episode45:強くある理由
教室の後ろのドアから、そーっと入る。みんな静かに自習をしていた。
椅子に座ると、フィンがこちらを見てきた。
「……何か用?」
小声で尋ねると、
「ルウラ、かっこよかったぞ!」
と、グッと指を立てられた。
「ルウラ、あんなに魔法使えたんだな」
「まあ……」
私が曖昧に返すと、フィンは身を乗り出してきた。
「てか先生になんか言われた?」
「ちょっとフィン……」
「え?」
「フィン、前……」
「ひどい、そんな俺の話聞きたくないのかよ」
「そうだ、誰も聞きたくない」
突然、教室内に低い声が響き渡った。
「ヒッ!」
フィンの前に、いつの間にかロイ先生が立っていた。ロイ先生は、持っていた出席簿でフィンの頭を軽くはたいた。
……ドンマイよ、フィン。
「今からグラウンド走ってくるか?おしゃべりな口も止まるだろう」
フィンは、口をつぐんでブルブル首を横に振る。
「チッ……まあ、走りたかったら言え。つまみ出してやる」
ロイ先生はそう言い捨てて、教卓へと戻った。
「えー遅れたが、今から授業を始める。」
そうしてやっと授業が始まり、何事もなく授業が終わった。
その後の午後の授業も終え、部屋に戻ろうと教科書を片付ける。
片付けながら、今朝のアナベルの話を思い出した。
帰ったらイザベラと話さなきゃ!
そう決意して教室を出ると、廊下で待っていたカルロスに声を掛けられた。
「ルウラ。今チームってどうなってる?」
「びっくりした……どうなってるって、今は私とアナベル、カルロス、フィンの四人ね」
「あ、僕も入る気なったからよろしく」
「はあ」
いや、もともと数に入れてたけど……
「後はB組とD組か。何かツテはある?」
「いやぁ……」
「分かった、探してみる」
そう言うと、カルロスは何も言わずに去ってしまった。
じゃあね、ぐらいは言いなさいっての!
ようやく部屋に戻ると、もう二人は戻っていた。それぞれの部屋にいる二人を呼ぶ。イザベラは、嫌な顔をしながらも出てきた。
私は急いで紅茶を入れ、机の上に並べる。
「ルウラ、もしかして?」
「うん。イザベラと、ちゃんと話す時間が必要だなと思って」
「別にあたしは、話すことなんてありませんけど?」
「そう言わずに」
私はイザベラの前に座った。
「ずっと私達を避けてるよね?避けている理由がちゃんとあるなら教えて欲しい。」
アナベルも頷いた。
「私達、イザベラがツンツンしてるけど優しいこと知ってるよ。このままじゃ嫌だな……」
イザベラがため息をついた。
「……お二人、あたしの最初の印象は?」
「強そうで頑固なお嬢さん」
「頭が良くて育ちがいい令嬢」
私とアナベルが素直に答えると、イザベラはほら、という顔をした。
「皆、あたしの印象がそれなの。」
イザベラは小さく息を吐いて、視線を落とした。
「だから最初から、距離を取ってたのよ。仲良くなったって、どうせ最後はそう思われるって分かってたから」
「……どういうこと?」
アナベルが静かに問いかける。
「……小さい頃、強そうだとか、生意気だとか言われて。弱いところを見せたら、すぐ馬鹿にされたことがあった。」
イザベラはぎゅっとスカートの端を握った。
「だから決めたの。最初から近づかなきゃ、傷つかなくて済むって」
少し間が空いた。
「強くあらなきゃ、生き残れなかったのよ」
その声は、さっきまでの刺々しさとは違って、かすかに震えていた。
私は思わず前のめりになる。
「……でも、私たちはイザベラを強そうだな、とかそういう印象だけで見てないよ」
「うん。無理して一人で立ってる人、って思ってた」
アナベルの言葉に、イザベラが驚いたように顔を上げた。
「……そんなふうに、見える?」
「見えるよ」
私ははっきり答えた。
「だから、避けられるのは……正直、寂しかった」
イザベラはしばらく黙ってから、小さく笑った。
「勝手に突っ走って抱え込んで……馬鹿ね、あたし」
その笑顔は、少しだけ力が抜けていた。
「そんなことないよ。イザベラにそんな思いがあったんだね」
「でも……別に同情もらおうとか思ってないから」
そう言うイザベラに、私たちはうんうんと頷いた。
「分かってるよ」
「結局、ツンが出ちゃってるねぇ」
「う、うるさいわね!ツンってなによ!」
いつも通りのイザベラに、私たちは顔を見合せて笑いあった。
「そういえばイザベラ。あなた、チームどうなったの?」
「無事入れたわよ」
ショック……いや薄々気付いてたけど。
「チームが違う以上、あたしたちはライバルですわよ。手加減しませんから!」
「当たり前よ!ボコボコにしてあげるわよ!」
すると、アナベルに肩をポンポン叩かれた。
「ルウラ、拳はやめておこう」
「いや、何で拳?」
アナベルがケラケラと笑った。イザベラもクスッと笑う。
「もお……」
私はそっと息を吐いた。
ちゃんと話せて、ちゃんと笑えた。それだけで、今日は十分だ。
胸の奥に残っていたわだかまりは、いつの間にか溶けていた。




