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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
39/50

episode39:朝のざわめき

次の日になった。

目が覚めたものの、昨夜アナベルと夜遅くまで話していたから、すごく眠い。二度寝をしようとしたその時─


「ぎゃあっ!」


イザベラが、カーテンをザッと開けた。途端に日光が差し込んでくる。


「目がぁ……」

「……あなたは吸血鬼ですの?」

「あはは、昨日遅くまで話しちゃったからねぇ」


アナベルが、二段ベッドの上から顔を出した。


「ふわぁーおはよう」

「おはよう!今日から授業だねぇ」

「……のんびりしてると遅刻するわよ」


イザベラは、そう言うと先にベッドルームを出ていく。


「はーい」


私は体を起こすと、後に続いた。

制服に着替えて身支度をしていると、部屋のチャイムが鳴った。「はーい」と言って、アナベルがドアを開けに行く。しばらくして、アナベルが朝食がのったトレイを団欒スペースに運んできた。

朝食は、決まった時間に精霊が部屋まで届けてくれるらしい。売店まで買いに行かずにすんでありがたいけど、寝坊すると朝食はないみたい。

……絶対、寝坊しないようにしよう。


「朝食も美味しそうだねぇ」


皿の上にはマーガリンパンが二つ置かれていて、色とりどりのサラダもある。


「いただきまーす」


三人で囲んで朝食を取る。


「今日は、召喚術学だねぇ」

「そうね。めちゃくちゃ緊張する……」


私はチラリと、イザベラを見た。なんだか顔色が暗いのは気のせいだろうか。いや、昨日会ったばかりなんだけれども!


「そういえば、ルウラはA組だよね?」

「うん、そうよ」

「そっかー、じゃあクラス離れちゃうね」


アナベルにそう言われて、私は持っていたパンを、ポロリと落とした。


「ルウラ、パン落ちたよ」

「クラス……別なの?」

「ごめん、言ってなかったね。私、試験の結果悪かったからC組なんだ」


ガビーン……

そうか……寮の部屋は、クラス関係ないのか。


「まあ、今日の召喚術学は全クラス合同みたいだから、大丈夫だよ」

「そ、そうよね。それで……」


イザベラは何組?と、顔を向けると、


「あたし、あなた達とは一緒に行きませんので先に行っておいてください。」


そう言い、先に立ち上がってしまった。


「えっ、イザベラ……」


パタンと、ドアが閉まる音が聞こえる。


「……イザベラ、なんか変じゃない?」


コソッとアナベルに耳打ちすると、首を傾げられた。


「そうかな?」

「なんかずっと下向いてるし、暗いよ」

「何かあったのかな」


ベッドルームからは物音一つさえしない。


「仕方ない、先行きますか」

「そうだね……」


私たちは荷物を持ち、食器がのったトレイを持つと、部屋を出た。

返却口にトレイを置き、教室がある建物へと向かう。少し歩くと、大きくて歴史が感じられる建物が見えてきた。


「よし、行くわよ……」

「うん……」


校舎の扉に手をかけた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。重たい扉が静かに開き、ひんやりとした空気が頬に触れる。

校舎の中へ入った瞬間、ざわりと空気が揺れた。

あちこちから話し声が聞こえ、廊下にはすでに多くの生徒が集まっている。


「すごいね……」


人の流れに飲み込まれそうになり、私たちは思わず立ち止まる。


「というか、皆仲良くなるの早くない……?」


どこを見ても、皆おしゃべりをしている。

これがヴェルディアか……!


「ルウラ、A組は二階みたいだね」


案内図を見ながら、アナベルが言う。


「えっ、C組は一階なのか……」


途端に不安が押し寄せてくる。そんな私の肩を、アナベルはポンっと叩いた。


「ルウラは、優しいし明るいから大丈夫だよ」

「アナベルっ……!」

「じゃあ、また召喚術学の時にね」

「ええ」


アナベルは、手を振って去っていった。私は、緊張した面持ちで階段を登る。


ここか……


A組と書かれた教室に着いた。中からざわざわと、話し声がする。


踏ん張りどころよ、ルウラ・クラーク!


私はドアに手を掛けると、教室に足を踏み入れた。数人がこちらを向き、目が合う。しかし、フイッと逸らされた。


えっ、怖いんだけどぉ……


黒板に座席表が掲示されていて、私はそれを確認してから席に向かう。

前の席の子は、首席のエマ・クリーンだった。緊張しているのかブルブル震えている。


「こ、こんにちは……」

「ヒッ……」


バッと振り返られて、エメラルドグリーンの瞳と目が合った。


「あの……ルウラ・クラークです。よろしくね」

「えっ、ええええエマ・クリーンです……。よろしくお願いします……」


ペコリと頭を下げると、すぐ前を向いてしまった。


……これから話しかけていこう。


私は椅子に腰を下ろす。荷物を机にかけると、右隣の男子が声を掛けてきた。赤みがかかったチャラそうな男子で、足が長いのか机が窮屈そうだ。


「俺、フィン・スコット」

「ルウラよ、よろしく」

「よろー。なぁ、隣のヤツ起こしてくんね?」

「うん?」


私は左隣の席を見る。ブロンドの髪の男子が、グースカと寝ていた。


「この人誰よ」

「カルロス・エバンス。俺の友達」

「友達なら自分が起こせばいいじゃない」

「俺もそうしたいけど、この前起こしたら顔ビンタされてさぁ……」


えっ、結構問題児なの?


私はカルロスから少し距離をとる。


「それ聞いてもっと嫌になったわ。放っておけばいいんじゃない?」

「だって、俺クラスに話せるヤツいないんだよ」

「……今私と話してるじゃない」

「あ、そっか」


そう言って、フィンはポンと拳を掌に打った。


A組の人、個性強すぎじゃない……?


私がフゥと息をついた瞬間─


「おっはー!!」


女の子の挨拶が教室に響き渡った。見ると、高めのポニーテールをした、アプリコット色の髪の女の子が立っていた。

誰も挨拶を返してくれないことを気にせず、私の左斜め前の席に座る。


「おっはー」


彼女は隣の席のエマに挨拶したが、ぺこりと返されて終わっていた。


……ううん、個性が強すぎる。


私は再度、そう思うのだった。


少ししてチャイムが鳴り、男の先生が入ってきた。

確か入学式で司会をしていた先生!


「皆さん、揃ってますね」


先生が皆を見回す。そして、あからさまに嫌な顔をした。


「……いろいろと問題児がいますが、共に頑張りましょう」


パッと目が合ってしまった。私は慌てて逸らす。


……私、問題児じゃないわよね?


先生は、出席簿をパタンと教卓に置いた。


「マックス・リード、魔法工具担当。これからA組を担当します。よろしく」


そう言うと、マックス先生は出席を取り始めた。


「では、今日の召喚術学について、軽く説明をしておきます」


出席を取り終わり、マックス先生はプリントを取り出す。


「えー場所は第一儀式場、全クラス合同で行います。」


儀式場……


厳かな名前にドキッとする。


「開始時刻は……あー今から15分後ですね。遅刻しないように移動してください」


その後、簡単な説明をしてホームルームが終わった。終わると同時に、皆が移動を始める。


「おし、ルウラ行くか」


フィンが声を掛けてきた。


「別にいいけど、なんで私?」


チラリと、隣の男子を見る。

ホームルームの時は体を起こしていたのに、もう突っ伏して寝ていた。


「カルロスと行けばいいじゃない」

「だって寝てるじゃん」

「はぁ」


私は息をつくと、カルロスをチョンチョンとつつく。


「カルロス・エバンス、起きなさい。あなたの友人が寂しそうよ」


モゾリと、体が動いた。


「……んだよ」


カルロスがこちらを向く。吸い込まれそうなサファイアブルーの瞳と目が合い、胸がどくりと鳴った。


「カルロスが起きたー!!!」

「うるっさいなぁ……」


隣でフィンが騒いでいる。


「じゃ、そういうことで。……エマ一緒に行かない?」


男子二人を放っておいて、私はエマに声を掛ける。


「い、いいんですか?」

「ええ、行きましょ!」


案内図で位置を確認すると、私たちは教室を出た。


「精霊召喚、緊張するな」

「僕はもう召喚できてるから、参加しないけどな」

「うわっ、そうだったかー。ルウラは初めて?」


……ゔゔん。


「なあ、ルウラ」

「ちょっとねえ」


私は後ろを振り向いた。フィンがこちらを見下ろしている。


この人背高いんだよな!全く!


「私はエマと喋りたいの。カルロスと話してなさいよ」

「いいじゃん、皆で話したら。エマは初めて?」


突然話しかけられて、エマがビクッとした。


「はっ、はいぃ……」

「そうだよな。ちゃんと召喚できるかなぁ」


主にフィンの独り言だったが、四人で話していると第一儀式場に着いた。

ドアは開かれているが、中は薄暗くてよく見えない。


「すっげ。でっけぇな」


後ろで、のほほんとフィンが言ってる中、私はギュッと拳を握りしめる。


……評価はここから始まってる。


「よし、行くか……」


私は高鳴る胸を沈め、中へ踏み入れた。 

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