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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第一章:ルウラとカイン
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episode4:作戦会議

今日カインと護衛のことを約束したことを思い出し、家に帰ると、ファリンネに護衛のことを聞いてみた。


「護衛……ですか?」

「ええ、そうよ。」


もうすでに置いていかれているのに、カインに先に夢を叶えられたらたまらない!


「で、何でしたっけ?」

「だから!王家の護衛を目指したいんだけど、どうしたらいいの?」


すると、ファリンネは息を呑んだ。


「なんてことでしょう!奥様に伝えなければ!」

「そっ、それはいいの!ちょ、ちょっと興味があって……」


私はもじもじして言う。


「それなら、私より詳しい方がいらっしゃるでしょう。」

「ケベットね!」


ケベットもお母様の精霊。昔精霊として王宮に所属していたことがあるらしく、この前、家を覗き込んでいた怪しい男にキックをかましていた。たまに魔法の使い方を教えてもらっている。


「今、ケベットはどこにいるの?」

「わかりません。」

「……ちょっと探してくる。」


部屋を出るとちょうど一体の精霊とすれ違った。

「あらルウラお嬢様。誰かお探しで?」


姉御肌のユーベルが声をかけてきてくれてケベットかどこにいるかを尋ねる。


「ケベット様ねぇ。……あぁ、確か家の見回りがてら花に水をやりにいくと仰っていましたよ。」

「ありがとうユーベル!」

「どういたしまして。」


私は庭に向かう。庭に着くと、丸まった小さな背中が目に入った。


「ケベットー!」

「これはルウラお嬢様。どうされました、また不審な奴が……」

「違うわよ。あのね、相談したいことがあって……」

「な、ななななんと……」

「ケ、ケベット?」


護衛になる方法について尋ねると、ケベットは手に持っていたジョウロを落とした。


「あぁ、まさかお嬢様がそんなことを……」

「やっぱり……おかしいかしら?」

「いいえ!そんなことはありません!図書館でお話しいたしましょう。」


拾ったジョウロを丁寧に置くと、二人で歩き出した。



図書館に着くと置いてある椅子に腰を下ろす。


「王家の護衛になりたいと仰られましたな。」

「ええ。」

「まず言わせてもらいますと、お嬢様は魔法の方は優れていらっしゃいますが、勉学の方が……」

「わ、分かってるわよ!」


カインと一緒のこと言わないでよ!

そんな私を見てケベットは、ホ、ホ、ホと笑った。


「魔法学校を探してみましょうか。」


そう言った後、「リベル様。」と呼んだ。


「はい、何でしょう。」


突然、空中から白髪の精霊が現れる。


「魔法学校に関する書物を全て持ってきていただけますかな。」

「了解しました。」


リベルはきっちり仕事をする人だ。


「ちょっとケベット!全てって言ったけど、大丈……」


ドンッ!!!

目の前に大量の書物が置かれた。そのせいでケベットの姿が見えなくなる。


「り、リベル!」

「何でしょう、お嬢様。」

「ちょっと本をずらしてくれない?ケベットが見えないわ。」

「失礼いたしました。」


ズズズと、すごい音を立ててずらしてくれた。ようやくケベットの姿が見えるようになる。


「それで、魔法学校はこの国にいくつあるの?」

「この国にはございませんので、どこかに進学する必要がありますね。」

「やっぱりね……」


ここレーゲルトは、シュワノワールという州の中で最も南西に属しており、山に囲まれているザ・田舎である。

ケベットは、書物の中から地図を引っ張り出すと、私に見えるように広げてくれた。


「他国にはいくつかございますが、王家関係の仕事を目指すのには、王都の魔法学校が有利ですね。」

「王……都!」


田舎暮らしの私にとっては憧れの場所だ。キラキラの生活を想像して思わずそわそわしてしまう。


「お嬢様。分かっていますよね?勉強しに行くのですよ。」

「わ、分かってるわよ。でも王都ってなんだか難しそう。」

「倍率がそもそも高いですね。」

「まあ、そうよね。」

「昨年は100倍にも及んだとか。」

「ひゃく!?えっと……100人で1人受かるのか」

「左様でございます。」


私は思わず突っ伏した。


「ごめんケベット。私無理かも……」

「諦めるのは早いですよ!学校入学は3年後。まだ時間はあります!」

「うーん……」


軽はずみなことを言っていたことをすごく後悔している……。

そこへ、お母様の執事のデレクがやってきた。


「ルウラお嬢様。奥様がお呼びです。」


あれ、珍しい。


「ごめんなさいケベット。少し外してもいいかしら?」

「ええ、もちろんです。どうぞ行ってらっしゃいませ。」


図書館を出てデレクとお母様の部屋に向かう。


「奥様。ルウラお嬢様をお呼びいたしました。」

「どうぞ。入って。」


中に入ると紅茶の甘い匂いが漂ってくる。椅子に座ると、お母様は私に手を伸ばして頭を撫でた。


「ルウー!久しぶりね。1人にさせてて本当にごめんね。アップルパイ美味しかったわよ!さすが私の娘!」

「良かった!いいのよ。お母様、忙しいでしょう。」

「ルウもすっかり大人になっちゃって……」


そういってお母様は目の端を拭った。


「それでお母様。急にどうしたの?」


私が尋ねると、お母様は膨れてしまった。


「何よ何よ。娘とお茶がしたくなったのよ。ダメなの?」

「い、いや、忙しいのにいいのかなぁって!」


焦って言うと、お母様はニヤリ、と笑った。


「そんなことより聞きたいことがあってね。」


まさか護衛のこと……!?でも今日ファリンネ言った訳だし、さすがにまだ耳に届いてはいないか。


「ファリンネに聞いたわよ。あなた盗賊にやられそうになったんだってね。」


ファリンネー!


「その通りです……」

「まあ、無事で良かったわ。私が一緒にいられないからよね。ごめんね。」

「違うの!私の魔法がまだまだで、それで……」

「ルウ。」


名前を呼ばれて私は顔を上げる。


「あなた、護衛になりたいの?」

「……ええ。」


おそらくこの話もファリンネが伝えたのだろう。


「えと、実はそうなの……」

「それはアーサーに憧れて?」


お父様の名前を出されて、私は正直に頷いた。


「お父様みたいに誰かを守れるような人になりたいの……。」

「そう……」


お母様はそう言って一口紅茶をすすった。


「デレクはこの事どう思う?」

「しごく必要がありますね。」


その言葉にお母様はフフフと、笑った。


「ケベットとは話した?」

「ええ。さっきまで話してたわ。王都の魔法学校がいいんじゃないかって。」

「いいアイデアね。ケベット!いるかしら。」

「はい、ここに。」


お母様の横にケベットが現れた。


「ケベット。あなたはこの子が護衛になるのどう思うの?」

「お嬢様は、他の子よりは魔術の才能はありますが、このレベルで護衛は、まだまだですな。勉学共に鍛える必要があります。」


「ですが、」とケベットは付け加えた。


「お嬢様は熱心なお方なので心配はいらないと思いますよ。」


私の顔はポッと、赤くなる。


「あらぁ、良かったわね、ルウ。私応援するわ!ケベットとよく話しなさい。それと……」


急に声色が変わって私は身を引きしめる。


「死ぬ気で頑張りなさい。」

「は、はい!」


私は大きく頷いた。

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