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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode40:召喚の儀

第一儀式場の中に入ると、ひんやりとした空気が体を包んだ。


「うわぁ……」


私は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

思わず見上げてしまうほど天井が高く、暗闇に溶けて最上部が見えない。

そして目を引くのは、床に描かれている四つの巨大な魔法陣。円状の線と複雑な紋様が幾重にも重なり、遠くにいても微かな魔力の気配が伝わってくる。魔法陣の真ん中には、儀式用と思われる蝋燭が立っていた。

エマと辺りをしばらく見回していると─


「エマー!」


誰かがエマの名前を呼んで、走ってきた。途端に横にいたエマの顔がパッと明るくなる。


「エリッサ……!」


エマは申し訳なさそうに、チラリと私を見る。


「行ってきていいよ」

「ありがとうっ。また後でね!」


エマは走っていった。カルロスとフィンは気付けば遠くにいて、一人ぼっちになってしまった。


始まるまで端っこにいようかな……。


そう思って歩き出した時。


「ルウラ!」


誰かに肩を叩かれた。振り向くと、アナベルが立っていた。


「アナベル!来てくれてありがとう」

「いやいや、ルウラと話したいと思ってたから」

「えへへ……ん?」


不意に場内を見て、私はあることに気付いた。


「あれ、イザベラ来てない?」


辺りを見回すも、イザベラの魔力は感じられない。


「え、ほんと?」

「多分……」


気分でも悪くなったのかしら……


そんな時、空気がザワっとした。


「皆さん、こんにちはー」


入口の方から明るい声が響いた。途端にざわめきが止み、静まり返る。

入ってきたのは二人の先生だった。一人は若い先生。もう一人は……


「げっ……」


私たちを注意した、例の先生だった。


「あの先生って、召喚術学担当なの?」


コソッとアナベルに聞くと、首を傾げた。


「召喚術学は、あんまり担当の先生いないと思うんだけどなぁ」


お手伝いかな……


そんなことを考えていると、先生がパンパンと手を鳴らす。魔法陣の外に先生が立っていた。


「全員揃っていますか?そろそろ始めますよ」


イザベラ、早く来なさいよね!


私がドアをじっと睨んでいると、急に開いて一人の生徒が入ってきた。


「すみません、遅れました!!」


イザベラだ!


イザベラと目が合い、手招きするも無視されてしまった。

 

「大丈夫ですよ。今始めるところでした」


そう言って先生はふわりと笑った。その美貌に何人かの女子が悲鳴を上げる。


確かに美形だわ……


「では、まず自己紹介からしましょう。召喚術学担当、ルイス・ケリーと言います。今日はクラス合同で行うため、手伝いをお願いしました」

「ロイ・プライスだ」


眉をひそめて、ロイ先生が言う。


「今悲鳴を上げた女子たち、真面目にしないと評価下げるぞ!」


うわぁ、皆嫌そうな顔してるなぁ。


ルイス先生も苦笑いをしている。


「では、知っている方もいると思いますが、召喚の方法を説明しますね」


ルイス先生が説明してくれた精霊召喚の手順は、驚くほど簡単だった。

用意されているのは、刻印が施された一枚の紙だけ。指先をわずかに傷つけ、滲んだ血をその印に触れさせる。呪文を唱えながら蝋燭で燃やして、紙が完全に灰となった瞬間、床の魔法陣から精霊が現れるらしい。


「意外と簡単なんだね」


私が言うと、アナベルは首を縦に振った。


「そうだよ。でも、魔力の量で召喚できない人もいるのがよくないとこなんだよね。魔力が少なくても召喚できる方法があればいいのに。精霊がいるといないじゃ、どうしても差が出てきちゃうからさ。」


熱弁するアナベルを見て、私は目を瞬かせる。


「あれ、もしかしてアナベル、もう精霊召喚してるの……?」


恐る恐る尋ねると、アナベルは頷く。


「昔、召喚できる機会があってね」

「じゃあ、この後の召喚には参加しないの?」


私が聞くと、アナベルは首を横に振った。


「魔法陣は使わないけど、契約が結べているかの確認があるから参加するよ」

「なるほど」


そこで、先生が話を終えた。


「では、四列に並んでください。順番に行います。」


バッと、皆がルイス先生の方へ並んだ。私達も、こそっとルイス先生の所へ並ぶ。ルイス先生はそれを見て、肩をすくめた。


「……笑ってないで早く何とかしてください」


ロイ先生がルイス先生に言う。「偉そうに!」と、近くの女子が、文句を言っている。


「えー後ろの人は、ロイ先生の所へ行ってくれますか?」

「引っ張られたくなかったら早く来い」


運が悪いことに、私達は後ろの方だった。


「ルウラ……行くよ」

「はーい……」


アナベルに腕を引っ張られ、覚悟をしてスゴスゴと並ぶのだった。

ついに儀式が始まった。一番前の生徒が呪文を唱える。


「原初の契約を継ぎし名、アスティーヌの名において命ずる。我が手の下に集え、精霊よ─」


その呪文を聞いて、私はハッとした。

初代精霊使い、アスティーヌ。

大昔、自ら精霊を呼び寄せて名を交わし、その力を従えた唯一の魔法使い。

精霊は、魔法使いと直接契約することは絶対にないと聞いたことがある。

だから代わりに、最初に精霊と交渉・契約を成立させた、アスティーヌの名を借りて召喚しているのね。


気付けたことに頬を緩ませていると、アナベルが私の肩をチョンチョンとつついた。


「ルウラ。エマ・クリーンの番みたいだよ」


私は顔を出して、ルイス先生の前に立つエマを見る。

エマは、魔法陣の中に立つと、呪文を唱えながら紙を蝋燭で焚べた。ピカっと魔法陣が光る。


「あっ」


現れたのは、白いうさぎだった。エマとお揃いのエメラルドグリーンの瞳が、何とも愛らしい。しかし、近くの人が「大したことないじゃん」と呟くのが聞こえた。


「何よ、あんなに可愛いのに」

「首席だから、どうしても注目されちゃうみたいだね……」


しかし順調に進んでいく中、突然皆が笑った。


「あ……」


ルイス先生の前で、イザベラが俯いている。その下には、小さな羽のついた一匹のひよこ。どうやらそれで笑われているらしい。


「何がおかしいの……」

「召喚出来るだけでもすごいのに」


アナベルもご立腹のよう。しかし、冷静は保っているようで、ムキー!と怒って今にも叫び出しそうな私をアナベルが押さえた。


「ルウラ、寒いから落ち着いて……」

「ご、ごめん」

 

感情が荒ぶって、冷気を発散させていたみたい。私は慌てて心を落ち着かせる。

そして、私の番になった。ロイ先生が顔をしかめる。


やっぱ覚えられてますよね……


紙を受け取って血をつけると、魔法陣の中に入る。


「原初の契約を継ぎし名、アスティーヌの名において命ずる」


私は第一句を唱え、刻印を蝋燭で焚べる。


「……我が手の下に集え、精霊よ─」

 

唱え終わると、魔法陣が見たことないほど光り輝き始めた。周りの人が息を呑むのが聞こえる。


え、これ不発ですか!?


次の瞬間、光はさらに強まり、私は眩しさに包まれた。

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