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アイディールに捧ぐ物語  作者: 朝霧唯凪
第三章:ヴェルディア学園
36/55

episode36:始まりはぎこちなく

「生徒の皆さんは、こちらに来てくださいー!」


門をくぐるとすぐに案内があり、人の流れについていく。

どうやら寮の部屋番号と、場所を教えてもらうよう。


「ルウラ・クラークさんですね。部屋番号は、305。場所は記載しておりますので見ながら行ってください」


部屋の鍵と、場所が書いてあるプリントを受け取り、私は寮へと歩き出す。

丁寧に説明を書いてくれていたおかげで、迷わずたどり着くことができた。

ピカピカに磨かれた階段を三階まで上がり、305号室に着いた。

深呼吸をして、ドキドキしながら部屋の鍵を開ける。


「うわぁ……」


目に飛び込んできたのは、思った以上に広々とした団欒スペース。柔らかいソファと低めのテーブルが置かれ、窓から入る光で部屋全体が暖かく照らされている。

その奥には、小さなキッチンが見える。モダンなデザインで、白いカウンターやステンレスのシンクが整然と並び、思わず「おしゃれ……」と呟いた。

団欒スペースの横には、ベッドルームと書かれた部屋がある。

荷物を置こうと扉を開けると、黒髪でボブの女の子が窓から外を見ていた。


「こ、こんにちは」


恐る恐る声をかけると、女の子は振り返った。まん丸で大きい目が愛らしく、人懐っこそうな雰囲気をまとっている。

彼女は私に気付くと、にこりと笑った。


「こんにちは!私、アナベル・フリッツ。あなたは?」

「ルウラ・クラークよ。よろしくね」

「ルウラ、よろしく!」


挨拶を交わすと、私は部屋を見渡す。

二段ベッドが二つ並び、大きな窓から柔らかな光が差し込んでいる。机と椅子も置かれ、個室としての落ち着きがある。


「すごく綺麗な部屋ね」

「そうだよね!綺麗すぎてビックリしちゃった」


「ところで……」と私は視線を彷徨わせる。


「ここって二人部屋?」

「いや、確かもう一人……」


アナベルの声がそこで止まると同時に、ベッドルームのドアが開いた。


「ごきげんよう」


振り向くと、綺麗なブロンドの髪をハーフアップに結んだ女の子が立っていた。高貴な雰囲気が漂っている。


「あたし、イザベラ・オズボーンよ」


私とアナベルは、自己紹介をする前にイザベラの肩に視線を移す。


「無視するつもりかしら?」

「……イザベラ。肩にでっかい虫がいるわ」


私が言うと、イザベラは肩に視線を移し、短い悲鳴を上げた。


「私とってあげようか?」


アナベルが言うも、イザベラは断り、乱暴に手ではらった。

軽く咳払いをして、アナベルが口を開く。


「えーっと、私はアナベル・フリッツだよ」

「私はルウラ・クラーク」


アナベルが「よろしくね」と笑いかけると、イザベラはちらっと見て荷物を壁際に置いた。途端に、アナベルが悲しそうな顔になる。


……無視しなくてもいいんじゃない?


すると、イザベラはアナベルに視線を移す。


「……アナベル・フリッツ、あなた庶民の子よね。よくここに入れたわね」

「え……」

「ちょっと!」

 

今のは聞き捨てならない。私は、イザベラを睨みつけた。


「そんなの関係ないじゃない!アナベルは、努力してヴェルディアに受かったんだから!」


イザベラは、冷ややかな目で私を見た。

 

「……クラーク家の人ね。賢そうと思ってたけど、口を開いたら頭悪く見えるわね」


ムキー!!


ムカッとしたけど、何も言わずにアナベルの手を引いて部屋を出た。


……これからが心配。


顔をしかめたまま、団欒スペースのソファにボスッと座る。気まずい雰囲気の中、アナベルが口を開いた。


「……ここって、お茶とか置いてあるのかな」

「分かんない。見てみる?」


お茶を飲む気分ではなかったけど、アナベルに八つ当たりしても仕方がない。気持ちを切り替えて、私は腰を上げた。

置いてある棚を開けると、紅茶のセットが置かれていた。ありがたいことに、ティーカップも三つ用意されてある。


「ルウラ、紅茶飲める?」

「飲めるよ」


入学式まではまだ時間があるので、お茶をすることにした。

ティーポットに紅茶を入れて、カップに注ぐ。途端に、甘い香りが漂った。


「……私、イザベラ呼んでくるよ」

「え?」


アナベルはそう言うと、キッチンを飛び出して、ベッドルームへと行ってしまった。


……揉めないといいんだけど。


しばらく待っていると、アナベルが一人で戻ってきた。


「庶民とお茶は飲まないって」

「ふん!じゃあもういいわよ」 

「……カップ三つ用意してない?」


アナベルに突っ込まれてしまった。

結局三人分入れると、イザベラの所に持っていくことにした。

ベッドルームに行くと、イザベラはうずくまっていた。


「何?さっきの仕返しでもしに来たの?」


ギロリと睨まれる。

どうして、そんなに敵意がむき出しなのか。

私は呆れてため息をついた。


「そんなわけないじゃない。紅茶、ここに置いとくわね」

「いらないって言ったわよね」

「……飲まないんだったら私が飲むから」

「一人で二杯?」


グッと私は詰まる。


「と、とにかく、飲みなさいよね!」


私は机に紅茶を置くと、部屋を出る。


……何このツンデレな感じ。恥ずかしい……


団欒スペースでアナベルとお話しながら、優雅に紅茶を飲んでいると、イザベラが部屋から出てきた。手にはティーカップを持っている。


「あ、イザベラ。おいしかったでしょ」

「……べ、別に入れて欲しいとか言ってないし、お礼言いませんから!」


その言い方に、アナベルと笑ってしまった。


仲良くなるのはまだな気がするけど、イザベラともなんとかやっていけそう。

新しい部屋、新しい同室。

波乱はありそうだけど、この場所での生活が、少しだけ楽しみになった。

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