episode37:波乱の幕開け
入学式が始まる時間が近付き、身支度を整える。
「ルウラー、準備できたよ!」
「今行く!」
鏡で制服をチェックし終えると、入口で待つアナベルの所に行く。イザベラは、まだいなかった。
「イザベラは?」
「誘ったけど、断られちゃった」
「……そっか。なら先に行きましょう。」
断られたのに、無理やり連れていく必要はない。私たちは先に部屋を出た。
「入学式って大聖堂でやるらしいね」
「そうみたいね。大きいんだろうなぁ」
たわいのない話をしながら、歩いていく。
「というか、こっちの道であってる?」
不意にアナベルに尋ねると、キョトンとした顔をされた。
「え?どこにあるか知らないの?」
私は、パチパチとまばたきをする。
「っ、戻ろう!」
慌てて私たちは来た道を戻る。しかし─
広い!広すぎる!!
同じ道を何回も通っている気がする。
まさか自分が方向音痴だとは!入学式から遅刻は、流石にまずい!
「ルウラぁ、どうしよう……」
アナベルが、泣きそうな声で言う。
……落ち着け!今頼られてるのよ!?
「アナベル!こっちよ!」
「今そっちから来たんだよ……」
……はっ!
「じゃあこっち!」
「さっき行き止まりだったでしょぉ……」
「ダメだ私……」
ズーンと二人で落ち込んでいるその時─
「見つけましたわよ!二匹の迷いザル!!」
この声は─!
「イザベラぁぁっ!!」
目の前に、イザベラが仁王立ちしていた。
「来てくれてありがとぉぉー!!」
抱きしめる寸前の勢いで言ったせいか、イザベラは分かりやすく引いた顔をした。
「……別にあなたたちのために、探しに来たわけではないから!ルームメイトが遅刻だなんて、あたしにもとばっちりが来ますわ!」
イザベラは言い切って、ズンズンと歩き出す。私とアナベルは顔を見合せて笑うと、その後を追った。
急いで大聖堂に入ると、すでに静まり返っており、先生に注意されてしまった。しかし、イザベラが上手く説明してくれて事なきを得た。
大聖堂の四人がけの椅子に座ると、中を見回した。
たくさんのステンドグラスが天井まであって、前と後ろには彫刻が置かれている。
キョロキョロしていると、横に立っている男の先生と目が合った。軽く睨まれて、私は慌てて前を向く。
「それでは……」
一人の教師がマイクを口に近付ける。
「えー、入学おめでとうございます。最初にヴェルディア学園、校長のご挨拶です」
すると、前にヨロヨロと校長先生が現れた。
大丈夫かな、こけそうだな……
そう思っていると、校長先生が突然視界から消えた。前の方でざわめきが起こる。
「大丈夫ですか!」
数人の教師が駆け寄る。やっぱりこけたようだ。
「ええ……ゴホン。すみません……」
校長先生は、ヨロヨロと立ち上がった。その時にマイクが床にあたり、キーンと音が鳴る。
思わず、体をすくめた。
「すみませんね……えー、入学おめでとうございます。私は、ダリ・バリントンと申します」
ようやく話が始まった。
「入学できて嬉しい気持ちが多いと思います。しかし、この先にはつらいと思うこと、泣きたいと思うこと、家に帰りたいと思うこと、学校をやめたいと思うことがあるかもしれません」
……ん?どれだけなのかしら?
「しっかし!!」
大きな声が、大聖堂の中に響き渡る。
「それを乗り越えるからこそ、才能が開花されるのです!あなたたちはまだルーキーですが、そんなものは関係ありません!!」
勢いある言い方に、皆押されている。
「ぜひあなたたちはの手で!力で!この学校、いやこの国を!!作っていってくだしゃいっ!!……ゴホッ」
最後は噛んでしまったよう。惜しいっ!
「えー、すばらしいご挨拶をありがとうございました。生徒の皆さんの胸にも、きっと感動が届いたことでしょう」
感動……か。ツッコミどころが多すぎて、感動する暇がなかったなぁ……。
「続いて、新入生代表挨拶。入学試験首席、エマ・クリーン」
すると、端から茶髪の髪の毛を三つ編みに結んだ、女の子が出てきた。恐る恐る壇上に行き、しばらくした後、ステージ裏の先生に話しかける。
「すみましぇーん!やっぱり無理ですぅ」
マイク越しに聞こえてきて、周りがざわざわしだす。
「静かに。エマ・クリーン、一言だけでいいのでお願いします」
女の子は、震える手でマイクを手に取ると、口を開く。
「あっ、ああああのっ、エマ・クリーンですぅ」
もう半泣きだ。そしてピクピク震えると、立ったまま気絶してしまった。
その光景を見て、またざわざわし出す。
……えっ、大丈夫そう?
「……ったく」
悪態をつく声が、マイク越しに聞こえた。
先生、聞こえてます……
「では、次席の生徒に挨拶してもらいます」
辺りが静まり返った。
「ルウラ・クラーク!いますよね?」
「!?」
ギョッとして、アナベルとイザベラがこっちを向く。
私が次席だって!?
「早く出て来なさい」
私はぎこちない動きで立ち上がる。皆の視線が私一人に集まった。
「一言だけでいいので前に出て貰えます?」
これ、抜き打ちでひどくないですか?
エマは、いつの間にか回収されていて、私はロボットのように前に出て、壇上に立った。途端に、生徒の多さに圧倒される。これは、気絶しても仕方がない……。
「どっ、どどどうも。ルウラ・クラークです……」
何人かの生徒が、吹き出す声が聞こえた。
「えええっと……辛いこともあるかもしれませんが、頑張りましょおぅ……」
「はい、ありがとうございます。降りていいですよ」
私はぺこりと頭を下げて降りる。
他に言うことなかったのかしら……
急に後悔が押し寄せてきた。
席に戻ると、アナベルがフォローしてくれるかのように背中を軽く叩いてくれ、イザベラにはため息をつかれた。
夢の学園生活がこんな感じでスタートするとは……。
私は、トホホと肩を落とした。
どうやら私の学園生活は、最初から波乱だらけらしい。




