episode39:朝のざわめき
次の日になった。
目が覚めたものの、昨夜アナベルと夜遅くまで話していたから、すごく眠い。二度寝をしようとしたその時─
「ぎゃあっ!」
イザベラが、カーテンをザッと開けた。途端に日光が差し込んでくる。
「目がぁ……」
「……あなたは吸血鬼ですの?」
「あはは、昨日遅くまで話しちゃったからねぇ」
アナベルが、二段ベッドの上から顔を出した。
「ふわぁーおはよう」
「おはよう!今日から授業だねぇ」
「……のんびりしてると遅刻するわよ」
イザベラは、そう言うと先にベッドルームを出ていく。
「はーい」
私は体を起こすと、後に続いた。
制服に着替えて身支度をしていると、部屋のチャイムが鳴った。「はーい」と言って、アナベルがドアを開けに行く。しばらくして、アナベルが朝食がのったトレイを団欒スペースに運んできた。
朝食は、決まった時間に精霊が部屋まで届けてくれるらしい。売店まで買いに行かずにすんでありがたいけど、寝坊すると朝食はないみたい。
……絶対、寝坊しないようにしよう。
「朝食も美味しそうだねぇ」
皿の上にはマーガリンパンが二つ置かれていて、色とりどりのサラダもある。
「いただきまーす」
三人で囲んで朝食を取る。
「今日は、召喚術学だねぇ」
「そうね。めちゃくちゃ緊張する……」
私はチラリと、イザベラを見た。なんだか顔色が暗いのは気のせいだろうか。いや、昨日会ったばかりなんだけれども!
「そういえば、ルウラはA組だよね?」
「うん、そうよ」
「そっかー、じゃあクラス離れちゃうね」
アナベルにそう言われて、私は持っていたパンを、ポロリと落とした。
「ルウラ、パン落ちたよ」
「クラス……別なの?」
「ごめん、言ってなかったね。私、試験の結果悪かったからC組なんだ」
ガビーン……
そうか……寮の部屋は、クラス関係ないのか。
「まあ、今日の召喚術学は全クラス合同みたいだから、大丈夫だよ」
「そ、そうよね。それで……」
イザベラは何組?と、顔を向けると、
「あたし、あなた達とは一緒に行きませんので先に行っておいてください。」
そう言い、先に立ち上がってしまった。
「えっ、イザベラ……」
パタンと、ドアが閉まる音が聞こえる。
「……イザベラ、なんか変じゃない?」
コソッとアナベルに耳打ちすると、首を傾げられた。
「そうかな?」
「なんかずっと下向いてるし、暗いよ」
「何かあったのかな」
ベッドルームからは物音一つさえしない。
「仕方ない、先行きますか」
「そうだね……」
私たちは荷物を持ち、食器がのったトレイを持つと、部屋を出た。
返却口にトレイを置き、教室がある建物へと向かう。少し歩くと、大きくて歴史が感じられる建物が見えてきた。
「よし、行くわよ……」
「うん……」
校舎の扉に手をかけた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。重たい扉が静かに開き、ひんやりとした空気が頬に触れる。
校舎の中へ入った瞬間、ざわりと空気が揺れた。
あちこちから話し声が聞こえ、廊下にはすでに多くの生徒が集まっている。
「すごいね……」
人の流れに飲み込まれそうになり、私たちは思わず立ち止まる。
「というか、皆仲良くなるの早くない……?」
どこを見ても、皆おしゃべりをしている。
これがヴェルディアか……!
「ルウラ、A組は二階みたいだね」
案内図を見ながら、アナベルが言う。
「えっ、C組は一階なのか……」
途端に不安が押し寄せてくる。そんな私の肩を、アナベルはポンっと叩いた。
「ルウラは、優しいし明るいから大丈夫だよ」
「アナベルっ……!」
「じゃあ、また召喚術学の時にね」
「ええ」
アナベルは、手を振って去っていった。私は、緊張した面持ちで階段を登る。
ここか……
A組と書かれた教室に着いた。中からざわざわと、話し声がする。
踏ん張りどころよ、ルウラ・クラーク!
私はドアに手を掛けると、教室に足を踏み入れた。数人がこちらを向き、目が合う。しかし、フイッと逸らされた。
えっ、怖いんだけどぉ……
黒板に座席表が掲示されていて、私はそれを確認してから席に向かう。
前の席の子は、首席のエマ・クリーンだった。緊張しているのかブルブル震えている。
「こ、こんにちは……」
「ヒッ……」
バッと振り返られて、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。
「あの……ルウラ・クラークです。よろしくね」
「えっ、ええええエマ・クリーンです……。よろしくお願いします……」
ペコリと頭を下げると、すぐ前を向いてしまった。
……これから話しかけていこう。
私は椅子に腰を下ろす。荷物を机にかけると、右隣の男子が声を掛けてきた。赤みがかかったチャラそうな男子で、足が長いのか机が窮屈そうだ。
「俺、フィン・スコット」
「ルウラよ、よろしく」
「よろー。なぁ、隣のヤツ起こしてくんね?」
「うん?」
私は左隣の席を見る。ブロンドの髪の男子が、グースカと寝ていた。
「この人誰よ」
「カルロス・エバンス。俺の友達」
「友達なら自分が起こせばいいじゃない」
「俺もそうしたいけど、この前起こしたら顔ビンタされてさぁ……」
えっ、結構問題児なの?
私はカルロスから少し距離をとる。
「それ聞いてもっと嫌になったわ。放っておけばいいんじゃない?」
「だって、俺クラスに話せるヤツいないんだよ」
「……今私と話してるじゃない」
「あ、そっか」
そう言って、フィンはポンと拳を掌に打った。
A組の人、個性強すぎじゃない……?
私がフゥと息をついた瞬間─
「おっはー!!」
女の子の挨拶が教室に響き渡った。見ると、高めのポニーテールをした、アプリコット色の髪の女の子が立っていた。
誰も挨拶を返してくれないことを気にせず、私の左斜め前の席に座る。
「おっはー」
彼女は隣の席のエマに挨拶したが、ぺこりと返されて終わっていた。
……ううん、個性が強すぎる。
私は再度、そう思うのだった。
少ししてチャイムが鳴り、男の先生が入ってきた。
確か入学式で司会をしていた先生!
「皆さん、揃ってますね」
先生が皆を見回す。そして、あからさまに嫌な顔をした。
「……いろいろと問題児がいますが、共に頑張りましょう」
パッと目が合ってしまった。私は慌てて逸らす。
……私、問題児じゃないわよね?
先生は、出席簿をパタンと教卓に置いた。
「マックス・リード、魔法工具担当。これからA組を担当します。よろしく」
そう言うと、マックス先生は出席を取り始めた。
「では、今日の召喚術学について、軽く説明をしておきます」
出席を取り終わり、マックス先生はプリントを取り出す。
「えー場所は第一儀式場、全クラス合同で行います。」
儀式場……
厳かな名前にドキッとする。
「開始時刻は……あー今から15分後ですね。遅刻しないように移動してください」
その後、簡単な説明をしてホームルームが終わった。終わると同時に、皆が移動を始める。
「おし、ルウラ行くか」
フィンが声を掛けてきた。
「別にいいけど、なんで私?」
チラリと、隣の男子を見る。
ホームルームの時は体を起こしていたのに、もう突っ伏して寝ていた。
「カルロスと行けばいいじゃない」
「だって寝てるじゃん」
「はぁ」
私は息をつくと、カルロスをチョンチョンとつつく。
「カルロス・エバンス、起きなさい。あなたの友人が寂しそうよ」
モゾリと、体が動いた。
「……んだよ」
カルロスがこちらを向く。吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳と目が合い、胸がどくりと鳴った。
「カルロスが起きたー!!!」
「うるっさいなぁ……」
隣でフィンが騒いでいる。
「じゃ、そういうことで。……エマ一緒に行かない?」
男子二人を放っておいて、私はエマに声を掛ける。
「い、いいんですか?」
「ええ、行きましょ!」
案内図で位置を確認すると、私たちは教室を出た。
「精霊召喚、緊張するな」
「僕はもう召喚できてるから、参加しないけどな」
「うわっ、そうだったかー。ルウラは初めて?」
……ゔゔん。
「なあ、ルウラ」
「ちょっとねえ」
私は後ろを振り向いた。フィンがこちらを見下ろしている。
この人背高いんだよな!全く!
「私はエマと喋りたいの。カルロスと話してなさいよ」
「いいじゃん、皆で話したら。エマは初めて?」
突然話しかけられて、エマがビクッとした。
「はっ、はいぃ……」
「そうだよな。ちゃんと召喚できるかなぁ」
主にフィンの独り言だったが、四人で話していると第一儀式場に着いた。
ドアは開かれているが、中は薄暗くてよく見えない。
「すっげ。でっけぇな」
後ろで、のほほんとフィンが言ってる中、私はギュッと拳を握りしめる。
……評価はここから始まってる。
「よし、行くか……」
私は高鳴る胸を沈め、中へ踏み入れた。




