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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode41:小さな幸せ

辺りが眩しさに包まれ、あまりの眩しさに顔を顰めていると、狼のような精霊が現れ─


「えっ」


姿を消してしまった。魔法陣の輝きが薄まっていく。


「あの……ロイ先生」

「召喚失敗か?」

「いやでも狼が今……」


私は淡く光っている魔法陣に呼びかける。


「狼ちゃん、出ておいでー?」


すると、魔法陣が再度光り始めた。


何か出てきた!!


しかし─


「ん?」


狼と思いきや、現れたのは小さなリスだった。


「次席もそんなもんなんだな」


皮肉混じりに、ロイ先生が言う。

私は手を精霊に近付ける。小さな精霊は鼻を手に近付けてクンクンと匂いを嗅いだ後、手の上に乗ってくれた。


「可愛いー!」

「もう、行っていいぞ」


召喚が無事完了したため、私はその場を離れる。アナベルは時間がかからないらしく、すぐ精霊を召喚させ、私に駆け寄ってきた。


「ルウラ、お疲れ様!」


アナベルの腕には黒猫が抱えられている。黒猫と、菫色の瞳がお揃いだ。


「お疲れ様!可愛い黒猫ねぇ」


そう言うと、嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


……えっ、言葉通じてる?


ドキッとしたものの、アナベルに話しかけられて私は意識を戻す。


「そういえば、ルウラさっきすごかったね。魔法陣めちゃくちゃ光ってたし!」

「最初、狼みたいな精霊出てきたんだけど、消えちゃったんだよなぁ」


「アナベルも見えたよね?」と聞くと、アナベルは目をパチパチさせた。


「私には何も見えなかったよ……?」

「えっ、おっかしいわねぇ」


けど、考えても仕方がない。話題を変えることにした。


「そういえばアナベル。その子、なんて言う名前なの?」

「ネコタローだよ!」

「ネコタロー……かわいい名前ね。私は……」


手の上にちょこんと乗るリスに目を落とす。つぶらな瞳と目が合った。


「リットにするわ。狼はラノーンよ」

「狼も名前つけるんだね。いいと思う!」


「でしょ!」と私は胸を張り、リットを肩に乗せる。しばらくアナベルと話していると─


「はい、皆さん静まってください!」


ルイス先生のよく通る声が響いた。

どうやら終わったみたい。


「これにて、召喚術学の授業を終わります。精霊には、それぞれ属性があります。これからの課外授業で精霊と行うこともあるでしょう。自分の精霊について知っておくようにしてくださいね!」


そうして、召喚術学の授業が終わった。


この後は10分の休み時間の後に、各クラスでこれからの授業についての説明がある。後ろ髪を引かれる思いでアナベルと別れて、教室に戻った。

教室に戻ると、カルロスとフィンは先に戻って来ていて、どっちも机に突っ伏していた。


「何してるの……?」

「なんか……疲れた」


顔を伏せたまま、フィンが答える。


「疲れたって、まだ一限しか終わってないわよ」

「うん……」


うんって……。


そこにエマが戻ってきたので、授業が始まるまでエマと話すことにした。

予鈴が鳴って休み時間が終わり、教室にマックス先生が入ってくる。


「召喚術学お疲れ様でした。」


「では」と言うと、マックス先生は、チョークを手に取った。


「これから課外授業について説明します」


課外授業!


私は胸をときめかせる。

 

「課外授業は、チームで行います」


マックス先生は、黒板に書き始める。


「チーム人数は、五~六人。同じクラスの人を入れても構いませんが、条件としてA組からD組までの生徒を必ず一名は入れること。」


すると、一番端に座っていた男子が手を挙げた。


「D組も入れないといけないんですか?」


マックス先生は、息をついて頷いた。


「もちろんです。入っていなければ、チームとしてみなしません。チーム編成の締切は、今日から二週間後。集まったらリーダーを一人決めて、担任の先生に報告しに行ってください。」


チームか……C組はアナベルを誘うにして……。うーん。


「なるべく早めに決めることをおすすめします」


マックス先生は最後にそう言って、この話を終えた。

その後、学校生活を送る時の注意点や場所、科目の説明などをされて、この授業は終わった。

今日は午前中で授業が終わりだったので、部屋に戻ることにする。エマに手を振って部屋に戻ると、アナベルとネコタローしかいなかった。


「ルウラ、おかえりー」

「ただいま!イザベラはまだ?」

「一回帰ってきてたみたいだけど、またどこか行っちゃった」

「そうなの……どうしたんだろうね」


少し仲が深まったと思ったのに……。


「ルウラ、あのさ。課外授業のこと聞いた?」

「うん。あ、アナベル!一緒のチームになりませんか!」

「あー!私も今言おうとしてたのに!」


残念がるアナベルを見て、思わず笑ってしまう。


「あ、そうだ。イザベラって何組か分かる?」

「うーん、C組にはいなかったような……」


B組か、D組か。


すると、急にドアが開いた。ビックリしてコケそうになる。


「イザベラ!」


後ろに、怪訝な顔をしたイザベラが立っていた。


「いつまで玄関で立ち話をしていらっしゃるの?」

「あ、ごめん」


靴を脱いで、部屋に上がる。


「イザベラって何組?もし良かったら……」

「一緒のチームには、なりませんわよ」


まだ言ってないのに、断られてしまった。


「あちゃー」

「それより、早くご飯食べたらどうです?きっとこれから……」

「ん?」


私が聞き返すと、控えめにドアがノックされた。


「はーい」


ドアを開けると、女の子二人が立っていた。


「こ、こんにちは。私たちC組の者なんですけど……」

「え、えっと。チーム組みませんか?」


後ろでアナベルが息を潜めて見ている。


「ごめんなさい。もう決まっているの」

「でっ、でも私たち……!」

「本当にごめんなさい」


私がもう一言謝ると、女の子たちは帰って行った。ドアを閉めると、イザベラはもういなくて、アナベルが不安げに私を見ていた。


「ルウラいいの?あの子たち、私よりきっと優秀だよ?」

「いいの。私はアナベルを選んだんだから」


アナベルは「ありがとう」と、嬉しそうに笑った。すると、またドアがノックされる。


「ルウラ・クラーク!!いるなら出てきなさい!!」


挑発的な言い方に、開けるのを戸惑う。


「ルウラ・クラーク!!」


しかし、大きな声で騒がれても迷惑なので、私は仕方なくドアを開けることにした。


「はい……」


ドアを開けると、茶髪をグルグルと巻いた女子が立っていた。後ろには、数人の女子がいて、こっちの様子を窺っている。


「ごきげんよう。あたくしロゼッタ・モーガンと言います。あたくしもA組ですの。どうかしら?」


まさかの同じクラス。こんな子いたっけ……。

 

「えっと……どうっていうのはチームのこと?」

「あったり前じゃない」

「……後ろの人たちは?」


尋ねると、ロゼッタは「フフン」と、自慢気に胸を張った。


「A組からD組の中から優秀な人材を選びぬいたのですわ。」


それは仕事が早いこと……。


「あなたが入ったら、このチームは完璧なのです」

「……何で私?」


げんなりして言うと、ロゼッタは髪の毛をフワッとはらった。


「あがり症のエマ・クリーンさんは、話しかけにくいもの。あなたが適任ってわけ」


それを聞いて、私はドアを閉めた。


「ごめんなさい、無理です」

「えー、有り得ないわ!!」

「ロゼッタ様、あんなやつ放っておきましょう!」


途端にブーイングが起こる。


……取り巻き化してるじゃない。


「ルウラ・クラーク!見てなさいよ、後悔させてやりますから!」


捨て台詞を残して、ロゼッタは去っていった。やっと、辺りが静かになる。


「すごかったね……」


アナベルが苦笑いしながら言う。私も苦笑いをして頷いた。


「お昼ご飯どうしようか……」

「私、外で何か買ってくるよ。ルウラここで待ってて」

「いやいや、何言ってるの。私も行くわよ」


すると、待ったをかけられた。


「ごめん、ルウラ。今日は、一人の方が早く帰ってこられる」

「……その通りですね」


ということで、お昼はアナベルに任せることにした。


「ルウラさーん」


アナベルが出かけたあとも、ノックが続く。


……イザベラが言いかけてたのはこの事だったのね。


私は、トホホと肩を落とすのだった。



「買ってきたよー!」


アナベルがご飯を買ってきてくれて、有難くいただく。


「ごめん、アナベル。お金払うわ。いくらだった?」

「そんなの気にしないで!ほら、早く食べよ?」

「うん、ありがとう」


イザベラは、もう食べて帰ってきたみたい。仕方なく、二人で食べる。

二人で食べていると、ポケットからリットが出てきた。ピザが気になるのか、匂いを嗅ぎ出す。


「えっ、精霊ってピザ食べれるの?」

「分かんないな……。食べれないことはないと思うけど。」


すると、リットは小さな手でそのままピザにかぶりついた。


「あっ……」


まさか本当に食べると思わなかった。


「ちょっと、お腹壊さないよね?」


慌ててリットを持ち上げる。口にケチャップをつけて、幸せそうにモグモグと口を動かしていた。


「大丈夫じゃないかな?」

「うん……大丈夫そう」

「……なんか」


アナベルがリットを見ながら、ぽつりと呟いた。


「ルウラみたい」


私は目をパチパチさせる。


「え?嘘でしょ、私こんなに食いしん坊じゃないわよ」

「いやぁ、ご飯食べてる時同じ顔してるよ。精霊って主人に似るんだねぇ」

「……」


私は、二枚目に手を伸ばそうとするリットを、じっと見つめる。


この食いしん坊め!


私は心の中で呟く。

今日は初めての授業で緊張したけど、こうして部屋でゆっくりと過ごす時間が、何よりの宝物だ。

小さな幸せを胸に、私は穏やかな気持ちで午後の時間を迎えた。

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