episode44:昼休みの終わり
詠唱すると周囲の温度が急激に下がり、地面からペキペキと氷壁が姿を現した。氷壁に当たって電気の球は破壊された。しかし、まだライラと呼ばれた女子は攻撃し続ける。
B組の人だろうか。
攻撃威力が高く、数回攻撃されただけで氷壁にひびが入ってくる。このままじゃ、周りに被害が及ぶかもしれない。
「ルウラ……」
後ろでイザベラが、顔を青ざめさせて立っている。
「大丈夫よ」
私はニコッとイザベラに微笑みかけ、氷壁を保つ。
アナベルの姿が見えないところ、先生を呼びに行ってくれているはず。
「……っ」
暴走した魔力が周りにまで飛び散り始めた。先生が来るまで待つつもりだったが、もたない気がする。
近くの机に攻撃が当たり、バチバチッと音がして亀裂が入った。
マズい……仕方ないか。
私は、ある氷魔法を唱える。
「氷の精霊よ、閉ざされ光なき氷へ─」
その瞬間、周囲の温度が急激に落ちた。
冷気がすーっと広がっていく。ライラの周囲に、白い霜が浮かび上がり、空中で円を描くように留まった。次の瞬間、彼女の体から噴き上がっていた魔力が、目に見えて鈍る。外へ逃げ場を失った魔力は、氷の輪に阻まれ、内側で押し留められた。
「……っ」
ライラが小さく声を漏らす。
霜は音もなく結晶となり、氷へと変わっていった。四肢を包み、肩に、背に、静かに重なり、最後には胸元までを覆う。
冷たさはあるはずなのに、彼女は苦しむ様子もなく、まるで深い眠りに落ちたかのように動かなくなった。
この魔法に、辺りが張り詰めたような静けさがおりる。
「こるらぁぁぁぁ!!」
ようやく怒号を上げながら、先生が数名走ってきた。
……待て待て。この瞬間だけ見たら私が悪者に見えるじゃない?
「お前たち来い!」
「うわぁ、凍ってますねぇ」
その中の一人はドルリヤ先生だった。しげしげと氷を見つめている。
「ドルリヤ先生!いいから運びますよ!」
凍ったライラは、三人がかりで運ばれて行った。私達も先生に連れていかれる。
「ごめんなさい、ルウラ……」
イザベラが小さな声でぽつりと呟いた。
空き部屋に連れていかれ、しばらくしてロイ先生とマックス先生が来た。
「またお前か……」
二人の先生は、私の顔を見てため息をつく。
「先にルウラ・クラーク。生徒の氷を溶かしてもらいましょうか」
「分かりました」
さっきの氷魔法─極零氷殺は、術者にしか壊せない。たとえ、どんな強い魔法を使ったとしても。
申し訳ないことしたけどさぁ、非常事態だったんだよ……。
マックス先生に、別室に連れていかれた。
「ルウラ・クラーク、連れてきました」
中に何人かの先生がいて、氷を溶かそうとしていた。一人の女の先生が尋ねてきた。
「あぁ、君がルウラ・クラークか。こんな魔法どうやって学んだんだ?」
「あの……小さい時によく魔法の練習をしていたもので……」
「だからって、こんな強度のある……」
「レイヤ先生、先に氷を溶かしてもらいましょう」
マックス先生が口を挟んだ。
「ルウラ・クラーク、できますよね?」
「はい」
私は氷の前に立って、氷に触れた。
「氷の精霊よ、闇の中から汝に光を与えたまえ─」
唱えると同時に、氷の透明度が失われていく。
白く、柔らかな光がにじみ、氷はその光に溶け込むように消えていった。後には何も残らず、ライラ一人が取り残される。
「おっと……」
フラッとしたライラを、レイヤ先生が受け止めた。
「意識がないようですが……?」
マックス先生がこちらを向いた。
「この魔法で拘束された人は、しばらく意識が戻らないようです……」
すると、ずっと黙っていた奥の先生がこちらを睨みつけた。
「随分と責任が感じられない言い方だな。これは君がやったんだよな」
「……はい」
私は俯いて答えた。
「とりあえず、ルウラ・クラークをロイ先生の所へ返します。その生徒、頼みますね」
マックス先生が私に目配せした。私はペコリと頭を下げて、この部屋から出た。途端に、マックス先生が話しかけてくる。
「君のことはまだよく知らないけど、人を傷つけるような生徒ではないことは分かってますよ」
マックス先生ー!!
私がウルウルしていると、マックス先生は鼻でフッと笑った。
「まあ、問題児ですけどね」
「……はい」
それは、この件で自覚しました……
さっきの部屋に戻ると、ロイ先生が振り向いた。後ろに、イザベラと女子生徒が佇んでいる。
「あぁ、戻ってきたか」
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。ハッとする私達に、ロイ先生はため息をついて言った。
「A組は俺の授業だからいいが、他の二クラスはマックス先生が説明しに行ってくれている」
マックス先生が姿が見えないのは、そのせいなのね。
「で」と、ロイ先生がこちらを向いた。
「ルウラ・クラーク、訳は聞いた。君が悪くないのは分かったが、もう少し上手く解決できないのか」
「無理でしょう。ルウラ・クラークですもの」
イザベラが口を挟んだ。
「ちょっと、イザベラ……!」
分かってるけど、そんな事言わないの!
「あ、あの、罰とかどうなりますか……?」
私は恐る恐る聞く。
攻撃してはいないものの、攻撃魔法であることは事実だ。
「本当は与えたいところだが、負傷者がいなかったから今回はなしだ。」
「ありがとうございます!」
一応、この人の中にも優しさも存在しているのね……。
「……何か失礼なこと考えているだろう」
「いいえ!」
その時、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「あぁ……」
「ということで、評価を下げられたくなければとっとと教室に帰れ」
……はい、やっぱり鬼でした。
「失礼しました!」
私は頭を下げると、教室を出た。イザベラと、教棟に戻っていると、イザベラがポツリと呟いた。
「……この借りはきちんと返しますから」
「別にいいのよ」
イザベラはそれ以上は何も言わず、私を追い越していく。私は肩をすくめて、その背中を追った。




