episode4:作戦会議
今日カインと護衛のことを約束したことを思い出し、家に帰ると、ファリンネに護衛のことを聞いてみた。
「護衛……ですか?」
「ええ、そうよ。」
もうすでに置いていかれているのに、カインに先に夢を叶えられたらたまらない!
「で、何でしたっけ?」
「だから!王家の護衛を目指したいんだけど、どうしたらいいの?」
すると、ファリンネは息を呑んだ。
「なんてことでしょう!奥様に伝えなければ!」
「そっ、それはいいの!ちょ、ちょっと興味があって……」
私はもじもじして言う。
「それなら、私より詳しい方がいらっしゃるでしょう。」
「ケベットね!」
ケベットもお母様の精霊。昔精霊として王宮に所属していたことがあるらしく、この前、家を覗き込んでいた怪しい男にキックをかましていた。たまに魔法の使い方を教えてもらっている。
「今、ケベットはどこにいるの?」
「わかりません。」
「……ちょっと探してくる。」
部屋を出るとちょうど一体の精霊とすれ違った。
「あらルウラお嬢様。誰かお探しで?」
姉御肌のユーベルが声をかけてきてくれてケベットかどこにいるかを尋ねる。
「ケベット様ねぇ。……あぁ、確か家の見回りがてら花に水をやりにいくと仰っていましたよ。」
「ありがとうユーベル!」
「どういたしまして。」
私は庭に向かう。庭に着くと、丸まった小さな背中が目に入った。
「ケベットー!」
「これはルウラお嬢様。どうされました、また不審な奴が……」
「違うわよ。あのね、相談したいことがあって……」
「な、ななななんと……」
「ケ、ケベット?」
護衛になる方法について尋ねると、ケベットは手に持っていたジョウロを落とした。
「あぁ、まさかお嬢様がそんなことを……」
「やっぱり……おかしいかしら?」
「いいえ!そんなことはありません!図書館でお話しいたしましょう。」
拾ったジョウロを丁寧に置くと、二人で歩き出した。
図書館に着くと置いてある椅子に腰を下ろす。
「王家の護衛になりたいと仰られましたな。」
「ええ。」
「まず言わせてもらいますと、お嬢様は魔法の方は優れていらっしゃいますが、勉学の方が……」
「わ、分かってるわよ!」
カインと一緒のこと言わないでよ!
そんな私を見てケベットは、ホ、ホ、ホと笑った。
「魔法学校を探してみましょうか。」
そう言った後、「リベル様。」と呼んだ。
「はい、何でしょう。」
突然、空中から白髪の精霊が現れる。
「魔法学校に関する書物を全て持ってきていただけますかな。」
「了解しました。」
リベルはきっちり仕事をする人だ。
「ちょっとケベット!全てって言ったけど、大丈……」
ドンッ!!!
目の前に大量の書物が置かれた。そのせいでケベットの姿が見えなくなる。
「り、リベル!」
「何でしょう、お嬢様。」
「ちょっと本をずらしてくれない?ケベットが見えないわ。」
「失礼いたしました。」
ズズズと、すごい音を立ててずらしてくれた。ようやくケベットの姿が見えるようになる。
「それで、魔法学校はこの国にいくつあるの?」
「この国にはございませんので、どこかに進学する必要がありますね。」
「やっぱりね……」
ここレーゲルトは、シュワノワールという州の中で最も南西に属しており、山に囲まれているザ・田舎である。
ケベットは、書物の中から地図を引っ張り出すと、私に見えるように広げてくれた。
「他国にはいくつかございますが、王家関係の仕事を目指すのには、王都の魔法学校が有利ですね。」
「王……都!」
田舎暮らしの私にとっては憧れの場所だ。キラキラの生活を想像して思わずそわそわしてしまう。
「お嬢様。分かっていますよね?勉強しに行くのですよ。」
「わ、分かってるわよ。でも王都ってなんだか難しそう。」
「倍率がそもそも高いですね。」
「まあ、そうよね。」
「昨年は100倍にも及んだとか。」
「ひゃく!?えっと……100人で1人受かるのか」
「左様でございます。」
私は思わず突っ伏した。
「ごめんケベット。私無理かも……」
「諦めるのは早いですよ!学校入学は3年後。まだ時間はあります!」
「うーん……」
軽はずみなことを言っていたことをすごく後悔している……。
そこへ、お母様の執事のデレクがやってきた。
「ルウラお嬢様。奥様がお呼びです。」
あれ、珍しい。
「ごめんなさいケベット。少し外してもいいかしら?」
「ええ、もちろんです。どうぞ行ってらっしゃいませ。」
図書館を出てデレクとお母様の部屋に向かう。
「奥様。ルウラお嬢様をお呼びいたしました。」
「どうぞ。入って。」
中に入ると紅茶の甘い匂いが漂ってくる。椅子に座ると、お母様は私に手を伸ばして頭を撫でた。
「ルウー!久しぶりね。1人にさせてて本当にごめんね。アップルパイ美味しかったわよ!さすが私の娘!」
「良かった!いいのよ。お母様、忙しいでしょう。」
「ルウもすっかり大人になっちゃって……」
そういってお母様は目の端を拭った。
「それでお母様。急にどうしたの?」
私が尋ねると、お母様は膨れてしまった。
「何よ何よ。娘とお茶がしたくなったのよ。ダメなの?」
「い、いや、忙しいのにいいのかなぁって!」
焦って言うと、お母様はニヤリ、と笑った。
「そんなことより聞きたいことがあってね。」
まさか護衛のこと……!?でも今日ファリンネ言った訳だし、さすがにまだ耳に届いてはいないか。
「ファリンネに聞いたわよ。あなた盗賊にやられそうになったんだってね。」
ファリンネー!
「その通りです……」
「まあ、無事で良かったわ。私が一緒にいられないからよね。ごめんね。」
「違うの!私の魔法がまだまだで、それで……」
「ルウ。」
名前を呼ばれて私は顔を上げる。
「あなた、護衛になりたいの?」
「……ええ。」
おそらくこの話もファリンネが伝えたのだろう。
「えと、実はそうなの……」
「それはアーサーに憧れて?」
お父様の名前を出されて、私は正直に頷いた。
「お父様みたいに誰かを守れるような人になりたいの……。」
「そう……」
お母様はそう言って一口紅茶をすすった。
「デレクはこの事どう思う?」
「しごく必要がありますね。」
その言葉にお母様はフフフと、笑った。
「ケベットとは話した?」
「ええ。さっきまで話してたわ。王都の魔法学校がいいんじゃないかって。」
「いいアイデアね。ケベット!いるかしら。」
「はい、ここに。」
お母様の横にケベットが現れた。
「ケベット。あなたはこの子が護衛になるのどう思うの?」
「お嬢様は、他の子よりは魔術の才能はありますが、このレベルで護衛は、まだまだですな。勉学共に鍛える必要があります。」
「ですが、」とケベットは付け加えた。
「お嬢様は熱心なお方なので心配はいらないと思いますよ。」
私の顔はポッと、赤くなる。
「あらぁ、良かったわね、ルウ。私応援するわ!ケベットとよく話しなさい。それと……」
急に声色が変わって私は身を引きしめる。
「死ぬ気で頑張りなさい。」
「は、はい!」
私は大きく頷いた。




