episode36:始まりはぎこちなく
「生徒の皆さんは、こちらに来てくださいー!」
門をくぐるとすぐに案内があり、人の流れについていく。
どうやら寮の部屋番号と、場所を教えてもらうよう。
「ルウラ・クラークさんですね。部屋番号は、305。場所は記載しておりますので見ながら行ってください」
部屋の鍵と、場所が書いてあるプリントを受け取り、私は寮へと歩き出す。
丁寧に説明を書いてくれていたおかげで、迷わずたどり着くことができた。
ピカピカに磨かれた階段を三階まで上がり、305号室に着いた。
深呼吸をして、ドキドキしながら部屋の鍵を開ける。
「うわぁ……」
目に飛び込んできたのは、思った以上に広々とした団欒スペース。柔らかいソファと低めのテーブルが置かれ、窓から入る光で部屋全体が暖かく照らされている。
その奥には、小さなキッチンが見える。モダンなデザインで、白いカウンターやステンレスのシンクが整然と並び、思わず「おしゃれ……」と呟いた。
団欒スペースの横には、ベッドルームと書かれた部屋がある。
荷物を置こうと扉を開けると、黒髪でボブの女の子が窓から外を見ていた。
「こ、こんにちは」
恐る恐る声をかけると、女の子は振り返った。まん丸で大きい目が愛らしく、人懐っこそうな雰囲気をまとっている。
彼女は私に気付くと、にこりと笑った。
「こんにちは!私、アナベル・フリッツ。あなたは?」
「ルウラ・クラークよ。よろしくね」
「ルウラ、よろしく!」
挨拶を交わすと、私は部屋を見渡す。
二段ベッドが二つ並び、大きな窓から柔らかな光が差し込んでいる。机と椅子も置かれ、個室としての落ち着きがある。
「すごく綺麗な部屋ね」
「そうだよね!綺麗すぎてビックリしちゃった」
「ところで……」と私は視線を彷徨わせる。
「ここって二人部屋?」
「いや、確かもう一人……」
アナベルの声がそこで止まると同時に、ベッドルームのドアが開いた。
「ごきげんよう」
振り向くと、綺麗なブロンドの髪をハーフアップに結んだ女の子が立っていた。高貴な雰囲気が漂っている。
「あたし、イザベラ・オズボーンよ」
私とアナベルは、自己紹介をする前にイザベラの肩に視線を移す。
「無視するつもりかしら?」
「……イザベラ。肩にでっかい虫がいるわ」
私が言うと、イザベラは肩に視線を移し、短い悲鳴を上げた。
「私とってあげようか?」
アナベルが言うも、イザベラは断り、乱暴に手ではらった。
軽く咳払いをして、アナベルが口を開く。
「えーっと、私はアナベル・フリッツだよ」
「私はルウラ・クラーク」
アナベルが「よろしくね」と笑いかけると、イザベラはちらっと見て荷物を壁際に置いた。途端に、アナベルが悲しそうな顔になる。
……無視しなくてもいいんじゃない?
すると、イザベラはアナベルに視線を移す。
「……アナベル・フリッツ、あなた庶民の子よね。よくここに入れたわね」
「え……」
「ちょっと!」
今のは聞き捨てならない。私は、イザベラを睨みつけた。
「そんなの関係ないじゃない!アナベルは、努力してヴェルディアに受かったんだから!」
イザベラは、冷ややかな目で私を見た。
「……クラーク家の人ね。賢そうと思ってたけど、口を開いたら頭悪く見えるわね」
ムキー!!
ムカッとしたけど、何も言わずにアナベルの手を引いて部屋を出た。
……これからが心配。
顔をしかめたまま、団欒スペースのソファにボスッと座る。気まずい雰囲気の中、アナベルが口を開いた。
「……ここって、お茶とか置いてあるのかな」
「分かんない。見てみる?」
お茶を飲む気分ではなかったけど、アナベルに八つ当たりしても仕方がない。気持ちを切り替えて、私は腰を上げた。
置いてある棚を開けると、紅茶のセットが置かれていた。ありがたいことに、ティーカップも三つ用意されてある。
「ルウラ、紅茶飲める?」
「飲めるよ」
入学式まではまだ時間があるので、お茶をすることにした。
ティーポットに紅茶を入れて、カップに注ぐ。途端に、甘い香りが漂った。
「……私、イザベラ呼んでくるよ」
「え?」
アナベルはそう言うと、キッチンを飛び出して、ベッドルームへと行ってしまった。
……揉めないといいんだけど。
しばらく待っていると、アナベルが一人で戻ってきた。
「庶民とお茶は飲まないって」
「ふん!じゃあもういいわよ」
「……カップ三つ用意してない?」
アナベルに突っ込まれてしまった。
結局三人分入れると、イザベラの所に持っていくことにした。
ベッドルームに行くと、イザベラはうずくまっていた。
「何?さっきの仕返しでもしに来たの?」
ギロリと睨まれる。
どうして、そんなに敵意がむき出しなのか。
私は呆れてため息をついた。
「そんなわけないじゃない。紅茶、ここに置いとくわね」
「いらないって言ったわよね」
「……飲まないんだったら私が飲むから」
「一人で二杯?」
グッと私は詰まる。
「と、とにかく、飲みなさいよね!」
私は机に紅茶を置くと、部屋を出る。
……何このツンデレな感じ。恥ずかしい……
団欒スペースでアナベルとお話しながら、優雅に紅茶を飲んでいると、イザベラが部屋から出てきた。手にはティーカップを持っている。
「あ、イザベラ。おいしかったでしょ」
「……べ、別に入れて欲しいとか言ってないし、お礼言いませんから!」
その言い方に、アナベルと笑ってしまった。
仲良くなるのはまだな気がするけど、イザベラともなんとかやっていけそう。
新しい部屋、新しい同室。
波乱はありそうだけど、この場所での生活が、少しだけ楽しみになった。




