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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode44:昼休みの終わり

詠唱すると周囲の温度が急激に下がり、地面からペキペキと氷壁が姿を現した。氷壁に当たって電気の球は破壊された。しかし、まだライラと呼ばれた女子は攻撃し続ける。

B組の人だろうか。

攻撃威力が高く、数回攻撃されただけで氷壁にひびが入ってくる。このままじゃ、周りに被害が及ぶかもしれない。


「ルウラ……」


後ろでイザベラが、顔を青ざめさせて立っている。


「大丈夫よ」


私はニコッとイザベラに微笑みかけ、氷壁を保つ。

アナベルの姿が見えないところ、先生を呼びに行ってくれているはず。


「……っ」


暴走した魔力が周りにまで飛び散り始めた。先生が来るまで待つつもりだったが、もたない気がする。

近くの机に攻撃が当たり、バチバチッと音がして亀裂が入った。


マズい……仕方ないか。


私は、ある氷魔法を唱える。


「氷の精霊よ、閉ざされ光なき氷へ─」


その瞬間、周囲の温度が急激に落ちた。

冷気がすーっと広がっていく。ライラの周囲に、白い霜が浮かび上がり、空中で円を描くように留まった。次の瞬間、彼女の体から噴き上がっていた魔力が、目に見えて鈍る。外へ逃げ場を失った魔力は、氷の輪に阻まれ、内側で押し留められた。


「……っ」


ライラが小さく声を漏らす。

霜は音もなく結晶となり、氷へと変わっていった。四肢を包み、肩に、背に、静かに重なり、最後には胸元までを覆う。

冷たさはあるはずなのに、彼女は苦しむ様子もなく、まるで深い眠りに落ちたかのように動かなくなった。

この魔法に、辺りが張り詰めたような静けさがおりる。


「こるらぁぁぁぁ!!」


ようやく怒号を上げながら、先生が数名走ってきた。


……待て待て。この瞬間だけ見たら私が悪者に見えるじゃない?


「お前たち来い!」

「うわぁ、凍ってますねぇ」


その中の一人はドルリヤ先生だった。しげしげと氷を見つめている。


「ドルリヤ先生!いいから運びますよ!」


凍ったライラは、三人がかりで運ばれて行った。私達も先生に連れていかれる。


「ごめんなさい、ルウラ……」


イザベラが小さな声でぽつりと呟いた。


空き部屋に連れていかれ、しばらくしてロイ先生とマックス先生が来た。


「またお前か……」


二人の先生は、私の顔を見てため息をつく。


「先にルウラ・クラーク。生徒の氷を溶かしてもらいましょうか」

「分かりました」


さっきの氷魔法─極零氷殺(ヴァルグレイス)は、術者にしか壊せない。たとえ、どんな強い魔法を使ったとしても。


申し訳ないことしたけどさぁ、非常事態だったんだよ……。


マックス先生に、別室に連れていかれた。


「ルウラ・クラーク、連れてきました」


中に何人かの先生がいて、氷を溶かそうとしていた。一人の女の先生が尋ねてきた。


「あぁ、君がルウラ・クラークか。こんな魔法どうやって学んだんだ?」

「あの……小さい時によく魔法の練習をしていたもので……」

「だからって、こんな強度のある……」

「レイヤ先生、先に氷を溶かしてもらいましょう」


マックス先生が口を挟んだ。


「ルウラ・クラーク、できますよね?」

「はい」


私は氷の前に立って、氷に触れた。


「氷の精霊よ、闇の中から汝に光を与えたまえ─」


唱えると同時に、氷の透明度が失われていく。

白く、柔らかな光がにじみ、氷はその光に溶け込むように消えていった。後には何も残らず、ライラ一人が取り残される。


「おっと……」


フラッとしたライラを、レイヤ先生が受け止めた。


「意識がないようですが……?」


マックス先生がこちらを向いた。


「この魔法で拘束された人は、しばらく意識が戻らないようです……」


すると、ずっと黙っていた奥の先生がこちらを睨みつけた。


「随分と責任が感じられない言い方だな。これは君がやったんだよな」

「……はい」


私は俯いて答えた。


「とりあえず、ルウラ・クラークをロイ先生の所へ返します。その生徒、頼みますね」


マックス先生が私に目配せした。私はペコリと頭を下げて、この部屋から出た。途端に、マックス先生が話しかけてくる。


「君のことはまだよく知らないけど、人を傷つけるような生徒ではないことは分かってますよ」


マックス先生ー!!


私がウルウルしていると、マックス先生は鼻でフッと笑った。


「まあ、問題児ですけどね」

「……はい」


それは、この件で自覚しました……


さっきの部屋に戻ると、ロイ先生が振り向いた。後ろに、イザベラと女子生徒が佇んでいる。


「あぁ、戻ってきたか」


その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。ハッとする私達に、ロイ先生はため息をついて言った。


「A組は俺の授業だからいいが、他の二クラスはマックス先生が説明しに行ってくれている」


マックス先生が姿が見えないのは、そのせいなのね。


「で」と、ロイ先生がこちらを向いた。


「ルウラ・クラーク、訳は聞いた。君が悪くないのは分かったが、もう少し上手く解決できないのか」

「無理でしょう。ルウラ・クラークですもの」


イザベラが口を挟んだ。


「ちょっと、イザベラ……!」


分かってるけど、そんな事言わないの!


「あ、あの、罰とかどうなりますか……?」


私は恐る恐る聞く。

攻撃してはいないものの、攻撃魔法であることは事実だ。


「本当は与えたいところだが、負傷者がいなかったから今回はなしだ。」

「ありがとうございます!」


一応、この人の中にも優しさも存在しているのね……。


「……何か失礼なこと考えているだろう」

「いいえ!」


その時、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。


「あぁ……」

「ということで、評価を下げられたくなければとっとと教室に帰れ」


……はい、やっぱり鬼でした。


「失礼しました!」


私は頭を下げると、教室を出た。イザベラと、教棟に戻っていると、イザベラがポツリと呟いた。


「……この借りはきちんと返しますから」

「別にいいのよ」


イザベラはそれ以上は何も言わず、私を追い越していく。私は肩をすくめて、その背中を追った。

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