episode43:一瞬の選択
二限目のテキシア先生の魔法史。三限目のリリー先生の古代言語学。四限目のシャーロット先生の魔法倫理学が終わって、昼休みとなった。
エマと、なぜかついてくるフィンとカルロスと共に売店に向かう。
「ちょっと聞きたいんだけどさぁ……」
売店に入り、どのお店に行こうか考えていた時。フィンが何やらモジモジしている。
「何?」
「ルウラって……俺のこと気になってる?」
「はっ!?」
変な事を聞かれて、思わず大きな声が出てしまった。周りの生徒が、びっくりして私を見る。
「なぜそんな思考に?」
「いや授業中、横から熱い視線を感じたからさ」
この人、使える人か見てただけなのに、熱い視線と勘違いしてやがるわ……
「あなた、私のタイプに一つも当てはまってないから、心配しなくても大丈夫よ」
「そうか……」
ズーンと、落ち込むフィン。
エマたちに勘違いされても困る。私は、バシッと言ってやった。
変な空気の中を消そうと、私は一つの売店を指さす。
「あっ、あのアップルパイ美味しそう!」
「おいおい、今昼だぜ?太るぞルウラ」
一瞬で復活したフィンが言う。
この人、ポジティブね……
私は、フィンを睨んだ。
「そういうのは、乙女に言っちゃいけないのよ?」
「乙女……」
隣でカルロスが呟くが、無視することにする。
「じゃ、アップルパイ買ってくるからー」
私は、ピュッとその場を離れる。その後ろをエマがついてきた。
「エマも食べる?」
「……食べてもいいかな?」
「ん?……あぁ」
さっきのフィンの言ったことを気にしているんだろう。
「あんなの気にしないで。好きな物食べようよ」
「そうだよね」
「すみません!アップルパイ、二つください!」
「はーい!」
無事アップルパイをゲットして席をとる。食べ始めようとしていると、私達に気が付いたアウラが、駆け寄ってきた。
「ごめん、ルウラ!エマ借りていい?」
「え?いいけど……」
「エマ、メンバーが決まったからさ!」
「ほんと?了解」
エマは私に手を振ると、アップルパイを片手に行ってしまった。仕方なく一人で食べていると、紙袋を持ったフィンとカルロスが戻ってきた。
「あれ、エマは?」
「アウラに連れていかれちゃった」
「だからぼっち飯してんのか」
それには答えずにアップルパイを口に入れる。
……あぁ、おいしい。
幸せに浸っていると、フィンが紙袋を差し出してきた。中にはサンドイッチが入っている。
「一個食う?」
うっ、美味しそう……
しかし、私はそっぽを向く。
「いいわよ。食べたら太るから」
「まだ気にしてんのかよぉ」
モグモグしていると、「ルウラ〜!」と私を呼ぶ声がした。振り返ると、アナベルが走ってきた。
「あ、ごめん。お邪魔だったね……」
アナベルは、フィンとカルロスを見て申し訳なさそうに言う。
「いいのよ、ちょうど話したいこともあったし」
私は、横の椅子を引いてアナベルを座らせる。アナベルもサンドイッチの入った紙袋を抱えていた。
「えっと、まず紹介するわね」
私はそう言って、アナベルに二人を紹介する。
「こっちがフィンで、こっちがカルロス。二人ともクラスメイトね。」
「よろしく!」とフィンが挨拶し、カルロスはぺこりと頭を下げた。
「で、こっちがルームメイトのアナベルね」
すると、合点がいったというように、フィンが「例の!」と言う。それを聞いてアナベルは、首を傾げた。
「あのね、アナベル。この二人、チームに入ってもらおうと思うの。どう?」
カルロスが「僕はいいのに……」と呟くが、聞こえなかったことにする。
すると、アナベルはニコッと笑った。
「いいよ!私C組だけど、よろしくお願いします」
「俺クラス気にしないから!よろしくな、アナベルちゃん!」
まさかのちゃん呼びにアナベルは、震え上がった。
「……ちゃん付けしないでもらえます?」
「えっ、ごめん……」
フィンって顔はいいのに、なんか抜けてるんだよなぁ。
昼ご飯を食べながら、四人で話していると─
「ねぇ、聞いた?」
近くの女子生徒の話が聞こえてきた。
「イザベラ・オズボーン。D組だって」
「え、ほんと?あの人馬鹿だったのね」
私は、拳を握りしめていた。
「ちょっとルウラ……」
アナベルが私を宥める。
自分が感情の起伏が激しいことは分かっている。でも、ルームメイトが悪口言われるのは気分が悪い。
「……僕もやめとくべきだと思うよ」
ずっと黙っていたカルロスも、ぽつりと言った。
「……そうよね」
立ち上がっても、私に出来ることはない。
ムシャクシャしながら椅子に座り直す。二人の女子はすぐ通り過ぎると思っていたが─
「あっ……」
運が悪いことに、昼ご飯を食べ終えたイザベラと、ばったり遭遇してしまった。
「あらぁ、D組のイザベラ・オズボーンじゃないの」
「あなたD組だったのね」
イザベラは、何も言わず二人を睨みつけている。
「悔しくて何も言えないみたい」
二人の女子が、顔を見合せてクスクス笑い出した時だ。イザベラが口を開いた。
「あんなことをしておいて、よくヴェルディアにいられるわね」
あんなこと……?
しかし、私に知る権利はない。
途端に、一人の女子の顔が赤くなる。
「うるっさいわねぇ!あんたに関係ないでしょ!」
女子生徒が声を荒げた瞬間、周囲の視線が一斉に集まった。売店前のざわめきが、ぴたりと止む。
「関係ない?……笑わせないでもらえるかしら」
イザベラが、ゆっくりと口元を歪める。
「規則を破った人間が、何食わぬ顔で学園を歩いているのよ。それを関係ないで済ませろって?」
「な、何よそれ……!」
女子生徒の声が、少し裏返る。
「嫉妬でしょ?あんたが目立たないからって……」
次の瞬間。バチッ、と空気が弾けた。
女子生徒の手元に、淡い光が集まり始める。魔力の流れが、明らかに乱れている。
「え、やばくない?」
近くの生徒が話すのが聞こえた。
攻撃魔法は、授業中以外は、使うことを禁止されている。先生たちにバレたら、罰されるだろう。
……ん?
そこで私は異変に気付く。
感情が異常なほど荒ぶっている。それに、罰せられると分かっている上で、わざわさ攻撃魔法を繰り出すものだろうか。後で悔やむのは自分なのに……。
なんかこの空気変だわ……
私が眉をひそめていると、
「調子に乗らないでよっ!!」
女子は詠唱して、空中に電気を纏わせた球体を浮かばせる。
「ちょっと、ライラ!やめようよ」
大変な事態に気付いたのか、もう一人の女子が慌てて声を掛ける。
「うるっさい!」
ライラと呼ばれた女子は、電気の球体をイザベラに投げつけた。イザベラは、突然のことに立ちすくんでいる。
……いけない。防御の姿勢が取れていない。
私は、イザベラに駆け寄る。
「ルウラ!!」
アナベルの声を振り切り、イザベラの前に走り出た。攻撃に振り切った魔力の塊。一般防御魔法で被害を出さずに守り切れるか。
目の前に攻撃が迫ってくる。
……仕方ない。
「清き氷よ、我を護り、すべてを凍て阻め─」
詠唱すると周囲の温度が急激に下がり、地面からペキペキと氷壁が姿を現した。




