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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
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episode37:波乱の幕開け

入学式が始まる時間が近付き、身支度を整える。


「ルウラー、準備できたよ!」

「今行く!」


鏡で制服をチェックし終えると、入口で待つアナベルの所に行く。イザベラは、まだいなかった。


「イザベラは?」

「誘ったけど、断られちゃった」

「……そっか。なら先に行きましょう。」


断られたのに、無理やり連れていく必要はない。私たちは先に部屋を出た。


「入学式って大聖堂でやるらしいね」

「そうみたいね。大きいんだろうなぁ」


たわいのない話をしながら、歩いていく。


「というか、こっちの道であってる?」


不意にアナベルに尋ねると、キョトンとした顔をされた。


「え?どこにあるか知らないの?」


私は、パチパチとまばたきをする。


「っ、戻ろう!」


慌てて私たちは来た道を戻る。しかし─


広い!広すぎる!!


同じ道を何回も通っている気がする。


まさか自分が方向音痴だとは!入学式から遅刻は、流石にまずい!


「ルウラぁ、どうしよう……」


アナベルが、泣きそうな声で言う。


……落ち着け!今頼られてるのよ!?


「アナベル!こっちよ!」

「今そっちから来たんだよ……」


……はっ!


「じゃあこっち!」

「さっき行き止まりだったでしょぉ……」

「ダメだ私……」


ズーンと二人で落ち込んでいるその時─


「見つけましたわよ!二匹の迷いザル!!」


この声は─!


「イザベラぁぁっ!!」


目の前に、イザベラが仁王立ちしていた。


「来てくれてありがとぉぉー!!」


抱きしめる寸前の勢いで言ったせいか、イザベラは分かりやすく引いた顔をした。


「……別にあなたたちのために、探しに来たわけではないから!ルームメイトが遅刻だなんて、あたしにもとばっちりが来ますわ!」


イザベラは言い切って、ズンズンと歩き出す。私とアナベルは顔を見合せて笑うと、その後を追った。


急いで大聖堂に入ると、すでに静まり返っており、先生に注意されてしまった。しかし、イザベラが上手く説明してくれて事なきを得た。

大聖堂の四人がけの椅子に座ると、中を見回した。

たくさんのステンドグラスが天井まであって、前と後ろには彫刻が置かれている。

キョロキョロしていると、横に立っている男の先生と目が合った。軽く睨まれて、私は慌てて前を向く。


「それでは……」


一人の教師がマイクを口に近付ける。


「えー、入学おめでとうございます。最初にヴェルディア学園、校長のご挨拶です」


すると、前にヨロヨロと校長先生が現れた。


大丈夫かな、こけそうだな……


そう思っていると、校長先生が突然視界から消えた。前の方でざわめきが起こる。


「大丈夫ですか!」


数人の教師が駆け寄る。やっぱりこけたようだ。


「ええ……ゴホン。すみません……」


校長先生は、ヨロヨロと立ち上がった。その時にマイクが床にあたり、キーンと音が鳴る。

思わず、体をすくめた。


「すみませんね……えー、入学おめでとうございます。私は、ダリ・バリントンと申します」


ようやく話が始まった。


「入学できて嬉しい気持ちが多いと思います。しかし、この先にはつらいと思うこと、泣きたいと思うこと、家に帰りたいと思うこと、学校をやめたいと思うことがあるかもしれません」


……ん?どれだけなのかしら?


「しっかし!!」


大きな声が、大聖堂の中に響き渡る。


「それを乗り越えるからこそ、才能が開花されるのです!あなたたちはまだルーキーですが、そんなものは関係ありません!!」


勢いある言い方に、皆押されている。


「ぜひあなたたちはの手で!力で!この学校、いやこの国を!!作っていってくだしゃいっ!!……ゴホッ」


最後は噛んでしまったよう。惜しいっ!


「えー、すばらしいご挨拶をありがとうございました。生徒の皆さんの胸にも、きっと感動が届いたことでしょう」


感動……か。ツッコミどころが多すぎて、感動する暇がなかったなぁ……。


「続いて、新入生代表挨拶。入学試験首席、エマ・クリーン」


すると、端から茶髪の髪の毛を三つ編みに結んだ、女の子が出てきた。恐る恐る壇上に行き、しばらくした後、ステージ裏の先生に話しかける。


「すみましぇーん!やっぱり無理ですぅ」


マイク越しに聞こえてきて、周りがざわざわしだす。


「静かに。エマ・クリーン、一言だけでいいのでお願いします」


女の子は、震える手でマイクを手に取ると、口を開く。


「あっ、ああああのっ、エマ・クリーンですぅ」


もう半泣きだ。そしてピクピク震えると、立ったまま気絶してしまった。

その光景を見て、またざわざわし出す。


……えっ、大丈夫そう?


「……ったく」


悪態をつく声が、マイク越しに聞こえた。


先生、聞こえてます……


「では、次席の生徒に挨拶してもらいます」


辺りが静まり返った。


「ルウラ・クラーク!いますよね?」

「!?」


ギョッとして、アナベルとイザベラがこっちを向く。


私が次席だって!?


「早く出て来なさい」


私はぎこちない動きで立ち上がる。皆の視線が私一人に集まった。


「一言だけでいいので前に出て貰えます?」


これ、抜き打ちでひどくないですか?


エマは、いつの間にか回収されていて、私はロボットのように前に出て、壇上に立った。途端に、生徒の多さに圧倒される。これは、気絶しても仕方がない……。


「どっ、どどどうも。ルウラ・クラークです……」


何人かの生徒が、吹き出す声が聞こえた。


「えええっと……辛いこともあるかもしれませんが、頑張りましょおぅ……」

「はい、ありがとうございます。降りていいですよ」


私はぺこりと頭を下げて降りる。


他に言うことなかったのかしら……


急に後悔が押し寄せてきた。

席に戻ると、アナベルがフォローしてくれるかのように背中を軽く叩いてくれ、イザベラにはため息をつかれた。


夢の学園生活がこんな感じでスタートするとは……。


私は、トホホと肩を落とした。

どうやら私の学園生活は、最初から波乱だらけらしい。

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