもこちらを見て、微笑んでいる。


「な、何よ!」


私は思わず顔を赤らめる。


「この話はおしまいね!」


誤魔化すように視線を逸らして、強引に話題を切り上げた。


「ルウラ、そろそろ時間だよー」

「はーい」


八時前。この時間に、ここの寮の人は移動すると決められている。

私は返事をして、忘れ物がないかを確認して部屋を出る。アナベルがダンボールを持って立っているが、イザベラの姿が見えない。


「あれ、イザベラはまだ部屋?」

「うん」


どうしたんだろうと二人で待っていると、部屋の中からイザベラがようやく姿を現した。


「あの……ルウラ、アナベル」


両手を後ろに隠したイザベラが、恐る恐ると言った感じで、声を掛けてくる。


「ん?」

「どうしたの?」

「……これあげるわ!」


ズイっと、袋に入った髪飾りを渡された。私には淡い水色の大きなリボン、アナベルには三日月の髪留め。


「えっ、これめちゃくちゃいいやつじゃん!こんなの受け取れないよ!」

「そうよ!というか、私そんなの準備してない……」


アナベルと一緒に、ショボンと落ち込む。


「こっ、これあたし使わないからあげるのよ!余剰品をあげるだけだから!!」


使わないとか嘘だよね。見るからに新品だもの……。


「でも……」


アナベルは受け取ることに躊躇しているようだが、私は有難く受け取った。

 

「ありがとう、イザベラ。嬉しいわ」


ここで受け取らなかったら、イザベラは傷つくと思う。


「……じゃあ、私も貰うね。ありがとう、イザベラ」

「そんなもので嬉しいの?自分が求めていたものじゃないかもしれないのに……」


耳を真っ赤にしたイザベラが、尋ねてくる。


「髪飾りも凄く嬉しい。けど私は、私達を想ってくれるあなたの気持ちが嬉しいのよ」


横でアナベルもうんうんと、頷く。


「そう。良かったわ……」


それを聞いてイザベラは、ホッとしたように胸を撫で下ろす。

最初はどうなるかと思ったけど、楽しく過ごせて良かった。

二人の笑顔を見ながら、私はそう思った。


寮を出て、イザベラと「またね」と別れる。寂しさを抱えたまま、私とアナベルはブロンズ棟へと向かった。


「ここみたい」


しばらく歩くと、こじんまりとした建物が見えてきた。歴史を感じさせるレンガ造りで、派手さはないが、長く使われてきたことが一目で分かる建物だ。


「よし、入るわよ」

「うん!」


ブロンズ棟に足を踏み入れると、外よりも少しひんやりとした空気が肌に触れた。中は静かで、私たちの足音だけが響く。

廊下を歩きながら内装を見回していると、後ろから声が掛かった。


「二人ともひどい猫背だね」

「あ、カルロス」


後ろに、大きめのバッグを持ったカルロスが立っていた。しかし、他の二人の姿は見当たらない。


「あれ、フィンとトロイは?」

「トロイは知らないけど、フィンは寝坊したみたいだから置いてきた」

「ええ……」


大丈夫かな……


「てかさ、あのひよこ何なの?」

「へっ?」


カルロスは私達を追い抜かして、階段を登り始める。


「プリント届けてくれたはいいものの、すっごいビリビリになってて解読不可だったんだけど」


……ひよこちゃん。


「後、窓に体当たりしてきたと思ったら、窓ガラスが割れて寮長にずっと説教されてたんだけど」

「申し訳ないです……」


ひよこちゃんっ!!


「ま、まあ、カルロスがここに居るってことは、プリントの内容は一応伝わったってことでしょ?」


アナベルが慌てて言う。


「代償がでかすぎるんだよ……」

「ごめんよ……」


謝り倒して許してもらい、やっと部屋がある階に着いた。廊下は静まり返っていて、他の部屋から人の気配は感じられない。


この棟を使っているのは私達だけなのかな……。


一瞬そんな考えが浮かんだが、そんな訳ないか。と吹き飛ばした。

部屋番号は341。先生にもらった鍵を使って、部屋を開ける。


「うわあ」


予想以上に広く、綺麗な部屋に思わず感嘆の声を漏らす。

真ん中に広い共用スペースがあり、テーブル、ソファ、キッチンがある。その左右には、男子部屋と女子部屋に繋がるドアがあった。


「男子は、どっちとか決まってるの?」


先に靴を脱いだカルロスが言う。確か決まってなかった気がする。 


「いいや?」

「じゃあ、右側行く」


カルロスは、右側のドアを開けて入っていった。


全く、せっかちねぇ!!


ため息をつくと、私も靴を脱いで左側のドアを開ける。


「えっ、広っ!!」


アナベルも後ろから顔を覗かせる。


「すごいねぇ!」

 

中には広々とした廊下が通っており、三部屋の個室がある。


「アナベル、どこの部屋がいい?」

「私、奥がいいな」

「了解!」


アナベルは奥から一つ前の部屋、私は一番手前の部屋に決めた。

扉を開けると、机とベッドとクローゼットが置かれていた。奥には窓があり、そこから差し込む日差しが、部屋を明るく照らしていた。


一人部屋なのに、この広さ。さすがヴェルディアね。


私は荷物を置くと、部屋を出た。

共用スペースに戻ると、カルロスはソファにどっかりと座ってくつろいでいた。


「あれ、フィンとトロイはまだなの?」

「うーん……」


眠そうな声で答えるカルロス。眠いなら自室で寝なさいよ!

私はため息をつくと、ドアに手を伸ばす。しかし、私がドアノブを掴むより先に扉が開いた。


「……っつぅー!!」


ゴンと鈍い音と共に鼻に激痛が走り、私は蹲る。


「うっわ、ルウラ大丈夫か!?」


現れたのはフィンだった。後ろからトロイが顔を出す。


「悪い、顔当たったか?」

「ばな、おれでばい?」

「うわっは、めちゃ腫れてる」


フィンが笑いそうなのを堪えている。


「何笑ってんのよ!本気で痛かったんだからね!!」

「すみませんでした……」


私は鼻を抑えたまま、左側の部屋を指さす。


「男子はあっちの部屋。詳しいことはカルロスに聞いて」

「はい……」


フィンとトロイは、靴を脱いで上がる。そこへ、アナベルが部屋から出てきた。私の腫れた鼻を見て、目を見開く。


「えっ、ルウラ。鼻どうしたの!?」

「フィンにやられました」

「ごめんて……」

「……もういいわよ。荷物置いてきなさい」


トボトボ歩くフィンの肩を、トロイがポンポンと叩いている。パタンと閉まったドアを見て、アナベルがハッとしたように言った。


「あ、私シーツとって来ようと思ってたんだ」

「なら、私も……」

「僕が行くよ」


ウトウトしていたはずのカルロスが、私の言葉を遮った。


「え、行ってくれるの?」

「うん。アナベルと二人で取ってくるから、ルウラは待ってて」

「……分かったけど」


そこで私はあることに気付いた。


もしかして、カルロスってアナベルのこと……。


口角が緩む私を見て、カルロスが言った。


「ルウラ。君が想像していることはないから、変な妄想しないで」

「いいのよ、カルロス」


首を傾げているアナベルを「行ってらっしゃい」と送り出すと、私はソファにポスッと座った。


あー、これは座り心地が素晴らしいソファだわ……


私が寛いでいると、フィンとトロイが男子部屋から出てきた。


「あれ、二人は?」

「シーツ取りに行ったわよ」

「あ、そうなんだ」


フィンはそう言うと、ソファの上にあったクッションを手に取る。何をするのかと思いきや、トロイとキャッチボールならぬキャッチクッションを始めた。


「ちょっと、何してんの?」

「楽しいぜ。ルウラもするか?」

「する訳ないでしょ」


フィンは「ちぇっ」と言うと、トロイに投げ返す。しばらくして、投げる力が強くなってきた。ぴゅんぴゅんと宙を舞うクッション。


「私に当てないでよ」


そう言った時だ。フィンが投げたクッションが私の顔にクリティカルヒットした。


「ひっ……ごめんルウラ」

「あなたねぇ……」


私は、当たったクッションを握りしめる。


「女は顔が命なのよ!見てこの鼻!まだ腫れてんだから!!」


私はクッションに魔力を込める。ペキペキと、クッションが凍っていった。


「……おいおい、それ備品だろぉ?」

「備品で遊んでいたのは、だぁれ?」


私は、クッションをポイッとフィンに投げた。


「っべてぇー!!!」


フィンが悲鳴をあげる。トロイは、慌ててフィンの救助に向かっている。


「ふんっ」


そんな時に、アナベルとカルロスがシーツを持って帰ってきた。


「え……」


この状況が飲み込めず、固まる二人。


ここだけ見たら私が悪者に見えるな……?


「いやいや、これは私が悪いんじゃなくて!!」


どうして、いつもタイミングが悪いんだ!


私は慌てて弁明するのだった。

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